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黒の舞姫  作者: 藤宮 蒼
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一章の五

「思い出した。おまえ断りにくい女人に好かれたなあ」

「どうゆうことだ?」

「一番帝がご寵愛されている女御様の女房だな」

「麗景殿のか?」

「そうだ。茜という女房を気に入っているって話を聞いたことがある」

どんな娘だったか特に気にもしてなかったからほとんど覚えていない。もともと興味のないことは覚えない性質だ。

「で?どんな女だ?」

「実はあまり覚えていない」

「何度も会ったことあるのだろう?こりゃあお前の好きな子がどんな子なのか、そっちの方が気になってくるな」 

行兼は深ににやついた顔を近づけてくる。行兼に結子を会わせたくはないなと深は思った。

「何故かお前には会わせたくなくなってきたな」

「俺は他に男がいる子には手はださないさ」

高笑いする行兼に深は親しみを感じた。今まで接してきた中で、ずば抜けて明るい。深自身かなりひねくれた性格のせいか、素直な行兼が眩しく映る。欲しいものを欲しいと言ってみたい。深は結子の姿を思い浮かべた。


「それでどう断ればいいんだ?」

「邪険にしていいものか考えていた。お前最近帝から何か役職もらったらしいな?」

「秘密裏にされているから行兼にも詳しくは話せないが、そのとおりだ」

「いや、大丈夫だが」

行兼は知っているようなそぶりを見せる。

「知っているのか?」

「俺の親父が榊様と親しいからな。ちょっと小耳にはさんだ」

「そうだったのか。それで邪険の話しだが」

「麗景殿の女御様が最近皇子をお産みになっただろう。その皇子がずっと元気がないらしくてな。もしかしたら呪詛されているのではと噂になっているそうだ」

「それは知らなかったな」

「お前お役目大丈夫か?その呪詛を祓うのに白亜村から巫女がくると親父が話していた。お前の好いている子ってその巫女じゃないのか?今麗景殿の女御様に嫌われるようなことがない方がいいかと思ってな」

噂話に疎い深は内容を聞いて愕然とした。あの茜という女房も女御様から聞いたのだろう。帝も榊様も何故話してくれなかったのか?

「おい深。顔色悪いぞ、大丈夫か?」

「そうだ、その子だ。俺はその話し知らなかった。教えてくれて感謝する」

「俺も昨日聞いた話だ。帝から今日か明日あたりに呼ばれるかもしれないぞ」

「自分の勉強不足だ。呪詛でも呼ばれることがあるのか」

「その子の母親だろう?今の祓い巫女は。見たことがある。とても綺麗な人だったな。凛とした雰囲気が漂っていたのを覚えている。そろそろ身体がもたないだろうから世代が変わると思っていたよ」

「行兼詳しいな。確かに依子様は綺麗な方だ。俺には怖い方だが」

「娘を狙っていると思われていたんじゃないか?」

深は少し考え。

「そうだったのかもしれん。目つきがとても怖かった」

「ははは。お前の自信のないような顔初めてみるな。そのくらいの方が仲間増えるぞ。俺の方でも親父から何か情報ないか探りをいれてみるからまた来いよ」

「すまん感謝する。よろしくたのむ」


 行兼の言っていた通り、その日の夜に帝から来るようにと使いの者がやってきた。

鳩の世話をし、夕餉を済ませきちっとした服装に着替える。

最近は碁の相手もしていなかったので帝に会うのも久しぶりだ。

いつになく静かだった。

今上の帝は宴を好まず過ごされるのが一番というお方だ。それにしても今日は特に静かな気がする。

来たことを告げると中に通される。いつもなら入ったと同時に帝の明るい声が聞こえてくるのに今日はそれがない。少し待つように言われ、その場に座った。

程なくして、帝が麗景殿の女御様を連れて現れた。

帝に支えられて腰を下ろした女御様の顔色を見て深は息をのんだ。青白く、座っているのもやっとといった感じだ。

深は慌てて礼をした。

「深久しぶりだな。礼はいいから顔をあげろ。話しがある」

ゆっくりと顔をあげると帝は深に近くまで来いと命じた。

「祓い巫女の勉強は進んでいるか?」

「はい。榊様にご教授いただいて頑張っておりますがまだまだ覚えることがたくさんありまして」

「そうだろうな。わたしも詳しくは知らんからな。ほとんど榊の家系に任せてしまっていた。これからは深が榊と一緒に執り行ってほしいと思っているよ」

「頑張ります」

「今日はもう祓い巫女をこっちに呼ばせてあることを話さねばならん」

「呼んだのですか?」

「いつもならば来るまでに十日はかかるところ五日くらいだろうか。もう明日かその次の日には来るはずだ。予定通りなら今月の末に、元々依子に舞を頼んでいたからその時にと思っていたが。まさかこんなことになるとは」

そんなに急がせたのなら今回結子はまだ来ないなと深は少し安堵した。しかし。

「依子が娘に自分の姿を見せたいからと一緒に来るそうだ」

「一緒にですか?」

「そろそろ依子も身体が辛いらしい。きちんと祓いができなくなるかもしれないと文には書いてあった」

さっき行兼が話していた内容と合致する。依子様はまだまだ若いが、体に負担がかかるのだろうと察しがついた。結子がそれをこれからするのだと思うと複雑な気分になった。

「今回は本当に急ぎでお願いした。今日は絢子を連れてきた」

絢子とは麗景殿の女御様の名前だろうか?

女御様がじっと深を見た。顔色が優れないのが気にかかる。

「実は私たちの皇子がここずっと元気がない。乳もほとんど飲んでくれず、最近は泣きもしなくなった。心配で絢子も体調を崩しかけている」

行兼が言っていたことだ。

「呪詛、でしょうか?」

「いろいろ手は尽くしたがもうそれしか考えられない。それで急遽依子に文を書いたのだ」

急に女御様がよろっと立ち上がった。そして深の側まで来た。切羽詰まった様子の女御様を深は見つめた。

「祓い巫女の準備の方よろしく頼みますよ」

深の手をにぎり、根を詰めた顔で頼み込まれる。

「女御様。準備の方は榊様と共にしっかりやりますのでお気を確かにお待ちください」

女御がほっと息を吐いて帝の隣に座った。

「準備の方は明日中には終えられるか?」

「私も初めてのことですので。懇意にしてもらっている藤原行兼に手伝ってもらえるようお願いしてもよいでしょうか?」

「行靖の息子か。よい。全てお前に任せる。鳩で文を飛ばせ。榊はもう呼んであるからもう着くであろう。では深頼んだぞ」

「はい。お任せください」

深は帝と女御に礼をしてすぐさま文を書き、鳩に付けて飛ばした。行兼ならすぐに来てくれるだろう。女といなければだが。

今夜は寝ている暇はない。しかし明日か次の日には結子に会えると思うと少し浮かれてしまう自分がいた。その気持ちを振り払って準備に取り掛かり始めた。





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