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私の名前は御子柴和音。小学校に入学したての幼女である。あーついね。つい、幼い少女のことを幼女と呼ぶ癖がついていてね。なんってったって、和音の中身は転生者ですから。
生まれたての子羊編から一気に小学生になってしまったが、ここまででわかったことを少しばかり説明しよう。
まず、この世界はなんの因果か、前世で私が好きだった小説の世界であることが判明した。ヤッパリネー! って思ったでしょう。私も思ったよー。
そして、私こと御子柴和音はななななんと! 名門御子柴財閥のご令嬢だったのであります! ヤッパリネー!って(以下略)
原作和音はとてもわがままで恋に生きるおしゃまなお嬢様だったらしい。外伝としてヒーローであり和音の婚約者でもある宝生玄至とともに和音の様子も描かれている。
外伝では天使たちだった、と私は思った。そう、あの頃は可愛かったのに……状態だ。
外伝での和音と玄至はそこそこ仲が良かった。5歳で婚約者として顔合わせをするのだが、和音は玄至に一目惚れ。玄至は年下の、おしゃまで見た目だけは一等可愛い和音を妹のように可愛がっていた。しかし歳を重ねるごとに二人の間に溝が生まれ始める。
女の子は成長が早いと奥様方が語っていたのをよく耳にしたものですが、和音もそれにがっちり当てはまった……いや、その斜め上をいった女の子でした。
最初はわかっていなかった自分の家の地位の高さを自覚した彼女。小学校で取り巻きが完成してしまったのもいけなかったし、小学校でモッテモテな婚約者殿もよくなかった。
自分の家の持っている力と自分の立場を理解し、そして婚約者を独り占めにしたいおしゃまな女の子は成長するに従って計算高く狡猾に成長してしまう。玄至に近付く女の子に呼び出しから始まり、次は嫌がらせ、次は権力をちらつかせはじめ……どんどんエスカレートさせていく。
外伝で描きたかったのはここなんでしょうね。
本編ではヒーローである宝生玄至は、和音を嫌がるそぶりを見せつつも、物語の終盤まで煮え切らない態度をとっていました。私も思ってました。さっさと切っちまえそんな女! と。
しかし、外伝を読むと少し玄至の気持ちがちょっとだけわかってしまった。彼は和音を妹のように思いつつも、感じていたのでしょう。計算高く狡猾な彼女の元を作ったのは、ただひたすらに一途な玄至への恋心であったと。まあ、それでもやった悪行は許されませんがね。みんなのヒーローは情を捨て切れなかったというわけです。
まあ、良くも悪くも和音は玄至しか見えていない。本来そんな女の子なのです。
で、現実にもどりますが。
5歳のときに、予定通り出会いました。玄至さんとね。で、婚約者にもなりましたよ。試しにちょっとだけ「婚約ってぜったいしなきゃダメ?」って父にお伺いたてたんだけど、「ダメ」って言われちゃった。流される系の前世を覚えているので、どうもそれ以上は強気には出れなかったんですよね。そんな私がね?わがまま言いたい放題するおしゃまなお嬢様になるのが全然想像つかなかったんですよね。だからちょっと思ったんです。物語の強制力で、私が原作和音らしくなっちゃったりして! とかってね。そうでなければ原作どおりにならないでしょ! って、確信がありましたから。
ですが、現実では特に何もありませんでした。
現状報告だけすると、玄至さんは外伝のように私を可愛がってる感じはありません。どちらかというと、ケツを引っぱたかれている和音と兄(保護者)という感じ。どうしてこうなった!
当然、恋愛感情も湧きません。
まだ玄至さんと出会った当初は、気合いはいってたんですけどね。チート(前世知識)使って勉強頑張ってみよう!とか、体力つけよう!とか。
でも平凡な日々を過ごしていると、「なんだかんだで、どうにかなるんじゃね?」って気分になっちゃって。「明日からがんばろー」と言い続けているうちに玄至兄さんはダラダラした私のお尻を叩いては「もっとしゃっきりしろ!」とおったててくるようになって。
普通に過ごしてても全然、悪役令嬢になる気配なし!
現実なんてこんなものですよ。(笑)