3 もしやあなたは主人公の勇者ではないですか
まだちょっと早いと思うけど、外出するための用意をしましょうか。
記憶を辿りながら服を着替える。
うーん、パッとしないなぁ。
若くてこれだけ整った外見してるんだからもうちょっと服も考えたほうがいいよね。
おいおい考えることにしよう。
やっぱり、化粧用品は持ってないのかなぁ。
すっぴんで外に出るしかないみたい。
若くて肌もピチピチしてるからすっぴんでも問題ないとは思うんだけど、すっぴんで外出とかもう高校生の頃以来だよ。
あ、17歳ってことは高校生の年か……なら問題ない?
意識が高校生の頃とは違うのよね。
まぁ化粧とかより多くの問題が他にいっぱいあるから気にしないでおこう。
服はこれでいいとして、あとは武器と防具か。
記憶によると服の上に革鎧着てたみたいね。
これ1着しかないから、間違いなくこれね。
古そうだねぇ、記憶でも中古で買ったみたいだからやっぱ古いのよね。
なんか革が古く固まってひび割れてるところもあるんだけど、これでちゃんと防御力あるんだろうか。
すっごく不安。
でも家出してきた駆け出し冒険者だから貧乏なのはしかたないか。
そして武器はさきっぽにトゲトゲのついた鈍器か。
こういうのって何ていうんだっっけ?
モーニングスター?
これもいろいろ錆びてるし、中古なんだよね。
それはまぁいいんだけど、何故これを選択したの?
すっごく可愛くないんだけどさ。
もう少し女の子っぽい僧侶用の武器ってないの?
これ持って鏡に写ってる姿を見るとすっごく凶悪なんですけど……
男ばっかりのパーティーにいるんだから、そのほうがいいのか。
うん、凶悪路線でいきましょうか。
よし出かけよう。
性格的に集合時間の5分前集合がモットーです。
きっとそれでも早すぎるとは思うけど。
目的地はどうも体で覚えてる感じ。
朝早くて気持ちいいかなって思ったけど、街が糞尿の匂いがしてつらいです。
これに慣れることができるんでしょうか。
街角を曲がると坂の上に冒険者ギルドが見えてきました。
あれがファンタジー世界のメッカ冒険者ギルドですね。
少しだけ感動しました。
まぁハローワークと同じようなものでしょうけど。
そういえばハローワークといえばって無駄話はやめましょうね。
ちなみに、アリエルの冒険者ランクは最低の1つ上のEランク、職業ランクは僧侶でDランクってことになってるようです。
冒険者ギルドに入って周りを見回すと、記憶にある顔が1つ。
リーダーで魔術師のヘンリーらしい。
「おはようございます」
「アリエル、おはよう。
ずいぶん早いじゃないか」
「そう言ってるヘンリーさんのほうが早いじゃないですか」
「最初に来て掲示板の依頼をチェックするのが俺の役割だからな」
とりあえず、自然に受け答えできてるかな?
いっしょに掲示板の方を見てみた。
アリエルの知識で半分くらいの単語は読めるけど、残り半分は読めない感じ。
もう少し語学の勉強が必要かも。
チートな言語理解とかのスキルくださいよ。
今から語学の勉強とか泣けてきます。
「おはよう」
その声に振り返るとそこに立っていたのはイケメン!
「シモン、おはよう」
シモン?
記憶をまさぐると魔法戦士のシモン……え?
もしかしなくても、勇者のシモンじゃないですか。
ちょっと待ってよ、勇者のシモンと同じパーティーにいるの?
何故?……あ、思い出したよ。
勇者シモンは妹と一緒に冒険始まる前に、パーティーにはいってダンジョン攻略してたんだ。
もしかして、アリエルって……そんなプロローグに1回出てきただけのチョイ役のキャラの名前とか覚えてないよ。
名前だって書いていく途中で適当につけただけだしさ。
しょっぱなで別れてから二度と登場しないキャラに転移とか脇役すぎるでしょ、これ。
「アリエルどうしたんだ?
なんか固まってるけど」
わたしの様子を変に思った感じでヘンリーが声をかけてきた。
あ、ダメダメ。
物思いに耽るのはあとにしましょう。
変に思われないようにあいさつあいさつ。
「あ、ゴメンね。ちょっと考え事してて。
おはようございます、シモン」
わたしのあいさつにシモンがニッコリと微笑む。
シモンってこんなにイケメンだったんだ。
これなら将来のハーレム形成も納得だね。
わたしまで一瞬クラっときちゃったよ。
それからまもなく、戦士のアーガスと盗賊のレムスも到着し、その後すぐに四点鐘が聞こえた。
全員約束の時間前に集合ってことで優秀なパーティーですね。
いろいろ思い出したよ。
勇者シモンは冒険者として出発して最初はしばらくソロで地味な依頼を繰り返した後に、パーティーを組んだんだ。
それがこのパーティー。
確か設定ではパーティーを組んだ当初は能力的にシモンが頭一つ抜けていたんだけど、その後他の4人が急成長してシモンはついていけずに1ヶ月位でパーティーを抜けることになる。
でも、その急成長の原因こそがシモンのチートスキル。
周りの人間の能力を成長させるってチートスキルなんだよ。
この時点ではシモンはまだそのスキルについて知らないから、学生時代もそして冒険者になってからも自分の成長が遅いことに悩んじゃうっていう流れ。
ただし、今はまだパーティーの皆もそれほど成長していないから、シモンも楽しく冒険できているはず。
わたしもこの世界で生きていくことになるのなら、シモンのチートスキルの恩恵を受けて強くなっておかないといけないね。
成長チートはシモンとの距離が近いほど強くなる。
本当は肉体関係を結んじゃうのが一番なんだけど、それしちゃうとわたしがチートキャラに成長しちゃうから、そっちはパスね。
一緒にいれる期間は1ヶ月くらいのはずだからその間にめいっぱい成長させてもらいましょう。
何ですか、このご都合主義の展開は。
いやぁ、これは幸先いいね。
シモンのおかげでこの世界で生き抜けるだけの能力を得られそうですね。
「掲示板のほうには特にわたしたち向きの依頼はなかったので、今日も予定通りダンジョン攻略を進めたいと思う」
リーダーのヘンリーから今日の予定について話があった。
平民のはずなのにヘンリーって言葉遣いが丁寧だよね。逆に貴族のはずのシモンが結構言葉遣いが乱暴なのよね。
わたしがそう設定したからそうなってるんだけど、特に意味はないんだ。
わたしはシモンの横にくっついて立っている。
位置取りをしっかりとシモンの近くにして常に能力アップを図らないとね。
「夕方までダンジョン攻略を続ける予定だから、昼食の用意は各自でできているよな?」
え、お昼ごはんは別途じゃないの?
用意してないよ!
「すみません、用意を忘れました」
ここは正直に言っておかないと一人だけ昼食抜きになってしまって大変だ。
「また、アリエルか。
しかたないやつだな、さっさと用意するように」
皆がしかたないなって感じでわたしのほうを見る。
え?
アリエルってそういう位置づけの子なの?




