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佳代子

作者: 郁


「ねえ、キスをしてもいい」


佳代子はそう言った。


「矯正ってどんな味なのかしら」


ただそれだけだった。佳代子は満足したように、にっこりほほ笑んで


「ソーダゼリーの味、おいしかった。」


と言った。

それが初めて彼女に会ったの日の事だった。




佳代子はよく笑うし、笑顔は無邪気で惹かれるものがあるけど、

夜に大雨が降ると、必ずはだしのまま外へ出て、空を見上げながら声を出さずに泣いた。

ひとしきり泣いた後は何事もなかったかのように、またけろっと笑ったりする。




佳代子は、確かに私の事を好いてくれて、愛してくれているけど、

どうしてもすくいきれない深い孤独を抱えていた。

お風呂上がりに髪を乾かしている彼女は、いつも上機嫌で鼻歌をうたっていた。



佳代子の胸は、吸い付くようになめらかで小ぶりで、私の手のひらにすっぽり納まる。

痩せていて、色が白い佳代子は、ベッドに横たわっているとまるで死んでるみたいに美しかった。



私の矯正が外れた頃、佳代子は突然姿を消した。よほどこの味が好きだったのかもしれない。

佳代子がいなくなっても、私の生活は続く。

だって元はいなかったのだから。

佳代子もきっとまた元通りの生活をどこかで送っているとそっとそう思った。

美しいものが好きです。美しい人が好きです。命をかけて生きている人が好きです。この身ひとつが千切れんばかりに目一杯生きている人が好きです。

辛い事だってあります、悲しいことだってあります、うまくいかなくて泣きたい夜だってあります。

でも、みんな自分の人生にだけは、ずっと居られるんです。そのずっと続く自分だけの道を誰が訪ねてきてもいいように留まって居られるんです。

嬉しいことだってあります、笑い転げる時もあります、食べ物の美味しさに感動する瞬間もたくさんあります。そうして、日々はすごい速さで進んでいくのです。何かが突然現れて、突然なくなっても、続いていくのです。でも、大丈夫、きっとまたうまくやれることを信じていれば。


生きることは素晴らしいこと、美味しいこと、気持ちがいいこと。

佳代子は髪を乾かす時はいつもそう思っていたに違いないのです。

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