「お姉様がいると目立てませんもの」と言われて、妹に追放されたので自ら悪徳令嬢になってざまぁします!~追放された令嬢、敵対貴族と手を組んで実家を丸ごと崩壊させてやりました!?~
「お姉様は、この家にはもう必要ございませんわ!!」
妹のアリシアがそう告げた日、わたくしは生まれ育った公爵家から追い出された。理由を尋ねると、返ってきたのは実に身勝手な答えだった。
「そんな簡単なこともわからないなんて、本当に癪に障りますわ。理由は単純.......お姉様がいるとわたくしが目立てませんもの! それだけですわ!」
「それだけ、ですって? 随分と潔い動機ですこと」
「あら、正直に申し上げただけですわ。他の家の方に取り繕う必要もございませんもの」
悪びれもせず言い切るアリシアに、わたくしは思わず苦笑した。幼い頃から姉妹で比較されるたびに拗ねていた妹だったが、まさかここまで開き直るとは。
両親はいつの間にかすっかりアリシアの言いなりになっていた。おそらく日頃から巧みに言葉を操られていたのだろう。
「エステル、お前には失望した。荷物をまとめて出ていきなさい」
父の冷たい宣告に追い打ちをかけるように、婚約者だったレイフ様までもが、アリシアの涙に絆されて婚約を破棄する始末である。
「エステル嬢、アリシア嬢を悲しませるとは......随分と酷い姉だったのですね。そんな人とは、今後うまくやっていける気がしないよ。残念だが、婚約の話は白紙に戻させてもらう」
「あら、随分と一方的な言い分を、簡単に信じられますのね。証拠の一つでもお持ちですの?」
「証拠などアリシア嬢の涙で十分だ」
「涙は証拠にはなりませんけれど、まあよろしいですわ。せいぜいその涙を信じ続けられるよう、お祈りしておりますわね」
淡々と返すわたくしに、レイフ様は罪悪感の欠片も見せず頷いた。実に見事な掌返しである。
(――結構ですわ。それなら、望み通り悪女になって差し上げましょう)
追放される馬車の中、わたくしは静かに闘志を燃やしていた。
---
行き場を失ったわたくしが向かったのは、ラングドン公爵家と長年対立してきたヴァルクライン侯爵家だった。
「これはこれは......公爵家のご令嬢が随分と大胆な訪問ですね」
侯爵は面白がるような目でわたくしを迎えた。
「単刀直入に申し上げますわ。わたくしと手を組んで、ラングドン家の内情を丸ごと崩していただけませんこと?」
「――ほう。実の家族に随分な物言いですね」
「家族と呼べる関係は、既に向こうから断ち切られましたもの。それに、わたくしにも多少の伝手と知識がございます。単独で動くより随分と効率的かと」
「具体的にはどのような伝手を?」
「取引先の帳簿、使用人たちの証言、そして妹の放漫な浪費の記録........長年、家の内側にいたからこそ得られる情報ですわ」
にっこりと微笑むわたくしに、侯爵はしばらく黙考した後、愉快そうに笑い出した。
「随分と用意周到ですね。追い出されたばかりとは思えないが.....まさか?」
「あら、随分と感がよろしいようで。追い出される前から、いずれこうなる予感はしておりましたの。備えあれば憂いなし、と申しますでしょう?」
「――面白い......乗りましょう!!」
かくして、わたくしと侯爵家の密約が結ばれたのである。
---
数週間後、ラングドン公爵家では奇妙な出来事が相次いでいた。
「な、なぜ主要な取引先が、次々と契約を打ち切ってくるんだ……!?」
父が頭を抱える傍らで、母も青ざめた顔で書類を睨んでいる。
「お、お父様、これは一体……?」
アリシアも、動揺を隠せない様子だった。もっとも、取引先が離れていく理由は単純である。
わたくしが以前から築いていた人脈を通じて、公爵家の内情――特にアリシアが裏で行っていた放漫な浪費や、不透明な資金の流れを丁寧に開示させていただいただけのことだ。
「お姉様、裏で何か手を回しているに違いございませんわ!」
半分正解の指摘に、わたくしは内心で拍手を送った。存外、勘は悪くないらしい。
「まあ、証拠もなく決めつけるとは随分と以前の状況に似ていらっしゃいますこと」
社交界の夜会で偶然を装って再会したわたくしに、アリシアは顔を歪めた。
「お、お姉様、一体何をなさっていますの……!?」
「あら、何のことかしら? わたくし、ただ古い友人たちと、お茶を飲んで世間話をしていただけですわよ」
「お茶を飲むだけで、こんな騒ぎになるわけございませんわ!」
「ふふ、お友達との会話に、随分な言いがかりですこと。せめて、わたくしが何を話したのか、証拠を集めてから断じていただきたいですわ。以前、わたくしがされたように、ね?」
嫌味を込めた言葉の意味に気づいたのか、アリシアの顔がさらに青ざめていく。しれっと答えるわたくしに、アリシアは言葉を失っていた。
---
「――というわけで、皆様。こちらが、アリシア嬢が横領した資金の詳細な記録ですわ」
満を持して開かれた夜会の場で、わたくしはヴァルクライン侯爵と共に集めた証拠の数々を披露した。
「な……なぜ、そんなものが……!?」
「そうですね、強いていうなら、随分と杜撰な帳簿管理でしたこと。追いかけるのに、それほど苦労はいたしませんでしたわ」
会場中がどよめく中、アリシアは真っ青な顔で立ち尽くしていた。
「お、お姉様、なぜこんな酷いことを……!」
「酷い、ですって? 証拠もなく家族から追い出しておいて随分と都合の良い言い分ですこと」
「わ、わたくしは、ただ目立ちたかっただけで、こんな大事になるなんて……!」
「目立ちたいという理由で実の姉を証拠もなく追い出しておいて、随分と身勝手な弁明ですこと。それに、さぞ楽しい日々を送れたでしょう?」
「......っ!? な、なんのことですの.....!?
「横領した資金の使い道、随分と派手な買い物にお使いだったようですわね?」
「そ、それは……! そ、それとこれとでは話が違いますわ!」
「あら、違いませんわよ? 証拠もなく人を断じた報いを今度はご自身が受けていらっしゃるだけですもの」
淡々とした指摘に、アリシアは反論の言葉を失った。父と母も、蒼白な顔で崩れ落ちるように椅子に座り込んでいる。
「エステル……いや、エステル嬢。どうか、お許しを……」
震える声で懇願する父に、わたくしは静かに首を振った。
「許すも何も、これは自業自得というものですわ。それにわたくし、もう公爵家の娘に戻るつもりはございませんの」
「せ、せめて、爵位だけは……!」
「それは、王家と監察院がお決めになることですわ。わたくしに泣きついても、どうにもなりませんことよ」
にべもない返答に、父はがっくりと肩を落とした。母もまた、言葉を失ったまま俯くしかなかった。
会場の隅で成り行きを見守っていたレイフ様が、意を決したように歩み出てきた。
「エ、エステル嬢、私は、その、誤解をしていて……もし許してもらえるなら、婚約を――」
「あら殿下、まだそんなことを仰いますの?」
わたくしは思わず失笑した。
「殿下は、涙一つで簡単に事実を捻じ曲げる方に、婚約を捧げていらしたのですわね。今さら誤解でしたと仰られても、わたくしの中では既に評価は定まっておりますわ」
「し、しかし――」
「殿下、往生際が悪いというのは殿下のような方のことを言うのですわね」
さらなる容赦のない一言に、レイフ様は顔面蒼白のまま、それ以上何も言えなくなった。
にっこりと微笑むわたくしの隣で、ヴァルクライン侯爵が満足げに頷いていた。
---
「――しかし、随分と鮮やかな手並みでしたね」
夜会の後、庭園でヴァルクライン侯爵にそう声をかけられ、わたくしは軽く肩をすくめた。
「あら、悪女を演じるくらい、造作もございませんわ。もっとも、演じているうちに随分と性に合っている自分に気づいてしまいましたけれど」
「それは重畳。これからも、良き協力関係を築けそうです」
「あら、協力関係、ですって......まさか、わたくしをこのまま丸め込むおつもりでは?」
「――さて、それはこれからのお楽しみということで、ね?」
意味深に笑う侯爵に、わたくしはとうとう声を立てて笑ってしまった。
「ちなみに侯爵、次はどちらの家を崩していただけますの?」
「随分と気の早いことだ。まずは今回の後始末を片付けてからにしましょう」
「あら、つれないお返事ですこと」
軽口を叩き合いながらも、わたくしの胸中には、静かな高揚感が広がっていた。追放から始まった数奇な人生はこうして、思いもよらない形で新たな幕を開けたのである。
「――さて、次はどのような騒動を巻き起こしましょうかしら?」
不敵な笑みを浮かべるわたくしを、月明かりが静かに照らしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
もし少しでもスカッとしたり、ニヤッとしたりしていただけましたら、評価ポイントとブックマークをいただけると、次の話を書く一番の励みになります!
「アリシアの言い訳が浅すぎて笑った」「レイフ様の掌返し見苦しい」など、感想コメントもお待ちしております!
ヴァルクライン侯爵との今後の関係や、没落した公爵家のその後など、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




