日記帳
『……疲れた。お義父さんは今日も怒ってばかりだ。相変わらず誰に怒っているのかは分からない。ロストワンとプリンセスには怒っていないと思うけど。
夕方になってから、珍しくヒーローが傷だらけになって帰ってきた。何か失敗していたんだろうか、酷く当たられた。幸い話を聞いてあげるとすぐにいつものぶっきらぼうに戻ってくれた。
ナイチンゲールはまだリトルナースと名乗ったままだ。早く思い出して欲しいし、僕も自分の事を思い出したい。
それでここから逃げるんだ。
逃げなきゃ……』
「……ねぇプラケーター、これ何?」
「リトルナース、それは日記帳だよ。僕の日課なんだ」
僕の妹は放火事件で記憶を無くしてしまい、周囲の大人達によって半ば強引にここに入る事になった。僕はそれを追ってきたが、ここはあまりに酷く、特殊な環境だ。
お義父さんは名前すら呼ぼうとしない。ただ怒鳴ってひどい事をするだけだ。
お義母さんはひたすら僕達に冷たい。しかし実の娘であるプリンセスの事はとても可愛がっている。
他の先生達はかなり厳しく、成績が宜しくないと体罰を加えてくる。
ここの大人達は総じて、ひどい事をしてきて僕達を名前で呼ぼうとしない。そういう人間だ。
だから子供達はお互いを「役割名」で呼んでいる。
僕だったらプラケーター、ナイチンゲールはリトルナース。プラケーターと言うのはカウンセラーの事らしい。
僕の隣で寝ているのはスケープゴート……「いけにえ」だ。
いけにえは生贄と犠牲、二通りの書き方があるが、彼女は後者である。自ら問題を起こして、誰かを守ろうとしているのだ。
皆は目に光がない。無論僕もだ。どんな時も、光なんて見えないぐらいに沈んでいた。どうにかして助けてあげたい。
だから、逃げてお義父さんを訴えなければいけないのだ。