過去◆中3ー生足デビュー
もしかしたらご不快に感じる方が居られるかもしれません。その時は速やかに他の楽しい小説を読みに行ってくださいますよう、お願い申し上げます。
京は背が172cmあり、腰の位置も高い。スレンダーで、いわゆるモデル体型だ。本人は小さい胸と張りのあるヒップのバランスが悪いと下半身を気にしているが、周りから見れば贅沢な悩みだ。当然ながら足も長い。そして、その“足”こそが、京の悩みの種であった。
中学3年の夏から、28歳の現在に至るまで、彼女の周りには「足フェチ」を自称してはばからない男女が常時存在していたのである。
中学・高校と陸上競技を行っていた京の足は、あまり筋肉質にはならずほどよく筋肉のついた細い足をしていた。
運動をまったくしなくて細い、いわゆる「サリーちゃんの足」とは違う。
母に言われて日焼け止めをつけるようにしていたので焼けすぎず、かといって白すぎない健康的な足に部活で走りこんで浮かび上がった汗が流れる。
中学3年。京は3000mおよび1万mの選手として、最後の県大会出場に向けて地区予選前の練習をしていた。そんな7月のある日のことだった。
部活を終え、ほとんどの部員が足早に水場へ向かう。京は混雑を避けるためにちょっと時間をずらそうと水場にいく途中で足を止め、体から吹き出る汗を手持ちのタオルでぬぐっていく。顔、首、腕。そして足を拭こうと近くにあるベンチに足をかけかがんだ時、それは聞こえた。
ごきゅっ。
はっとして、かがんだまま顔を上げると、そこにはさっきまで一緒に部活で汗を流していたと思われる同学年の男子数人とマネージャーの早苗香が立っていた。
皆の視線が京の足に集中している。痛いほどだ。どちらも時間が止まったかのように固まっていた。京は得体の知れない雰囲気に身動きが取れずにいた。
汗はその間も止まることなく吹き出し、流れる。早苗が意を決したように京に声をかけた。
「あの・・・汗、拭こうか?」
「え?」
早苗が一歩一歩慎重に歩み寄る。獲物を狙うハンターのように。そして、京の足の傍に屈むと、その手にもっていたタオルで、そーっとふくらはぎを流れる汗をぬぐう。
「・・・かおるちゃん?」
京は動かない。いや、動けなかった。早苗の手が震えているのが判るからか。
「きれいな足・・・。触りたい、ね、ちょっとだけ。いい?」
そう足に声をかけると(京に、では無かったと断言できる)震える手で、そっと今拭いたふくらはぎに手を当て、軽くなでる。
ぞわぞわっ
京の背筋を冷たいものが走った。意味がわからない、恐怖。
何分も経ったような気がしたが、たぶん5秒くらいだろう。恍惚とした表情でなでた手を自分の口に持っていき、腰砕けになりながら早苗が退いた。
「ありがとう。この手は一生洗わないから!このタオルも!」
と、まるでアイドルと握手できたファンのような反応を京に向けながら。
「えっ・・・と」
どう反応したらいいのだろう。上半身を起こしながらベンチにかけていた片足もおろす。しかし脳細胞は沈黙を保ったままである。そこから京は更なる窮地に陥る。
「俺も。汗拭いてやるよ。」
と、いつの間にか同じ陸上部の恩田と長崎が左右に分かれて京の足元にひざまづき、恩田はふともも、長崎は膝裏と膝頭を丁寧にぬぐう。そして、早苗と同じように自分がぬぐった箇所を宝物を触るように優しくなでたのだ。震えそうになり、奥歯をかみ締める。
そのあともその奇妙な光景は続いた。陸上部だけだと思っていた男子の後にサッカー部部長の福田くんと副部長の伊東くん、剣道部主将の大熊くんと合計5人の男子に満遍なく足の汗を拭われ、なでられた。
京はそのままその場にしゃがみこみたい気分だったが、次に何をされるかわからない恐怖に支えられ、かろうじて立ったままでいた。
「何なの・・・。」
その場にいた全員がその儀式(?)を終え、口々にありがとうと言ってタオルに顔をうずめたり、自分の手をなめたりしている異様な光景に、やっと出た疑問を問う声は擦れていた。
「私達、ファンクラブなの」
何の。
「ここにいる皆、織川さんの足に惚れ込んだんだ。」
それがタイムや脚力など常識的に考えられる意味でないことは判った。ちょっと涙が出そうだ。
「今年の春くらいまでは普通に足がきれいだな、位だったんだけど・・・」
「夏になって、短パンになってからがやばかった。」
陸上部のユニフォームなんですが。恩田君も長崎君も同じ格好しているのに。
「暑くなってきて、頻繁に汗を掻くようになって。一度見たら忘れられないんだ。夢にまで出てきちゃうし、ずっと見ていたい、だんだん触りたいと思うようになってきて、しまいには嘗め回したくて頭がおかしくなりそうなんだ。」
大熊君。私の頭がおかしくなりそうです。
「同じように思ってる奴、たぶんイッパイいるぞ。7月から校庭を見学してるやつ増えただろ?織川さんの足がだれかに襲われるんじゃないかとひやひやしっぱなしだったぜ。」
なあ、と同意を求める福田君に伊東君もそうそう、と合槌を打っている。
私はこの状況にひやひやしっぱなしです。
「だから、ファンクラブ作ったの。で、私達は親衛隊。親衛隊として京の足を守る代わりに、今日みたいに触らせて欲しいの。ほんのたまにでいいの。ちょっとだけ。ね。」
真っ赤な顔で私の足に触った手を頬に寄せ、とても幸せそうな顔をする早苗ちゃん。あなた普段からふざけた振りして足触ってくるじゃないですか。興奮しているのが怖くて最近近寄らないようにしていたのに、近づかないで欲しいです。
「そうそう。そうしてくれたら、自制できるから。」
「ちゃんと守るし。」
いやだ、だめだ、やめてくれ、そういいたかった。
・・・しかし、最近の強い視線の原因が自分の足であることに、なぜか納得してしまった。すれ違いざまにスカートを捲られたり、わざと近づいてきて足を触られることが一日に何回も発生するようになり、夏だからだろうかと無理矢理自分を納得させ、なるべく男子に近づかないように警戒するようになっていた矢先のこの爆弾発言の連発。生きた心地がしないとはこういうことなのだろうか。中には女子も触ってきていたが・・・。
休日に家族と一緒に電車に乗っていれば痴漢に遭遇するしで、ちょっとした引きこもりになりそうな鬱々とした気持ちを振り払うように部活にも熱が入っていたのだが、それはすべて裏目に出ていたのだろうか。そう言われているような気がする。京の困惑は深まるばかりだ。
「織川さんを待ち伏せして捕まえようかって話してる野郎どももいたぞ。潰しといたけど。」
なあ、とサッカー部の恩田君と長崎君が言うと、
「俺も、灸を据えておいた。」
と剣道部主将の大熊君も竹刀を振るうまねをする。
すでに守られていたのか。
全員がじーっと京の返事をまっている。ここで首を横に振れば、明日からたくさんのアプローチに自分ひとりで対応しなければいけなくなるのだろうか。結論は早々に出た。
一人は無理。
京に出来ることは首を縦に振ることだけだった。
こうして中学生活が終わるまでは親衛隊の男子6人女子1人にまわりを固められ、ちょっと嫌な思いもしたが、おおむね平和に終わった。
足フェチの皆さんごめんなさい。
誇大表現になってるかと思います。100%私の妄想です。ご容赦を・・・