10友人? いいえ、恋人です!
俊介が時計を見ると、時刻は午後1時半だった。
「少し早く来過ぎましたかね……」
待ち合わせ時間は3時だというのに、と俊介はひとりごちる。
待ち合わせ場所は、都心にある巨大な映画館。駅の近くの大型ビルの6階にあり、大きさや利便性もあってか、常に満員が予想される。早めに行く分には、何も問題はないはずだ。
しかし俊介が早く来た理由は、そういったことではなかった。
自分でもよくわからない。
義務感や責任感といった、倫理的感覚でないことは確かだ。
何となく、恋華がどんな顔してやってくるのかを、一番乗りで見たい。
そう思っていたのだが……。
「まさか……」
俊介は我が目を疑ったが。
館内の入り口の前に、恋華は既に来ていた。
携帯を開いたり、腕時計を確認したりと、とにかく時間を気にしている。一体いつからそこにいたのだろうか。とりあえず、俊介より早く来ていたことだけは間違いない。
俊介は人ごみに紛れて、恋華を観察していた。
声はかけられなかった。
なぜかというと、
「恋華さん……だいぶ、オシャレをしてるようですね……」
そう。恋華の服装は、黒のワンピース。胸元も大きく開いていて、太腿も、下着が見えるかどうかギリギリのラインまで見える超ミニだった。首には茶色の紐チョーカーが結ばれていて、学校で見るより数段大人っぽく見える。いわゆる、勝負服というやつだ。
単純な話。俊介は恋華に、見惚れていたのだ……。
恋華の方は、相も変わらず携帯と格闘している。
どうやら俊介にメールを送ろうとして、文面を考えてるようだった。
その手を止め、恋華はまわりに目をやる。反射的に俊介は隠れたが、どうやら恋華はカップルに目を向けているようだった。おそらく、自分と俊介を重ね合わせているのだろう。
そろそろ出て行ったほうがいいのだろうか。
俊介がそう思った瞬間。
「あんれえ~~? こんなところに、超かわいい子いんじゃん」
恋華の前に、2人組みの男が現れた。
胸元の開いた服を着て、首下にはヂャラヂャラとアクセサリーをつけている。髪は眩しいくらいの金髪に染めた、いかにもチャラ男風といった男達だ。
「あ……あの、何ですか……?」
「ナンデスカ……? だって! ギャハハ! 鬼かわいいー!」
恋華が怯えた声でそう言うと、チャラ男達は下品な笑い声を上げた。
そして、男達は恋華に迫ると、
「なあっ。今から俺達と遊ばない? イイとこ連れてってやるよ」
「うおっ。近くで見るとマジかわいい。こんなイイ女初めて見たわー」
「こ、困ります! 私、その、彼氏と待ち合わせしてて……」
見るからに頭の悪いチャラ男に、丁寧に対応する恋華。
無視すればいいのに、と俊介は思った。
自分が今すぐ出て行くべきだが、相手は2人組だ。
喧嘩で勝ち目はないだろうし、話し合いをしたところで、見たところ簡単に引き下がる手合いでもなさそうだ。
さてどうするか、と俊介が作戦を立てていた時。
「知らねーっての。はい、お持ち帰り決定~♪」
「あ……」
呆然としている恋華の腕を引っ張って、金髪はぐいっと引っ張った。
「待ち合わせに遅れる彼氏なんか放っときなよ。そんな男より、俺らと遊んだほうが100倍楽しいぜ」
「よく言うぜオメー。どうせ朝まで帰す気ねーくせによー」
何がおかしいのか、2人はゲラゲラと笑った。
恋華は、ただ恐怖を交えた目で男達を見上げていた。
目尻には涙がたまっている。
そして、どこか憂いを浮かべた表情。
その顔を見て、俊介は考えるよりも早く行動に出ていた。
「――やめてください」
恋華の手をつかむ男達の腕を、俊介はつかんでいた。
「俊介君!」
恋華が、嬉しそうに声を上げた。
先ほどの絶望から一変した表情の恋華を横目に見て、男達は忌まわしげに俊介に向かい合った。
「なんだぁ、てめえ?」
「やめてくださいと言ってるんです。いくら野蛮な人たちと言っても、言葉くらいは通じるでしょう?」
「ふざけんなおら! さっさと消えねえとブッ殺すぞ!」
「やってみればいいでしょう」
「ああん!? なんだてめえ! その女のダチか!」
「あなた達に言っても、意味のないことだとは思いますが」
俊介は、キッと男達を睨みつけた。
その瞳には、静かだが熾烈な怒りの炎が、燃え上がっていた。
「僕は……その人の恋人ですよ。だから、消えるのはあなた達の方です」




