二章の五
きりっとしたお顔だが、優しい笑みを浮かべる帝を見て結子はほっとした。
「そなたが結子か」
「はい。依子の娘の結子と申します」
「依子、やはり似ているものだな。若い頃のお前に」
「そうでしょうか。ようやく大人になったばかりでございます」
「何を言う。おぬしを初めてみたのは五つくらいだっただろう。まあ、私もまだ子供だったな」
母と帝はそんなに前から会っていたのかと結子は驚いた。祖母のあとについて都によく来ていたのだろうか?
「早速本題にはいる。祓いの舞は踊れるのか?」
帝は苦渋の顔をして母に問うた。
「申し訳ございません。私は怪我でもう舞うことができないかもしれません」
「そうではないかと思っていたところだった」
「そこで相談なのですが、結子の初めての舞を今回お願いしたいと思っております」
「しかしまだ依子の舞を見たこともないであろう?」
「そうなのですが、もうやるしかありません。時間がないと深から聞きましたので」
「確かにその通りなのだが。心配ではないのか?」
「心配です。しかしもう舞えるのは結子だけです」
母と帝の間に緊迫した空気が流れる。
「榊の話しだと昔は何姉妹もいて交互に舞をしていたそうだが。いつのころからか子宝に恵まれない家系になってしまったからな。何が原因だったのか」
「私も詳しくは知らないのです。本当に残念でなりません」
帝が結子を見つめた。険しい表情に結子は背筋を伸ばす。
「結子。舞えそうか?」
「自信はありませんが、三歳から舞っている舞です。舞えると思います」
「そうか。三歳から舞うものなのだな。うむ。そなたに任せる。分からないことは母や深、榊から聞きなさい。段取りもあるしな」
「はい」
私に任せると言ってくれた帝を見つめる。
すっと襖が開かれ、湯あみの準備ができたと知らせがきて、結子は侍女に連れられ部屋を後にした。




