4 はじめてのダンジョンは緊張します
お弁当は確かギルドの隣にある食堂で売っていたはず。
急いで買いに走ると今日のお弁当はパンに切込みを入れて野菜と鶏肉を挟み込んだものらしい。
サンドイッチ風かな?
確かここの食堂はそこそこ美味しいって設定にしてあるはずなので期待してもいいかも。
急いでギルドに戻ろうと振り向いたら、もう皆はギルドから出てきて食堂の前で待っててくれた。
「おまたせしました」
わたしが頭を下げると、皆はきょとんとした顔を。
あっと、この世界ではお辞儀の習慣は貴族世界だけのものだったっけ。
わたしがそういうふうに設定したんだったよ。
あ、シモンだけちょっと表情が違うな。
シモンは貴族出身だから、お辞儀の習慣はわかってるんだよね。
わたしのことも貴族出身って思われちゃったかな?
アリエルは田舎の教会出身の紛れもない平民みたいですよ。
中の人がちょっと違うだけです。
笑顔でごまかしておきましょう。
ジャパニーズスマイルってやつです。
余計に混乱させちゃうかな?
「よし行くぞ」
何故かリーダーのヘンリーじゃなく、戦士のアーガスの掛け声でダンジョンへ出発することになった。
ダンジョンってことだけど、この世界のダンジョンはいわゆるロールプレイングゲーム風のダンジョン。
何故か一定間隔でモンスターが湧き出るし、階層に分かれてて奥に行くほど敵が強くなっていて、各階層にボスモンスターがいたりする。
ちょっと世界観的に気に入らないなぁと作者的には思ってたんだけど、こういうのでもないと経験値の概念もない冒険者たちがどうやって強くなっていけばいいんだろうって感じで困って強引にこんな感じに設定しちゃったんだ。
小説の後半にダンジョンの核とかいう設定を押し込んだけど、やっぱりムリがある設定じゃないかと人としては思ってる。
今となっては、もうそういうものだって割り切るしかないんだよね。
とりあえず、ここは初心者用のダンジョンで、1層目の敵は弱いから初心者パーティーでも大丈夫って設定だとしか言いようがない。
それでも、初めてのダンジョンってことですごく緊張してるよ。
アリエルとしてはすでに体験済みなんだけど、中の人は平和ボケしてますからね。
戦闘とかしたことないのは当たり前だし、モンスターなんて見た事自体あるわけがない。
野犬に吠えられただけでも震え上がりますよ、それがモンスターとかなったら逃げ出したいところです。
1層目にいるモンスターはミニコボルトとレッサージャイアントスパイダー。
弱そうなモンスターに「ミニ」とか「レッサー」とかいうふうにつけただけの安直なモンスターですね。
要するに弱いってことです。
最初に戦闘になったのはミニコボルト2匹。
コボルトってのは犬みたいな感じの2足歩行のモンスター。
小型犬が立ち上がって鈍器もって襲ってきてるって感じかな。
小型犬って言ってもプードルとかチワワみたいに愛らしくないけどさ。
身長120センチメートルくらいの小柄な亜人モンスターです。
シモンとアーガスが1匹ずつ引き受けて戦闘になってる。
弱いモンスターって言ってもこっちも弱いからすぐには倒せない。
ちょっと攻撃受けてるけど、まだ回復魔法とか要らないよね。
HPとかが見えるわけじゃないからどのくらいダメージ受けてるのかわからないよ。
それとも、攻撃受けたらすぐに回復魔法使ったほうがいいの?
回復魔法使えるのがわたし1人なんだから、パーティーの生命線がわたし。
すごく責任重大なはず。
あ、そういえばシモンは勇者だから回復魔法使えるんだった。
少しだけ気持ちが楽になったよ。
シモンもアーガスも痛そうにしてないから、このまま様子を見ることにする。
ヘンリーの様子もチラチラ見てるけど、特に何もしてないからここは2人にまかせていいのだと思う。
きっとリーダーだし、危険そうなら私に合図とか送ってくれると信じてる。
最初にシモン、そしてアーガスもミニコボルトを倒すことができた。
やったね、初勝利です。
なんにもしてないけどね。
「回復要りますか?」
自分じゃ判断できないことは素直に聞いてみるのがいいと思う。
「いや、大丈夫だ」
「俺も問題ない」
さっき倒したミニコボルトはそのまま消えていった。
何故かダンジョンでは倒したモンスターはしばらくするとDropアイテムを残して消えていくんだ。
どうしてかって? わたしがそういうふうに設定したからって言うしかないのよね。
一応、ダンジョンの核の力でモンスターの死体をダンジョンが吸収して新たなモンスターを生み出すとかいう設定はあるんだけどさ。
シモンもアーガスも大丈夫のようで一安心。
まわりにミニコボルトは何匹か見えるけど、ミニコボルトは自分からは襲ってこないからあまり怖くはないはず。
そのまま次の戦闘になった。
今度はミニコボルト3匹だ。
シモンが2匹、アーガスが1匹を引き受けるような形になった。
僧侶は回復以外に近接戦闘の補助を受け持つのがスタンダードのはず。そのためにこんなゴツい武器を持ってるんだからね。
怖いけど、シモンの補助に向かった。
これでシモンの近くで戦闘できるね。近くで戦闘すればより多くの成長に繋がるはず。
ミニコボルトは2匹ともシモンのほうを向いてるので、わたしはモーニングスターを振りかざしてミニコボルト1匹に向かって思いっきり振り下ろした。
いい感じにミニコボルトの頭にモーニングスターが命中したよ。
すごく痛そうに見えるけど、まだミニコボルト倒れないね。
あ、怒ってるみたいだ。そりゃ怒るよね。
わたしに向かって来ちゃったよ、やだ怖い。
でもミニコボルトの注意がわたしのほうに向かった隙をついてシモンが素早く剣を叩きつけてくれた。
その一撃がトドメになったみたい。ミニコボルトは倒れていった。
シモンが戦っていたもう1匹のミニコボルトがシモンに攻撃をしかけてきたけど、そっちにはレムスが短剣で一撃を加えていた。
いいコンビネーションだね。
そこへシモンがすかさず攻撃している。こうなるとわたしの出番はなさそうなので、回復の待機を。
その1匹を倒し終えるてすぐに、アーガスのほうも片付いていたよう。
アーガス1人でお疲れ様。
「軽めに回復してくれ」
アーガスからのリクエストがきたので、回復用の祈りをするけど、軽めってのがイマイチまだよくわかってない。
普通に回復魔法をしてみたけど、練習通りにできたかな?
「ありがとう」
うん、ちゃんと無事に回復できてるみたいだね。
よかった。わたしちゃんと役にたってるようだよ。
でもさ、こうして喜んでるけど、さっき自分で殺したんだよね。
トドメはシモンだったけど、自分で殺意を持って攻撃した相手が死んだんだ。
前の世界でも虫とか魚とかは殺したことがあったけど、哺乳類を殺したこともなかったのに。
今殺したのは、知能は低いとはいえ、2足歩行してる亜人。
それなのに罪悪感とかまったく湧いてこない自分が怖いよ。
ここは殺し殺されるそういう世界なんだよ。ゲームとは違うんだよ。