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ワシ、死んだ。

息抜きも兼ねて趣味のままに書いた作品です。

時代考証とか史実との忠実性とかは考えない方向で。

 人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり。

 一度生を享け、滅せぬもののあるべきか。




「クッソ何やらかしてくれとんじゃあのクソ金柑頭ァアアアアアアアアッ!!!!!!」


 どうも。ワシ、第六天魔王、四十八歳。

 現在、京の本能寺で絶賛兵士たちに囲まれとります。


 あいつらバンバン火矢とかブチ込んでくるもんだから、あっという間にお寺は大・炎・上☆


 こりゃぁワシの首が討ち取られるのが早いか、ワシが焼け死ぬのが早いか見物じゃのうガハハ!


「なんて笑ってる場合じゃねぇ!!」


 ワシ渾身のノリツッコミ炸裂。

 迫真の演技に炎もパチパチと拍手喝采で――って熱ゥ! 火の粉クッソ熱ゥ!


「畜生、寺を焼くとかこンのバチ当たりどもが! 天罰下るぞ! え、比叡山焼き討ち? 何のことか記憶にないのう!」


「信長様、阿呆なこと言ってないで逃げますよ!」


「おっと、そうじゃったな蘭丸! 行くぞ!」


 絶賛ファイアー地獄の本能寺の火の粉を払いのけながら、ワシは走る。

 五十路手前だからってナメてんじゃねぇぞ金柑頭。

 こちとらテメェより若いんだからな!


「ぜー、はー、げほっ、ごほっ、ぜはー」


「信長様息切れすんの早っやぁぁぁぁぁぁぁ?!」


「う、うるぜー、煙を吸っちまったんでぃ」


 火事の時は火よりも煙が怖いってホントだね。

 みんなも部下に焼き討ちされた時は気をつけような。


「信長様、こちらです! 寺の裏手はまだ火が回っておりません!」


「よっしゃでかした蘭丸! 帰ったら娘をやろう!」


「いやぁそれほどでも――」


 ヒュンッ、カカカッ!

 ワシらの足元に突き刺さる矢。

 そしてズドーンズドーンと降り注ぐ鉄砲玉の嵐。


「バッチリ裏手も固められてんじゃねぇかクソが! 首を出せい!」


「もももも申し訳ありませんっ!!」


 全力ダッシュで寺の中に逃げ込むワシと蘭丸。

 どーすんだこれ。

 留まれば焼け死に、逃げれば討ち死に。

 謀反もピンチも慣れっこなワシじゃけど、これは流石に詰んでね?


「いやマジどーすんだこれ。蘭丸、策を出せぃ」


「信長様……最期まで貴方様にお仕えできて、私は果報者でした」


「諦めるの早ぇよ!」


 これだから最近の若いモンはガッツが足らん!

 ワシが若い頃はどんなピンチにあっても絶対に諦めなかったもんじゃぞ! 桶狭間とかな!


「じゃあ信長様な何かあるんですか、策が」


「それは無論――………………………敦盛でも踊るか」


「現実逃避しないでくださいよ!」


「仕方ねぇじゃろ。たった二人で軍勢相手に何をしろっちゅうんじゃ!」


 ざっと見えた限りでも、金柑頭の兵士の数は数千はおるな。

 んでこっちに居たのは蘭丸ほか小姓衆が数十人。


 うん。勝てるかボケ。

 っつか、ワシと蘭丸以外もうみんな死んどるじゃろ。


「クッソ、よりにもよってあの金柑頭、このタイミングで裏切るかフツー……? いったい何が不満だったっちゅーんじゃ」


「いや、不満ならいくらでもおありだったとは思いますが」


「あんじゃとぉ?! っ、げほっ、ごほっ!」


 叫んだら煙が喉に入ってきた。

 クソ、こりゃいよいよ年貢の納め時じゃのう。


「すまぬな蘭丸よ。こんな所でワシの死出の旅路に付き合わせてしもうて」


「どうしたんですか信長様、謝るなんてあなたらしくもない」


「ふん。最期の時くらい、ワシとてしおらしくなるもんよ」


 ここがワシの死に場所か。

 是非に及ばず、というやつじゃな。


 ワシは懐から愛用の扇を取り出す。

 最期の時は心安らかに、舞でもひとさし舞いながら迎えるとしようか。


「信長様……うぅっ」


「泣くな、蘭丸よ。なあに、今まで散々好き勝手してきたんじゃ。悔いなぞないわ」


 呵呵と笑いながらワシは心の中で拍子を刻み、舞い踊る。

 ふ、こうしていると、炎の熱も外の喧騒も遠のいてゆくわ――


「人間五十年ー、下天のうちをー――っ痛ェッ?!」


 誰じゃ今矢ぁ射ってきやがったのは!

 末期の敦盛くらいゆっくり躍らせんかボケェ!!!!


 背中にブッ刺さった矢の傷みが、ワシを現実に引き戻した。

 見れば光秀の兵士ども、とうとうここまで攻め寄せてきおった。


「信長様、危ない!」


 蘭丸が叫ぶ。

 一人の兵が刀を振りかざし踏み込んでくる。


「信長公! その首頂戴いたす!」


「だぁれが貴様なんぞにくれてやるかクソがァ!」


 抜刀一閃。

 ワシの愛刀、実休光忠(じっきゅうみつただ)の刃が、クソ雑兵の首を跳ね飛ばす。


 ぬるつく返り血の感触。

 四方から押し寄せる炎の熱。


 ここは地獄か。

 いや、ここが地獄ぞ。


 生きるも死ぬも同じことよ。

 どうせ地獄に居るのなら、なにを死に急ぐ必要がある!

 耄碌したか、第六天魔王!!


「満足面で敦盛踊って死ぬとかワシらしくもない! 最期まで見苦しく生き足掻いてこそよなァ!」


「そうです! その意気です信長様!」


 吼え立つワシに、蘭丸も小刀を構えて並び立つ。

 迫りくるは光秀の雑兵。

 数は数百か数千か。


 頭数なぞどうでもいい。

 こうなれば死ぬまで斬って、斬って、斬るまでよ!!


「往くぞォォォォ蘭丸ゥゥゥゥゥゥ!!!!」


「はいッッッッ!!!!」


 ワシと蘭丸は暴れに暴れた。

 次々と襲い掛かるクソ兵どもを斬っては捨て、斬っては捨て。

 肩を切られようが、腹を突かれようが、ワシらは止まらんかった。

 胴と首が離れるまで暴れ続けてやるつもりだった。


「ぜー……はー……どうじゃぁ金柑頭ァ……このワシを舐めンじゃねぇぞォ……!」


 やがてワシの周りには死骸の山が築かれ、流血の河が出来ていた。

 まさしく屍山血河。

 だが、敵の勢いは止まる様子がない。

 そんなにもこの信長の首が欲しいか。


「ここは、ちぃと戦術的後退じゃな……蘭丸、おるか蘭丸?」


 返事はなかった。

 ワシの最期の大暴れに付いてきてくれた忠臣は、いつの間にか自らも屍山血河の一部となっていた。


「いよいよ、ワシ一人、か……ククク、クハハハハハッ!!!!」


 腹の底から笑いがこみ上げてくる。

 絶体絶命じゃっちゅーのに、いよいよワシも頭がおかしくなったか。


 じゃが止まらん。止められん。

 ワシは笑いながら刀を振るい続けた。


「光秀ェェェェェェェェ!!!! 聞こえるかこのクソ金柑頭ァァァァァァァァァァ!!!!」


 寺の外に向かって叫ぶ。

 喉も裂けよとばかりにあらん限りの声量で。


「これで勝ったと思ったら大間違いだからなァァァァァァ!! 貴様なんぞ、どうせハゲネズミあたりに負けて、落ち武者狩りに殺されるのがオチに決まっとるわァァァァァァ!!」


 負け惜しみじゃと思うか?

 だったらそう思っておれ。笑っておれ。

 今だけは許してやる。そう、今だけは。


「貴様のそのしたり顔が絶望に歪むのを、地獄で見物させてもらうとするわッッッッ!! 先に逝って待っておるから、詫びの入れ方を練習して来るがいい、許すとは限らんがなァァァァァ!!!!」


 この無様なワシの死に様が、未来の貴様の死に様よ、光秀。

 因果は巡る。

 応報の時はそう遠くはあるまい。


「今一度我が名をその心に刻み、再会の時を震えて待て!! 我こそは第六天魔王、織田信長ぞ!!!!」


 肉体が限界に達し、刀を持つ手の感覚が失われても、ワシは戦った。

 斬っては叫び、叫んでは斬り、修羅のごとく羅刹のごとく戦い続けた。


「死のうは一定、偲び草には何しよぞ、一定語り起こすよの……!!」


 人である限り避けえぬ死を前に、自らの生きた証を残すため。


 ワシは最期の瞬間まで戦い続け――そして、死んだ。

・歴史人物解説その1

【織田信長】

言わずと知れた、日本史上最も有名な人物の一人。

うつけと呼ばれた青年が尾張の一大名からのし上がり、天下統一を目前にして部下の裏切りによって討たれたその生涯は、今さら語るまでもないレベル。

本作の信長はわりと横文字を喋るが、実際の信長も西洋文化への関心が深かったと言われている。

だと言って横文字は喋らないだろうが。レッツパーリィ。

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