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マフラーと人魚  作者: 山口はな


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1/6

 女の子が海岸を歩いています。首と手には、ふわふわした暖かそうな物を身に着けています。──誰かに呼ばれたのでしょうか。あわてて走って行ってしまいました。

 首に巻いたふわふわが、するりと落ちたことに気づかずに。ふわふわは海に落ちて、波が沖へと運びます。


(あのふわふわした物は何だろう?)


 海の中から見ていたのは、あかりと言う名の人魚の女の子でした。あかりはふわふわを追いかけます。尾をふたけりもしない間に、それをつかまえました。

 ふわふわだった物。つかまえたのは、白くて長いものでした。あの子が巻いていた時は、暖かそうだったのにべちゃっとして、冷たいのです。


 あかりは、海で織られた布で作られた服を着ています。海の中でも暖かく、陸に上がっても乾いている、そんな不思議な布でした。けれどふわふわしてはいないのです。


 あの子が戻ってきました。砂浜を探しながら歩いています。落としたふわふわを探しているのでしょう。あかりは迷ったけれど、音を立てないように泳いで、岩かげからそっと話しかけました。

「あなたが探しているのは、これ?」

「わあ! ありがとう。あなたが拾ってくれたのね。これね、おばあちゃんとおそろいで編んだマフラーだったの。見つかって、うれしい!」

「編む? それは編んで作ったの?」

「そうよ。編み物知らない?」

 あかりは首を横に振ります。ぬれていて、よくわからなかったけれど、こんな布は見たことがありません。太いひもが組み合わさってできている、不思議な物です。


「編み物ってむずかしい?」

「ちょっぴりむずかしいけど、なれればだいじょうぶ。見つけてくれたお礼に教えてあげよっか?」

「いいの?」

「うん! 家に行こう。ここじゃ寒いもん」

「お家に? ……お母さんにお願いしてくる。明日でもいい?」

「うん! 明日のこの時間に、ここで待ち合わせしよう! 本当にありがとう。またね!」


 「またね」の言葉がうれしくて、あかりはニコニコして、「またね」を返しました。明日、行かせてもらえるといいな、そう思いながら。


 女の子が階段を上って、帰っていくのを見送ってから、パシャンと、海へ帰ります。

 家に帰るとすぐに、あかりはお母さんにお願いに行きました。

「お母さん、明日陸に上がりたいの。お願い」

「急にどうしたの? 陸は危ないのよ? あなたが海から来たことが知られたら、捕まってしまうわ」


 あかりは今日の出来事を話しました。マフラーを見つけたお礼に、編み物を教えてくれることを。


「……そう。お母さんが会ってみて、いい子だとわかったら、行かせてあげる」

「うれしい。ありがとう、お母さん!」

「気が早いわよ?」

「だってあの子、いい子だもの。絶対に大丈夫」

 名前も聞き忘れた人間の女の子ですが、なぜか仲良くなれる気がしていたのです。


「それなら、行けると思って準備をしましょう。陸に上がる時の注意、しっかり頭に入れてちょうだい」

 お母さんは、あかりの目を見て、ゆっくりと話をしてくれました。


「陸には道があるの。真ん中を歩いてはダメよ。道の端を通りなさい。車という大きな乗り物に殺されてしまうわ。道には信号という物があって、赤と青に光ります。青になったら、道を渡れますからね。それと、人間の家に入るときは、靴を脱いでね。『おじゃまします』とあいさつすること」

「お母さん、靴ってなあに?」

「そうね。一度陸に行きましょう。教えてあげるわ」


 お母さんは、荷物を袋に入れて準備をしました。手をつないで、陸へお出かけです。

 海から顔を出すと、薄暗くなり始めていました。


「いい? しっかりと人がいないことを確認してから、陸にあがるのよ。右も左も前も、全部見てね」

「はい。右見て、左見て、前も見て、うん大丈夫」

「それでは行きましょう」


 一度海に潜ってから、陸からは見えないであろう岩陰に隠れます。

「このスカートをはきなさい。」

 お母さんが渡してくれたのは、赤いひらひらしたスカートでした。はくと、尾っぽが足になりました。

「お母さん、すごいよ。あの子と同じ足になった!」

 見ると、お母さんもスカートをはいて、足になっていました。お母さんのスカートも私と同じ、赤色です。ひらひらしていたら、おそろいなのに。少し残念でした。


 お母さんは、靴下のはき方を教えてくれます。これには時間がかかってしまいました。尾っぽが二つになっているのが、変な感じなのです。時間がかかったけれど、何とかはくことができました。

 次が靴です。運動靴という、はきやすい靴でした。


 お母さんは、薄くて、長くつながっているものをはこうとしています。とっても大変そう。私は靴下で良かった、とあかりは思いました。

 薄くて長いものをはいたお母さんは、『かかと』という部分が高い、形のきれいな靴をはきます。大人の女性がはく靴らしいです。


「さあ、少し歩いてみましょうか」

 あかりはお母さんと手をつなぎました。


 砂浜は、面白い感触です。水に近いぬれている砂の上を歩くと、足跡が残りました。乾いているところは、少し歩きにくい。人は、こんな風に歩いていたんだ。だんだん歩くのになれて来て、少し早く歩いてみます。

 二本の足が交互に動くのが面白く感じて、もっと早く交互に動かしてみようと頑張ってみました。

「うふふ。面白いね、お母さん。お母さん?」

 いつの間にか、お母さんの手を離してしまっていました。あわてて、お母さんの所にもどります。


 大人の女性用の靴は、歩きにくいのだそうです。『かかと』の部分が、砂にめり込んでいます。

 あかりはお母さんの手をしっかり握って、一緒にゆっくりと歩きました。


 道の渡り方を教えてもらうために、『階段』というものを上ります。足を持ち上げる感覚が分からなくて、あかりはつまずいてしまいした。べちょっと階段に手をつくと、ぶつけた足と手が痛かったです。

 お母さんが手を貸して、起こしてくれました。


 もう一度挑戦です。手で片足の『太もも』を持ち上げて、一段上に乗せました。もう片方も持ち上げて、これで一段上れました。

 お母さんは片足ずつ、器用に持ち上げて上っていきます。私もやってみよう、と手で持たないで上ってみました。

「よいしょ。よいしょ」

 ゆっくり、ゆっくり。片足ずつ交互に持ち上げるコツが、わかった気がします。お母さんのように登れるようになったら、階段の上までたどり着いていました。


 階段の上には、石で出来たでこぼこのない道が、どこまでも続いていました。

 目が光る『車』というものが通って行きます。イルカよりも早いので、びっくりしました。

「あら、イルカもあのくらいのスピードなら出せるわよ。あなたは本気の速さを知らないだけ。だけど、車が本気を出したら、イルカより早く走れるのは確かだわ。」

「イルカも車もすごいのね。」


 あかりはお母さんと手をつないで、ゆっくりと道の端っこを歩きます。

 信号も教えてもらいました。『横断歩道』を青になってから渡ります。今から特別に、いいところに連れて行ってくれるそうです。


 どこに行くのかな。とっても楽しみです。

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