二章の四
夕餉はとても豪華なもので、気後れしてなかなか喉を通らなかった。膳には春らしく菜の花を胡麻で和えたものから、母から鯛だ、と教えてもらわないと知ることもなかった鯛の焼き物。蛤の吸い物。炊き立ての白いご飯。いつも玄米を食べている結子にしてみれば白いご飯にまず驚いた。体に良いからとできるだけ食べなさいと促され、ゆっくり噛みながら全部食した。
膳をさげた宮女が去ってしばらくすると、別の宮女が現れて帝がお待ちですと伝えた。
宮女の後ろを歩いていると、どうにも不穏な動きをする宮女が気になった。後ろを振り向いては結子をじろじろと見る。何故こんなにも見られなければならないのか。そんなに祓い巫女が珍しいのだろうか。
仁寿殿。今はほとんど使われていないそうだ。
元服、裳着の儀式をしている殿なのだそうだ。
帝を待っている間に母がいろいろと教えてくれる。
「母はいつもここで舞を舞っていました。これからは結子、あなたが舞わねばなりません」
結子はこの広い殿を見渡した。
本当であれば母が舞っている姿を見ることができたはずだったのに、それも叶わない。
結子は唇を噛みしめた。詳しく知らなかったにせよ、母が今まで命を削ってまでしてきたお勤めを、愚弄する人がいるのが許せなかった。
母の顔からも悔しさが見え隠れしていた。帝に頼りにされていたはずだ。
こんな形で役目を終えることになろうとは思っていなかったに違いない。
遠くから人が歩いてくる音がする。
母に促され三つ指をし、深く頭を下げる。
「待たせたかな」
頭の上から低い男の人の声が降ってくる。ゆっくりとした口調で話し始めた。
「依子。傷の具合はどうだ?」
「少し痛みますが、手当てをきちんとしていただきましたので大丈夫です」
「そうか。まさかこんなことになるとは私も予想できなかった。しかし深が駆けつけたらしいな。本当に無事でなによりだった」
「ありがとうございます」
「隣にいるのが娘か?」
「はい。娘の結子でございます」
「面をあげるがよい」
結子は緊張で震えながら頭を上げた。




