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黒の舞姫  作者: 藤宮 蒼
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二章の九

 結子の湯浴みの後に結子に会ってほしいと、依子様からの文が深に届けられていた。

詳しくは書かれておらず、用件のみの文だった。何かあったのだろうかと不安になったが、本当に大変なことが起きたならすぐに誰かが呼びにきてくれるだろうと考えなおした。

明日の舞の準備をしながらも深はさっき会った結子の体の変化のことを気にしていた。

この間会ったときはまだ可愛らしい童のような姿だったのに、あっという間に大人の女性へと変わっていた。

あまりに綺麗になっていて、戸惑い。結子に優しい言葉も、会えて嬉しいと声をかけてやることすらできなかった自分に腹を立てていた。

不安そうに行兼の馬に乗ったときもちょっと声をかければよいものを。

何故それすらもできなかったのかと深は自分自身に戸惑っていた。

依子様の怪我の具合からすれば、今回の舞は結子が舞うことになるだろうとは思っていたが。いざそうなってみると深は怖くて堪らない自分がいることにびっくりしていた。

もしかしたらこのまま結子が舞の影響で死んでしまうかもしれない。

悪い方へ悪い方へと考えてしまい深は頭を抱えた。

「ここにいたのか」

ふっと隣に行兼が来ていた。

「舞の準備は無事に済んだ。少し休んだらどうだ?」

「行兼には苦労させた。助かった」

「どうかしたのか?顔色が悪いぞ」

「今回の舞、とても心配している」

「お前の想い人が舞うわけだからなあ。確かに心配だろうけど。やるしかないのも分かっているだろう」

「それは分かっている。結子しかやれる人がいない」

「あの子お前に声をかけてもらえないのを淋しがっているようだったな」

深はようやく行兼の顔を見た。

「そんなように見えたか?」

「みえたみえた。ずっとおまえを目で追っているのが分かりやすかった。お前のことを好いているような目だったな」

本当にそうだったら良いのにと頭をよぎる。

「あの子依子様に似てとても綺麗な子だな。俺も少し口説きそうになったよ」

にやにやと笑う行兼を見ていたら悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。俺をからかっているのだ。

「結子は俺のだ」

「決めるのはあの子だろう」

さらににやにやする行兼を睨む。睨む深を見て笑いがこみ上げてきたらしく、行兼が声を出して笑った。

 遠くから女人の声がする。

「行兼様」

「おや、木葉どのではないか」

「榊様を見かけませんでしたか?」

「榊様なら明日にむけてもうお休みになったはずだよ。少し早いがね」

「そうなのですか。実は結子様に湯あみのことを聞いてくるように言われたのですが」

「結子に?」

深と行兼は顔を見合わす。

「では今結子は一人か?」

「はい。まさかこんなに時間がかかるとは思わず」

深は急に胸騒ぎがした。

「嫌な予感がする」

行兼が走り出した。「ついてこい」

行兼も嫌な予感がしたのだろう。先に立って走り出した。

湯殿の場所も知らぬからついていくしかない。

結子を想った。


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