二章の六
結子が湯あみへ行くと、部屋には帝と依子の二人が残された。
帝が少し顔を歪めて話し始めた。
「依子、おまえが娘を都へ連れてこなかったのはあのことが原因か?」
帝が悲痛な目で依子を見つめた。
長い沈黙ののち依子は話し始めた。
「そうですね。幼い私には本当に怖かったです。あのことがなければ何度も娘を連れて来ていたでしょう」
「すまぬことをした。私がそちを嫁にほしいなどと話したばかりに攫われることになってしまった」
「いえ。帝のせいではございません。私も都へ来て、帝とお話しするのは楽しかったですし、母も特別嫌な顔を見せてはいませんでした。自分の娘を女御にしたいと思う輩がたくさんいるとはあのころは何も分かっていませんでしたので」
「それは私も同じだ。まさか攫って殺そうとするとは思ってもみなかった」
あれから何もかもが変わってしまった。
助けだされてからすぐに白亜村に帰った依子はしばらく家から出ることを禁じられた。まだ十二歳だったが、美しいという噂は多方面へ広がっていたので祓い巫女の身でありながら嫁にほしいとあとからあとから舞い込んできた。
「あのあと私は男の人と話しをしないように暮らしました。そのこともあって何年かぶりに垣間見た男に一目で恋に落ちるという失態をしまして。あの子を産みました。娘には私のような思いをしてほしくなくて今まで家から出しませんでしたが」
帝が依子に問うた。
「しかし娘の体はすでに変わっているように見えたが、好いた男がいるのではないか?」
「はい。私も知らぬ間に。深を好いているようです」
「深なら結子を好いているのではないのか?自ら祓い巫女のことを調べて私にやらせてほしいと頼んできたぞ」
「そうだとよいのですが、何か胸騒ぎがしております」
勘違いならよいと胸に手をおいて依子は帝と見つめあった。




