15質問? いいえ、詰問です!
結論から言うと、俊介と恋華のデートは微妙な雰囲気で終わった。
ファミレスで食事をした後、カラオケに行ってきたのだが、これがまたイマイチ盛り上がらなかったのである。
しかし、それも当然だ。
俊介は今まで女性と2人きりでカラオケをしたことなどなかったのだから。間を持たすことが大事なデートで、俊介の人見知りが遺憾なく発揮されてしまった。カラオケの最中も、自分からほとんど喋ることもない。それでも恋華は「楽しかった」と言ってくれたのだが、俊介は意気消沈としながら帰路についていた。
「お兄様。お帰りなさいませ」
帰宅早々。
ドアを開けた玄関先で和姫が、三つ指をついて俊介を迎えた。
「か――和姫さん。ただいま」
俊介は言葉を詰まらせた。
なぜかと言うと、今日は友達と遊びに行くという名目で、女性とデートをしにいったのだから。別に嘘をついてはいないが、どことなく罪悪感を覚えるのである。
「お兄様。わたくし……お兄様に謝らなければなりませんの」
「……え? 何がですか?」
俊介が尋ねると、和姫は申し訳なさそうに目を伏せながら答えた。
「本日、お兄様が誰と会うのかがどうしても気になって、後をつけてしまいました。完璧な変装をしていたので気づかなかったでしょうけど、レイラ、美鈴、ましろ達も一緒でした。色々と釈明はありますが、まずは謝罪をさせてください。本当に、申し訳ありませんでした」
……と、美しい黒髪が地面につくのも構わずに、和姫は頭を下げて平伏した。
その土下座を見て、俊介は驚愕した。まさか、あんな見え見えの変装でバレていないと本気で思っていたなんて。俊介はむしろ、こっちが気づいていることに向こうも気づいているぐらいに考えて、色々な受け答えを用意していたくらいなのだが。俊介は尚も座礼を続ける和姫に慌てて、
「和姫さん、とりあえず顔を上げてください」
といっても、和姫はすぐに顔を上げなかった。
10秒ほど土下座の状態を固定したまま、ゆっくりと頭を上げる。
「和姫さん、僕はですね――」
「しかしながらお兄様」
俊介の言葉を遮り。
和姫はキッと俊介に向き直って、
「わたくし達は見ましたわ。今日、お兄様がどこに行って、誰と会っていたのか。わたくし達に内緒で、あのようなメスブ……女性と会うなどと。和姫は、とても悲しゅうございます」
「あの……それは、ですから……」
悲壮感あふれる和姫の口調に、俊介は尻込みする。
「お待ちになってください。事は井川家の歴史が始まって以来の大事件にございます。そのご説明をされるならば、この場ではなくリビングにてキチンとお話をいたしましょう。それに――」
言葉を切って、和姫は視線を後ろに向けた。
俊介はその視線を追った。
そこに立っていたのは、レイラ、美鈴、ましろの3人だった。
特に美鈴は、変装用のトレンチコートやハンチング帽やサングラスをそのまま着けている。
「……ふふふ。よくぞのこのこやって来たね。お兄ちゃ……井川俊介」
変装してるとはいえ、どう見ても美鈴なのだが。
せいいっぱい低い声で、俊介の顔を毅然と見つめながら言った。
「えーっと……美鈴さんですよね? その格好は一体なんなんですか?」
散々悩んだ末あえてツッコミを入れると、美鈴は着ていたコートや変装道具をバッと勢いよく投げ捨てた。
「よくぞ見破ったー! ある時は新聞記者。またある時は私立探偵! しかしてその実態は……」
「いや。だから、美鈴さんなんでしょ?」
あまりのネタの古さに、たまらず俊介はツッコんだ。
これなら、私服姿で尾行した方がまだ気づきにくかった。
「こほん。美鈴、そこまでにしておきなさい」
咳払いしながら、和姫はキリッと真っ直ぐに俊介を見つめた。といっても、緊張の糸は美鈴によって、既に切れてるような気もするが。
「彼女達にも、話を聞く権利がありますわ。それに、わたくし共の方からも、お兄様に沢山言いたいことがあります。このようなところでは何ですので、場所を移しましょう」




