二章の七
湯浴みの世話をしてくれる木葉という侍女はとても明るい子で、都のことを全く知らない結子に今流行っている菓子や遊びを話してくれていた。
菫重ねの着物から湯あみ用の薄い白い着物へと着替えさせられる。
木葉は結子の体を見て羨ましがった。
「とてもお綺麗ですね結子様。羨ましいです。私なんかまだまだ子供のような体で」
「私もついこの間までは子供のような体でした。うちの家系は好いた人ができるとこうなるみたいです」
「では結子様は好いた方がいらっしゃるのですね?」
木葉がきゃあと歓声をあげた。
「木葉さんも好いた方ができたら変わるかもしれませんね」
「だといいのですが」
同い年くらいの子と話しをするのも久しぶりでとても嬉しかった。
母のかわりに舞をすることに重圧を感じていたのが少し和らいだ気がした。
榊様からの指示に従い、木葉が湯をかける。
足の指から徐々に上に向かう。膝に続き内股にまでかけられ結子は動揺した。
「うちでの湯あみはここまではしませんでしたが」
「私も詳しくは知らないのですが、榊様が念入りにとのことでした」
「そう」
自分でしていた湯あみを人にやってもらう感覚にも慣れず、やり方も違うのに抵抗を感じた。母が教えてくれてもいいのに。結局母は私に舞しか教えてくれなかった。
髪も綺麗に梳かれ、纏め上げられた。
「湯船に入るのですか?」
「はい。入るようにと榊様から言われています」
「でも、私今まで湯船には入ったことがないので入らないのがしきたりだと思っていたのですが」
不安げな様子の結子を見て木葉は、もう一度榊様に事情を聞いてきますと言い残し、湯殿から出ていってしまった。
湯殿に一人残されると急に不安になってきた。本当に私が舞で呪詛を祓うことができるのだろうか。今まで舞の鍛錬を怠ったことはない。間違えずに舞える自信はある。
しかしその呪詛された人を目の前にして、自信たっぷりに舞えるかと言われればそれはできないなと思う。経験不足なのは当たり前だし、呪詛を身体に受けて自分の体はどうなるのかという不安はある。母は何度か祓って今生きているわけだが、今まで何人かは亡くなっている事実はあるわけだし。舞のことばかり考えていたら体が冷えきってしまっているのに気付いて結子は身震いした。
木葉が出ていってからなかなかの時間が過ぎた。榊様が見つからないのだろうか。
こんなことなら素直に湯船に入っておけば良かったなと少し後悔した。




