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ワシ、服を着る。

「まずは飯と服、それから履くものを寄越せ。大したものは期待しておらん、あるもので構わん」


「は、はいっ」


 村長の邸だと言う、この村で一番デカい家に通されたワシは、配下となった村人どもを顎で使っていた。


 バタバタと駆け回る村人どもが持ってきたのはパンと肉、それに豆と芋を煮た汁物(すぅぷ)だった。

 建物だけでなく食い物も西洋似らしい。

 村人どものツラや格好も、どことなく南蛮人っぽいな。


 メシと一緒に寄越された服と靴は、ぶっちゃけボロかった。

 これでもワシの体格にあうもので、一番マシなのを持ってきたらしい。


 まあ、こんな小さな村で贅沢は言うまい。

 慣れない西洋風の衣服を着るのには少し苦戦したが。


 これでようやくワシは素っ裸の幼女から服を着た幼女にランクアップできた。

 となれば、次に求めるものは情報であろう。

 ワシはまだこの世界のことを何も知らんのだ。


「おい、おぬし」


「な、何でございましょう……?」


 ワシが声をかけたのはこの村の村長だ。

 根が小心者なのか、ワシの一挙一動にいちいちビクついておる。


「この辺りの地理や世情、それに歴史について聞かせよ」


「ち、地理や世情に歴史で、ございますか?」


「うむ。我は復活したばかりで、今のこの世界のことに疎いのでな」


 教えてくださいお願いします、とは言えん。

 あくまで上から目線での"命令"という体を取らねばならん。

 ナメられたら負けゾ。


 幼女の姿ではイマイチ凄みがないので、ワシの背後には蘭丸が控えておる。

 こやつの姿はなかなかインパクトあるからのう。

 ワシの発言に合わせて軽く唸り声を上げるだけでも効果覿面じゃ。


「で、でしたら私の知る限りのことで宜しければ……」


 そう言って村長は青い顔をして話し始めた。


 まず、この村は「ルミリア」という国の支配下にあり、グドー男爵という領主に治められているらしい。


 ルミリアは王とその臣下の貴族によって統治される王国で、百年前の魔王との戦い以来、大きな戦もなく平和を謳歌している。


 それゆえに国力は豊かだが、同時に支配層の腐敗も進み、領主が民に重税を課して私腹を肥やすのも当たり前となっているそうだ。


 おかげで治安は悪化し、盗賊なども出る始末。

 まあ、この辺はまだマシらしいが。


 この村から1日ほど北に歩けば、領主の住むここいらで一番デカい街に着く。

 さらにそこから5日ほど西に向かえば、この国の王都があるそうだ。


 ワシが……じゃなかった、魔王とやらが封印された百年前の事についても、それとなく聞いてみた。


 魔王とは、魔物たちを支配し、この世界を滅ぼすと言われる邪悪な存在らしい。

 神話の上で1度、歴史上においては4度、魔王はこの世界に出現したという。


 最も新しい魔王の出現が百年前で、その時はここルミリア王国をはじめ、世界中の国家で膨大な犠牲が出たらしい。

 通常の軍隊では魔王率いる魔物の軍勢には歯が立たず、最終的に「勇者」と呼ばれる英雄が魔王の拠点に乗り込み、魔王を討ったことで、辛くも人類が勝利したそうだ。


 うーむ、何とも胡散臭い話じゃのう。

 大昔の妖怪退治の伝承か、御伽話でも聞かされとる気分じゃ。

 しかし、少なくともこやつが信じる「歴史」において、魔王と勇者の戦いは実際にあったことらしい。


 ワシは村長の話を聞きながら、用意されたメシを口に運ぶ。

 思ったより味は悪くないんじゃが……やっぱ物足りんのう。

 米と味噌が欲しい。


「おぬしも食うか、蘭丸?」


『いえ、私は平気です。なぜかこの体になってから腹が減らないので』


「便利な体じゃのう」


 羨ましくはないがな。

 蘭丸のもふもふ毛皮を背もたれにしながら、ワシはぱさぱさのパンを汁にひたして食う。


「まあ、大体のことは分かった」


「お、お気に召したでしょうか……」


「うむ、大儀であった。下がってよいぞ」


「は、はいぃっ」


 言うや否や、逃げるように村長はこの場から去っていった。

 いや、実際逃げたな、あやつ。


「さて(もぐもぐ)これからどうするかのう(あむあむ)」


『食べながら話さないでくださいよ信長様』


「ええじゃろ別に」


 ワシはもう尾張の大名でも何でもない、ただの幼女である。

 礼儀作法とか堅苦しいアレはもうナシじゃナシ。


「あやつらが寄越した食事や服からして、この村に毟り取れるような金品は無さそうじゃな」


『言動が完全に物盗りのソレですが、発言には同意します』


「じゃから、貰うもんは貰ったしこのままとんずらしても構わんのじゃが」


『うわこの幼女ヒドッ』


 蘭丸、今の完全に素じゃったろ。


『あれだけ我に従え~って出会い頭にカマしておいて、やることが食い逃げと服泥棒って、ちょっとショボすぎませんか信長様』


「うっさいわ、言われんでもわかっとる。言ってみただけじゃ」


 流石にあんなドヤ顔決めて「我こそは魔王!」なんて名乗っておいてそれじゃ、いくらなんでもワシの名が泣くわ。


「痩せても枯れても幼女になっても、ワシは第六天魔王織田信長じゃ。その名に恥じるようなことはせん」


『だったら、どうなさるおつもりですか』


「そうじゃのう。とりあえず今後の目的が決まるまでは、適当に前世と同じことでもやって過ごすか」


『前世と同じ……というと、アレですか』


「そう、アレよ」


 また始まったよコイツ、的な気配を漂わせる蘭丸をスルーして、ワシは立ち上がる。


「天・下・布・武!!!! ここが日ノ本でないとしても、乱世でないとしても、ワシのすることに変わりはないわ!!」


『つまりは、この世界でも天下統一を目指すと』


「うむ。まあ前世と違って今回の天下布武は完全に趣味じゃし、飽きたらやめるかもしれん」


『私、趣味と暇つぶしで天下統一目指す人、初めて見ましたよ』


「はっはっは、そう褒めるでない」


『なんで今のが褒め言葉に聞こえたんです?』


 そんな胡乱な眼差しでワシを見るでない、蘭丸よ。

 あんまり無礼が過ぎると手討ちにしちゃうゾ☆


「まあ、ええじゃないか蘭丸よ。どうせワシらは一度は死んだ身よ。二度目の人生、ぱあっと好きに生きてみるのも悪くあるまい?」


『信長様は一度目の人生でもだいぶ好き勝手されていたような気がしますが……』


「らーんーまーるー?」


『そんなことはありませんでした私の気のせいでしたね、はい』


「うむ、分かればよい」


 誤解が解けたところで話を戻す。


「そういう訳じゃから、まずは兵と臣下を集めんとな。特に臣下は重要じゃ。有能で、忠実で、いきなりワシを裏切って寺で寝首をかいたりしない奴でなければならん」


『光秀様のこと、ムチャクチャ根に持ってますね……』


 当たり前じゃろうが。

 あのクソ金柑頭、次に会ったら針千本飲ませて八つ裂きの刑じゃからな。


「この国は平和らしいが、上は腐敗し治安は悪いと聞く。こういう所には実力はあるのに評価されん輩や、不満を溜め込んで燻ぶっている輩がおるものよ」


『では、そういった者を見つけて、軍門に入るよう勧めると?』


「うむ! しばらくはこの村を拠点に人材集めじゃ、楽しみじゃのう!」


 この世界にもかつての我が織田家臣団のような愉快な輩がいるじゃろうか。

 クセの強い輩も多かったが、それもまた味と呼べる連中じゃった。

 再び天下統一を目指すなら、またああいった連中と共に天下を駆けたいものよ。


「この村の連中の中に、ハゲネズミみたいな男がおったりせんかのう」


『同じ農民出身というだけで、秀吉様みたいな逸材を期待されるのは酷では?』


「やっぱりか。まあ仕方ない、じっくり探していくか……む?」


 何やら、邸の外が騒がしい。

 村人のものらしき悲鳴と、誰かの怒号が重なって響いてくる。


「揉め事のようじゃな」


『どうされますか?』


「決まっておろう。ここはもうワシの領土じゃぞ」


 領内の問題を解決するのは領主の役目よ。

 ワシはにやりと笑いながら蘭丸の背に跨った。


「行くぞ蘭丸」


『御意のままに』


 支配の下での安寧をくれてやる、とワシは言った。

 ワシがタダの嘘吐き幼女でないところを、村人どもに示そうではないか。

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