20教室? いいえ、敵地です!
2年の自分のクラスまで走ると、俊介はすぐに教室に入った。
恋華は既に来ていた。いつものように、周りを取り巻きが囲んで談笑している。
周囲に群がるクラスメイトをものともせず、俊介は恋華に話しかける。
「……れ、恋華さん。少しお話があるんですけど」
「はい? 俊介君、どうしたんですか?」
恋華の態度は猫かぶりモードになっていて、流麗かつ優雅だ。
「そんなに息を切らせて。落ち着いてください。まずは座ったらどうですか?」
俊介は恋華をじっと睨みつけて、
「そんなことより、大事な話があるんです。少しお時間をもらえませんか?」
「ここじゃ出来ない話ですか?」
「はい。できれば」
「うぅ~ん……」
俊介がそう断言して初めて、恋華の顔に戸惑いの色が浮かんだ。
大事な話――それは、今朝の告白の件であると、恋華なら既に察しているだろう。しかし表情を固くした恋華を見て、クラスメイト達は何か誤解したのか、
「おい井川。瀬戸内さん困ってるじゃねーか。元カレだからって、少し図々しくね?」
「そうよ。大体、要件も言わずに顔だけ貸せとか、失礼じゃない? 話があるなら、ここで言いなさいよ」
と、口々と不満を言い合った。
「あ、いいんですよ!」
しかし恋華は、慌てて椅子から立ち上がると、クラスメイト達に向かって手を振りながら、
「私、俊介君と元々お話をする約束をしてたんです。ただ、私の方がうっかり忘れちゃってて……。すぐに戻りますから、皆さん待っててもらえますか?」
「まあ、瀬戸内さんがそういうなら……」
クラスメイトの1人――真鍋は、口をすぼめながら、
「だってよ井川。でもさ、お前調子に乗ってんじゃねーぞ?」
「は?」
「少しくらい付き合ってたからって、彼氏ヅラすんなって意味だよ。てか、未練ありすぎじゃね? もし瀬戸内さんに何かあったら、殺すからな」
「……」
お前に何が分かる。そう言い返そうとしたが、
「あ、あはは!! も、もうこの辺でいいですよね! ほら、俊介君いきましょ! 早くしないとホームルーム始まっちゃうし!」
怒鳴り返そうとした俊介の言葉を、朗らかに恋華は遮った。
そして、
「さ、いこ? 俊介君」
そうやって自分にだけ分かるよう、軽く目配せをした。
その時、俊介は憤慨していた気持ちに冷静さを取り戻した。
ふと周囲を見渡せば、クラス中の視線が自分に向けられていた。
――ここは敵地。
さらに恋華が、素早く口パクをする。読唇術という奴だ。確かに、楽し気に話をしていた所に、いきなり乗り込んで、パーティの主役を奪おうとしたのだ。穏やかな雰囲気になるはずがない。俊介は、周りにいるクラスメイトに向けて頭を下げた。
「皆さん、お騒がせしてすみませんでした」
突然の俊介の謝罪に、クラスメイト達はざわついた。
「でも、どうしても恋華さんと話したいことがあるんです。そんなに時間はおかけしませんから、恋華さんをお借り出来ないでしょうか……?」
「いいよ。行って来いよ」
そう答えたのは、先ほど俊介に食ってかかった真鍋であった。
その一言で、険悪だった雰囲気が多少ではあるが和やかになった。
俊介は悟った。これが瀬戸内恋華なのだ。学園のアイドルにして、クイーン。偽装恋人という盾が無くなれば、このような過激派も現れるのだ。自分と別れてから更に告白が増えたという、恋華の言葉にも納得がいくというものだった。
「仲直りは出来たみたいですね。それじゃあ、行きましょうか」
恋華が口を挟むことで、クラスメイト達は完全に同意モードとなった。恋華の発言力を、まざまざと思い知らされるばかりだった。
「1つだけ聞かせて下さい。大事な話って、私に関することですか?」
「それは今ここでは言えません。2人きりになれたらお話します」
そう答えると、恋華はじっと俊介の顔を見つめた。
そのまま、体感では永遠とも思える時間が流れた時。
「わかりました。では行きましょう」
根負けしたように目を逸らしながら、恋華は呟いた。
「はい。ついてきてください」
俊介がそう言って歩き出すと、恋華も黙って教室を出て行く。
さあ、ここからが本番だ。
俊介は、緊張する自分に言い聞かせた。
果たして、恋華は佐々木と付き合っているのか。もしそうだとしたら、何が何でも止めなければならない。




