表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の女王  作者: 雨宮 瑞樹
正義の基準

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/28

それぞれの正義


 女王暗殺計画の時は、絶対的に武器を隠す必要があった。しかし、今回はいちいち変装したり、無駄な小芝居は必要ない。いつもの自分でいればいい。

 黒で身を固めれば、アレスの身体によく馴染んだ。一気に、スイッチが入っていく。

 やるべきことは一つ。内通者の排除。そこに感情はいらない。



 アレスはよく身体に馴染む黒で全身を固めて、一階へ降りた。

 ほかのメンバーは、すでに全員払っていた。残っていたのは、ファミル、アイザック、サラ、ナリーだ。

「ファミル、昨晩話した通り、俺たちはロジャーのところへ向かう」

 アイザックがそう告げる。ファミルには、すべて話を通している。

「レジスタンスとしては、到底認められるものではない。わかっているのだな?」

 ファミルは、真っ白な髭を撫で上げる。そして、少し白濁した細い目で睨んだ。

 年老いてはいても、誰よりも気迫がある。部屋全体に静電気が発生したように、ピリッとした。

 横に控えていたアレスが答えた。

「わかっています。サラのこと、頼みます」

 アレスは、ファミルの横を一瞥する。 手を握りしめ、キャップを目深に被った金色のショートカットは、黙りこくったままだった。アレスは、つま先を外へと向けていく。その時、ナリーが足元に絡みついた。

 

「前回の暗殺計画の時に持ってたハンカチの効力は、抜群だったでしょ?」

 冷静に考えてみれば、あの絶望的な状況下で、よく生き延びられたなと思う。

「ナリーの言う通り、ハンカチのもらったおかげで、今があるのかもしれないな」

 アレスがそういうと、ナリーは照れくさそうに笑った。ナリーはまだ子供だからという理由で、今日の計画の輪郭しか教えていない。真実を告げるのは、すべて終えてからということになっていた。

 その判断は、アイザックによって下されている。

 だからこそ、その明るさが、後ろめたかった。そんな思いを包み隠すために、ナリーの頭をくしゃりと撫でまわした。

「今回も持っていってよ」

 差し出してきたハンカチは、淡い青色をしていた。

 そこにまたナリーの字で「がんばれ」と書かれている。その横へ視線を滑らせると、達筆な文字で「ご武運を」と書かれていた。サラの字なのだろう。ナリーにせがまれたのかもしれない。

「有り難くもらっておく」

 もう一度、ファミルの横にいる金色のショートカットを見やる。相変わらずうつ向いたままだった。彼女にとって、提示された真実はあまりに残酷なものだということは想像がつく。自分以上の失望が、あるはずだ。

 ナリーは、そんな大人たちがそれぞれ抱えている暗さとは、対照的に満面の笑みを浮かべ、そのまま外へ走り出していた。

 ナリーには、ナリーの役目があるのだ。

 アレスは、小さな背中を見送り、手渡されたハンカチを左胸ポケットに入れた。

 穏やかな光も、そこの中へしまい込む。一度目を閉じて、開けると、本来のアレスの姿となっていた。

 誰もが怯んでしまいそうなほど、研ぎ尽くされた刃のような鋭い瞳がある。

 アレスは、ファミルヘ深々と頭を下げ、アイザックと共にドアを押した。



 バタリと閉じられた扉。

 二人だけのがらんとした空間なのに、やけに空気が薄く重かった。

 ファミルは、大きくため息をついた。

「いくら考えても、仕方のないことがある。だが……現実は受け止めねばなるまい」

 ファミルは、独り言のようにそういった。

 ファミルの横で、無言を突き通し立ち続けている細い手には、拳が握られている。その手は、震え続けていた。

 

 取り残された二人の間で会話がないまま、やがて、ロジャーの死刑執行の時刻を迎えていた。

 部屋にある壁掛け時計が、正午の鐘を鳴らす。

 それが合図だったかのように、ドアをたたく音がした。

 レジスタンスに所属している者にしか知らない、独特なノック音だ。

 ファミルが立ち上がり、扉へ手を伸ばそうとしたとき、ドアが蹴破られた。

 ドアがファミルへ直撃しそうになる。ファミルは、咄嗟に後ろへ飛んだ。ファミルは、襲ってくる扉の方ばかりに気がとられる。

 その隙に、黒い影が幽霊のように部屋の中へ入り込んでいた。


 

 あっという間に侵入に成功したそれは、目深にかぶったキャップの金色のショートカットの女の背後へ回り込む。そして、細い首にナイフを突きつけていた。

 暗殺者さながらの身のこなしだった。

「女王、一緒に来てもらおう」

 背後に回り込んだ男が、女にぼそりと耳打ちする。

 女の細い首にナイフが当たった。その冷たさが、彼女の全身の熱を奪っていく。これは、現実なのだと、知らしめるように。

 女は耐えきれず、声を絞り出していた。

 

「どうして、あんたなの……? 」

 背後の男の体に電流が走ったように、体が跳ねた。その衝撃のせいで、手元がぶれる。

 細い首に、薄く傷がついた。ツーっと一筋の赤い道ができ上っていく。首に突き付けていたナイフが、驚いたように離れた。

 目の前にいる女の正体を知った男は、よろよろと一歩二歩と後ろへ下がっていく。

 女は、ゆっくりとキャップのつばに手をかけた。それをゆっくり取り除くと金色の髪と一緒に外れていく。本来のオレンジ色の髪が姿を現し、振り返った。 男は、その女の名前を呼んだ。

「ブランカ……」

 男は心臓を射抜かれたように、目を見開いていく。

 女王に扮していたブランカは、声を震わせた。

「ロジャー……どうして? 何故、裏切ったの……?」

 ブランカの瞳に、今にもこぼれそうな涙がため込まれている。

 ロジャーは冷えた瞳を微かに揺らしながら、零れ落ちた涙を見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ