一章の三
深の朝は早い。
火急の知らせや帝からの文を鳩で届ける。この仕事を任されるようになってからは、朝の鳩の世話が日課になった。決まった時間に外にはなしてやり、帰ってきたら餌をやり可愛がる。仕事の内容を知らないものにしてみれば深の行動は帝の鳩の世話をしているだけにうつるようだ。だがそれでいい。文を飛ばしていると知っている人が少ない方がよいのだ。
「深様。おはようございます」
鳩を撫でていると後ろから女人の声が聞こえた。振り向くと、何故か何かと良くしてくれる茜が立っていた。誰かに仕えている女房なのだろうが気にしたことはない。何の香なのか分からないが、その香りは深にとって嫌な臭いで、茜がいろいろと面倒を見てくれているのには感謝してはいるのだが実際少しうっとうしい。だが、変な噂が立つのもまずいと思い邪険にもできずにいた。
「何か用事か?」
しかしつい邪険にするような話し方になってしまう。
「いつになく冷たいのですね」
「用事がないなら自分の仕事に戻れ」
「最近ずっとその書物を読んでらっしゃるのね」
深は帝から祓い巫女の手順を覚えるようにと書物を頂いていた。あれからすぐに碁の相手をする機会に恵まれ、思い切って話してみると拍子抜けするくらいあっさりと許可が出た。今まで担当していたご高齢の榊様に、いろいろと教えを乞うために毎日のように屋敷を訪ねていた。
「大切な役目ができたから忙しい」
「ご実家の村に好いた方がいるとお聞きしました」
深は眉間にしわが集まったのが分かった。
結子のことは誰にも話したことがない。どこから?白亜村のことも知っているのは、帝と榊様くらいしかいない。
「それを知ってどうする」
「好いた方の想い人がどんな方なのか気になります」
「何?」
今この女はなんといった?
「わたくしは深様をお慕いしています」
この茜という女房に好かれるようなことを全くした覚えがない。
できるだけ若い女には近づかないようにしてきた。




