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13溺愛? いいえ、ほどほどにです!

 映画も見終わり、俊介と恋華は昼食を食べに来ていた。

 場所は、同ビルの4階にあるファミリーレストラン。本当はもっと高級なレストランを予約するつもりだったが、奢りということであれば恋華も気を遣うだろうし、安価で気楽に使えるファミレスを選択したのであった。


 休日の午後ということもあって店内は大分賑わっていた。俊介と恋華は一番奥の席に座った。するとすぐ、妹軍団が俊介の後ろの席に着いたのだが、俊介はもはや気にしないことにした。わざわざ変装してきたことを考えると、相当の覚悟をもってのことらしい。ならば、今は何も言わないほうがいい。今はただ、恋華とのデートに全てを集中させたかった。それに、あんなコスプレ集団が自分の妹だとは、流石に恋華には紹介したくなかった。


 ウエイトレスが水を運び、しばらくすると注文を聞きにきた。

 俊介と恋華は早速オーダーをする。

 俊介はカレーライスとアイスコーヒー。恋華はサンドイッチとサラダとオレンジジュースを、それぞれ注文した。


 注文の品が来るまで手持ち無沙汰だったので、俊介と恋華は先ほどの映画の感想に花を咲かせることとした。


「さっきの映画、凄かったね!」


 俊介は水を一口飲みつつ、


「ええ。迫力の戦闘シーンでしたね。さすが話題になることはあります」


 すると恋華は、フルフルと首を横に振りながら、


「違う! そうじゃない!」


「というと?」


「ほら、あのラストの! 感動のシーン!」


「ああ」


 恋華が言っているのは、宿敵ケルベロスを倒した後、満身創痍のタケルが、カルネア姫を救出しにいくシーンのことだろう。最後の力を振り絞ってヒロインを抱きしめる主人公にうっとりする女子も多かったようで、あのシーンで泣きじゃくる声が、少なからず観客席から聞こえていた。


 恋華は頬を赤くしながら、


「お、女の子はね? あんな風に一途に、激しく愛されるのが大好きなんだよ?」


 と、俊介を上目遣いに見つめながら言った。

 なんだろう。今日の恋華はやけにセンチメンタルだなと、俊介は思った。

 やはり映画の内容に触発されているのだろうか。チャラ男から助けたことによって、吊り橋効果が発動しているのかもしれない。


 いずれにしても――


「……恋華さん」


 俊介の問いに、恋華は水を飲みながら聞き返した。


「うんっ、なになに?」


「恋人から一途に愛されるのって、そんなに良いものでしょうか?」


 ぶーっ!


 恋華は俊介に向かって、口に含んでいた水を全て吐き出した。


「き、汚いですよ」


「汚くないもん! 綺麗だもん!」


 そんなわけあるかと思いつつも、俊介は黙って紙おしぼりで濡れた服を拭いた。


「というか、どうして僕が水を吹きかけられないといけないんでしょうか。僕、何か悪いこと言いました?」


「言った言った! 思い切り言った!」


 恋華は頬をぷくーっと膨らませながら、俊介の眼前に人差し指を突きつけ、


「じゃあ、俊介君に聞くけどっ!」


「は、はい」


「彼女から熱烈な愛を一身に受けるのと、おざなりで適当な付き合いしかされないのと。どっちがいい?」


「どっちがいいか、ですか」


 俊介が顎の下に手を当て、考えるポーズをとった。

 しばらくすると顔を上げて、


「僕は思うんですが」


 恋華は身を乗り出しながら、


「うんうんっ。何て思った?」


「やはり、重たい愛はプレッシャーにしかならないのではないか? と思いました」


 俊介の答えに恋華は、どてっとテーブルの上にずっこけた。


「いえ、冗談抜きで。そりゃあ一途に愛してくれるなら、それに越したことはないですけど。でも、それだと裏切られた時のダメージも大きくないですか? って思っただけですよ。映画の中だと、そんな心配はありませんけどね」


「……ああ。それは、何となく分かるよ。私も大切な人に裏切られるのは、凄く怖い。だから自分の身を守るために、ある程度の距離を置きたいっていうのは、よく分かる」


 恋華は朗らかな態度から一転、一気に気落ちしだした。

 瞬間、2人の間には重苦しい緊張感がたちこめた。

 今日のデートが始まって以来、初めての緊迫した空気だ。


 注文した料理が来ても、その空気は変わらなかった。

 2人はほぼ無言で、ただただ機械的に料理を口に運んだ。

 しばらくして、料理を3分の1ほど食べた頃。

 恋華が、スプーンを皿の上に置いた。


「――でもね、俊介君。私、やっぱり思うの」


 俊介が顔を上げると、恋華の真顔があった。

 彼女はただ一点、俊介を見つめながら言った。


「私、どんなに傷ついてもいいから。それでも好きな人に好きって言いたいの」

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