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11通報? いいえ、告訴です!

「は? 恋人? だから何?」


 チャラ男達は、漫画みたいに怯んだりはしなかった。

 俊介の予想通りではあったが。


「ですからその人とは、僕が先約しているんです。なので、あなた達はその人から離れてください」


 かといって理屈を整然と並びたてても、チャラ男達には通じなかった。

 俊介の言葉に、チャラ男達は爆笑するだけだった。

 ひとしきり笑い終えたあと、今度は俊介を哀れむような目で蔑みながら、


「知らねーよ。てめえが消えろ、バーカ」


「それがそうもいかないんですね。面倒ですけど、そこのミニスカさんの彼氏ですから」


「……!」


 俊介の言葉に恋華は顔を真っ赤にしたが、声は出せないようだった。


「知らねーって言ってんだろ? 早く失せねーと殺すぞ?」


「見たとこ全然強くなさそうだけど。なに? 俺らとやんの? 言っとくけど、俺ら地元じゃ負け知らずだよ?」


 へらへらと笑いながら、男2人が俊介を取り囲む。「地元じゃ負け知らず」という、いかにもなフレーズは置いとくとして。引き締まった逞しい筋肉を持っていて、体つきも俊介より大分大きい。喧嘩に自信があるというのは、まず間違いなさそうだった。


「どうすんだ? やんの? やらねーの?」


「まー今更やらないって言っても無駄だけどねー。土下座するまでぶん殴ってボコるし」


 チャラ男2人は、両拳を握ってパキパキと音を鳴らしながら、下品に笑った。

 そんな男達を見上げながら、俊介は――


「現行犯ですね」


「はあん?」


「現行犯逮捕になると言ったんです。あなた達が」


 俊介は、ポケットに入れていた右手を出し携帯電話をチャラ男に見せ付けた。


「110番……もう既に11まで押しています。もしあなた達が殴りかかってきたら、それより早く警察に知られることになります。よって刑法208条、暴行罪が成立します」


「は、はあ?」


「へっ。だからなんだよ。用件なんて言わせる暇も与えねーぜ。110番した瞬間に携帯を奪い取ってボコボコにしてやる」


 110番という言葉に、一瞬ではあるが尻込んだチャラ男達も、すぐに低俗な笑いを浮かべた。

 しかし俊介は、さらに冷静に、


「分かっていないんですね。たとえ何も言わなくても、GPS位置情報通知対応端末でGPS測位による位置情報が、電話番号とともに指令台に送信されますから、通報の後に電源を切ったとしても位置は把握されるんですよ」


「な、なんだと?」


「お、おい! マジで通報すんのかよ!」


 俊介は何も答えずに携帯電話を男達に突きつけた。

 男達は「ヒッ」と短い悲鳴を上げる。


「もちろん、実際に暴力を振るってなくても警察は動きますよ。あなた方は先ほど僕に『殺すぞ』と脅しをかけてきました。身体や生命に危害を加える行為を告知した者には、刑法222条脅迫罪が適用されます。どの道、あなた方は警察の厄介になります。通報どころか、刑事告訴してもいいんですよ?」


 弾丸のように俊介は、理路整然と言葉を並べ男達を追い詰めていく。

 それは、チャラ男達に効果てきめんだった。


「や、やべえ! 逃げるぞ!」


「も、もう俺達何もしないから! 通報だけは勘弁!」


 捨て台詞を吐きながら、早々に逃げ去るチャラ男達。

 いつの間にかギャラリーが集まっていた。

 一連の寸劇を見て、ぱちぱちと拍手が鳴り響く。


「ああ、いや。そんな、大したことじゃないですから。これはその……」


 俊介が野次馬に向かって説明をしようとした、その時――


「俊介君!」


 ガバッと勢いよく、恋華が抱きついてきた。


「こわかったよおおお! 私、あいつらに酷いことされるんじゃないかって思って! 俊介君が出てきてくれた時は凄く嬉しかったけど! 今度は俊介君があいつらに酷いことされる! そう思うと私、私……」


 恋華の目からは、大粒の涙があふれ出ていた。

 必死にしがみつきながら、俊介の胸に涙の跡をつけている。


「馬鹿ですね、恋華さんは」


 俊介は、恋華の頭をそっと撫でた。


「そんな格好するからですよ。これでは、男に言い寄られても仕方ありません」


「……だって。俊介君との、初めてのデートだから」


「まったく」


 頬を膨らませてむくれる恋華の背中を、そっと抱き寄せる。

 背中へのボディタッチは、異性への関心が強い証、と何かの本に書いてあった。

 そのことを思い出しながら俊介は、


「ひとつ言っておきますけど……」


「え?」


「さっき言った『恋人』というのは、あくまで『偽装恋人』としてですからね。ああ言わないと、あの人たちも話を聞かなかったでしょうから。仕方なくですよ」


「……このタイミングでそれ、言わなくてもよくない? ここはもう、幸せなキスをしてハッピーエンド、の流れだよ?」


「知りません、そんな流れ」


「むー。本当、俊介君ってばイジワル」

 

 ぶーぶー文句を言い始めた恋華から、俊介は体を離す。


「本当に意地悪だったら、貴方が不良に絡まれてるのを見た時に逃げ出してましたよ」


「あ、そうだった。お礼にもう1度パンツ見せてあげようか? 今日のパンツは勝負パンツだよ!」


 恋華がそう言うと、ギャラリーがどっと噴き出した。

 すっかり俊介と恋華は見世物状態である。


「な、な、な、何を言ってるんですか、こんな公衆の面前で!」


「あ、照れた? ふーん、俊介君ってば純情♪」


 そこで俊介が反論しようとした時、


「いつまで入り口の前でイチャイチャしてるんですか!」という怒りの声が聞こえてきた。どこかで聞いたことがある声のような気もしたが、そんなことまで気にかけてる余裕はなかった。

 

 自分が想像してるより遥かに悪目立ちしていたようだ。

 俊介と恋華は、慌てて体を離した。

 そして、そそくさとチケット売り場まで向かう。


「でもさ、俊介君」


「なんでしょうか」


「私、嬉しかったから。本当に感謝してるから。それだけは、信じて」


 儚げに、そして、どこか悲しそうに恋華は、目を細めながら言った。


「……私、俊君のこと、昔から……」


「え? 何か言いましたか?」


「ううん! 言ってない! 何も言ってないよ!」


 両手をブンブン振りながら恋華は笑って答えた。

 明らかに何かを隠している。そう推測しながらも俊介は、


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」


「……うん。そうだね」


 並んで、今日見る映画のチケットを、カウンターで購入するのであった。

 何だかんだあってようやく、2人のデートの始まりである。

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