二章の二
結子は深に会えたらとても嬉しい気持ちになるだろうと思っていた。しかし今はこの状況に戸惑っていた。
深は母の依子を一緒の馬に乗せ、結子は深の友人だという藤原行兼の馬に一緒に乗っていた。怪我をした人たちは近くの宿屋で手当てを受けているらしく、帝のところには依子と結子だけが向かうことになったのだ。
こんなに男性と近寄ったことがない。深とも小さい頃手を握った程度。背中から行兼様の息づかい、胸の暖かさを感じて冷静ではいられない。そして深の様子も気になって仕方ない。
前を行く深の後ろ姿を見つめながら先ほどの深の言葉を思い出していた。
「その身体、いつからだ」
うちの家系のことを知っているのだろう。今まで聞いたこともない声音だった。
いつもの優しい雰囲気は全くなく、話しかけられても普通に話せるのかと不安が襲う。
しかもこれから帝に会うらしい。母は怪我をしているというのに。
御所は広い。もうどこを歩いてきたのか全く分からなくなっていた。複雑に造る必要があるのだろうかと結子は待て、と言われた部屋で考えていた。宮女の話しでは、今は使われていない梅壺という場所らしい。急遽使うことになったので先ほどまで宮女たちが慌ただしく片付けていった後だ。結子は汚れてしまった着物をを脱ぎ、持ってきた荷物から適当に選んで着替えを済ませ、母が傷の手当てをしてもらっているのを側で見ていた。
結子が思っていたよりも傷が深く、もう手が肩より上がらないかもしれないと医事から伝えられ母は青ざめていた。結子にしてみれば命が助かったのだ。喜んでいいはずなのにと思うのだが。