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17NO? いいえ、OKです!

「――と、いうことなんです。恋華さん」


『ふーん。そうなんだ』


 あれからすぐ。俊介は恋華に電話をかけ、妹達が会いたがってる旨を説明した。


『いきなり電話してくるから、今日のデート楽しかったねとか、そういうことを言ってくるのかと期待してたら、そういう用件なんだー』


「そ、それは……すみません。ですが、こちらもいささか事情がありまして」


『……事情? どういうこと? 全部話して?』


 電話口の恋華の口調が怪訝そうになる。

 そこで、俊介は現況をかいつまんで話した。

 今日のデート中、ずっと妹軍団が尾行していたこと。

 俊介に恋人が出来たことで、妹軍団が憤慨していること。

 そして、おそらくは俊介と恋華の仲を引き裂こうとしていること。


『そっか。噂には聞いていたけど。すんごいブラコンなんだね。俊介君の妹達』


 俊介がそれらのことを話し終えたところで、恋華から出てきた感想がこうだった。妹軍団のブラコンぶりは有名なのだが、まさかここまでとは思っていなかったらしい。それには、俊介も同様の気持ちだった。兄のデートにまでついてくるのは、明らかに親愛の情を超えている。


「――だから、別に無理にとは言いませんよ。適当に理由をつけて断りますから」


『別に無理じゃないよ? 明日はどうせ暇だし』


「いいんですか?」


『いいとも! まあいずれ行こうとは思ってたからね』


「そうですか……でも……」


 俊介は言葉を濁らせた。妹軍団は明らかに恋華に対して敵対心を抱いている。そんな状態で鉢合わせれば、最悪大喧嘩を引き起こしかねない。


『言っておくけど、私はもう行くって決めたからね。妹さん達にも伝えておいて?』


 俊介の無言を察したかのように、恋華はハッキリとした口調で言った。


『俊介君の言いたいことは分かってるよ。私のこと、心配してくれてるんでしょ?』


「ええ……。妹達が、恋華さんに何かするのではと思って……」


『だいじょーぶい』


 受話器の向こうから、恋華がくすりと笑う声がする。


『そんなこと全部覚悟の上で、それで私は俊介君に告白したんだから。立派に果たしてみせるよ。偽装恋人の役をね』


「でも。どんな目に合うか、わかったものじゃないですよ?」


 俊介がそう尋ねると、恋華はあっけらかんと、


『その時はその時だよ。それに、まだ何をされると決まったわけでもないし』


「それは…………」


 そう言われては、俊介にも返す言葉がなかった。


『結局俊介君と私が偽装恋人になるには、妹さん達と向き合わないわけにはいかないから。逆に言うと、妹さん達に認めてもらえば、もう私達に障害はなくなるじゃない?』


『確かに……そうですね……」


 それには、俊介も同感だった。

 元々、妹の兄離れを促すために、恋華の提案に応じたのだった。

 ゆえに恋華と妹軍団を引き合わせることは半ば決定事項であって、これを乗り越えられないようでは、もはや一生妹達のブラコンを治す手立てはないだろう。


『で・も・ね?』


 耳元の恋華の声が、急に色っぽく囁いてきた。


『この一触即発の状態を解消できる、すっごい秘策があるんだけどなー?』


 秘策? その言葉に俊介は飛びついた。


「秘策とは何ですか? どういう方法ですか?」


『聞きたい?』


「是非聞かせてください」


『私と結婚しようよ』


「……はい?」


『……はい? じゃないよ。私と結婚すれば、私が妹さん達の義理のお姉さんになるじゃない! そうすれば、兄離れも上手くいくんじゃないかな~?』


 先ほどまでの期待値が、急速に落下していくのを俊介は感じていた。

 そして、


「……まあ、その秘策は保留ということで」


『いっ、今落胆したよね!? 明らかに落胆してたよね!?』


「まあ、はい」


 俊介は答えた。

 確かに、所帯を持てばブラコンな妹でも諦めてはくれるだろう。

 しかし、そこまでの道のりが果てしなく険しいのだ。


「ですから、もう少し真面目に対策を考えてください」


『なによ~。私は至って真面目なのに~。ぷっぷくぷー』


 電話口から、恋華の拗ねたような声が聞こえる。


『じゃあもう、エッチして子供産んで既成事実だけ作ろうか』


「急に話が重過ぎですよ!」


『重くないもん。俊介君の方こそ、もう少し女心を勉強した方がいいよ』


「す、すみません……」


 恋華が何に対して怒ってるのか。よくは分からないが、俊介は律儀に携帯を持って頭を下げながら謝罪した。

 すると、電話口からププッと吹き出す音がして、


『別に謝んなくてもいいよ。俊介君のそういう鈍感なところも、私は好きなんだから』


「そ、そうですか……?」


 鈍感と言われ、少々複雑な思いをしながら、俊介は答えた。


『一応言っておくけどね。私、今日のデート中、妹さん達が尾行してることに気づいてたんだよ?』


「えっ、そうなんですか?」


『わからいでか。私と俊介君の跡をつける物好きな女の子なんて、それ以外に考えられないもん。その時に紹介してくれれば、話は早くて助かったんだけどね。……まあ、あんな変装してる時の妹さんを紹介したくはないだろうけど。だから、私知ってて知らないフリしてたんだよ?』


「それは……すみません」


 いえいえ、と恋華は返して、


『俊介君の妹さん達はまだ全然いい方だよ。私なんか、出来の悪い弟に毎日苦労させられてるんだから。今日だって――って勝!? 何でいるのよ!?』


 いきなり、恋華の声が急に離れた。

 そのまま、誰かと軽く言い争う声が遠く聞こえる。

 恋華は『マサル! いい加減にしなさい!』と、いつもなら考えられないような強い口調で注意をしていた。


「もしもし? 恋華さん? どうしたんですか?」


『ごっめーん。勝――ああ、私の弟なんだけどね? 漫画を借りに部屋に入ってたみたい。それで、盗み聞きしてたみたいで、今ちょっと冷やかされてて……うるさい! 今私お話してるんだから! ……あ、ごめん。俊介君に言ったんじゃなくて勝に……。ああもう! ごめん! もう切るね。細かい時間とかはメールで伝えて。じゃあね!』


 一方的にまくし立てると、恋華は電話を切った。

 どうやら口喧嘩をしていた「マサル」というのは、恋華の弟だったらしい。それが、俊介には実に新鮮だった。普通の年頃の兄弟ならば、あのように喧嘩したり反発し合ったりするものなのだ。


 それに比べて自分と妹達は……。俊介は、頭が痛くなってくるのを感じた。


「やはり、何とかしなければなりませんね……」


 俊介は、ベッドの上に寝そべりながら呟いた。

 しかし。俊介は疑問に思う。

 どうして恋華は、こんな面倒な家庭に育った俊介に告白をしたのだろうか。

 単純に考えれば、後腐れもなく「偽装恋人」として付き合いやすそうな人間は、幾らでもいそうなものだが。


 自分が学年トップの学力だから? それとも、単純に恋華の好み?

 ――違う。俊介は今の考えを否定した。恋華は、そんな理由で自分に告白してきたんじゃない。

 それに。何かが引っかかる。何かがおかしい。


 俊介には、恋華と1度会っている気がするのだ。

 しかし、それはありえない。なぜなら……。


「……瀬戸内恋華……一体、何を考えているんですか……」


 俊介は誰もいない部屋で、ポツリと漏らすのだった。

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