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青の女王  作者: 雨宮 瑞樹
真実の在処

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怒りの矛先6

 ここまで辿り着く道中雲隠れして、欠けはじめた満月が空の真ん中に浮かんでいる。

 その下で、夜風がアレスの髪をさらりと撫でていた。湿度の少ない清々しい心地よさに、自分の中に籠っていた熱が冷めていく。この時、初めて自分はサラの熱にやられていたことに気付いて、嘆息を漏らすしかなかった。

 

 ドアの外へ出れば探すまでもなく、すぐ目の前にサラの後ろ姿があった。肩の震えは消えているが、相変わらず小さな手は握りしめられたままだ。その手の中に何があるのか、容易に想像がついて、アレスは掛けるべき言葉が見つからずにいた。

「すみません。すぐに戻ります」

 サラは振り向かないまま、そういう。

 アレスは、腕組みをして目を閉じ、ドア横の壁にもたれ掛かった。

 

 サラが振り向いた気配はなかったが、そこにいるのが誰なのかわかっている。そういうように、話し始めていた。

「本当は、理想など語る資格もないことは、頭ではわかっているんです。でも、抑えきれませんでした。私……堪え性がない子供のようですね……すみません」

 アレスがゆっくりと目蓋を開ける。相変わらず、サラは背を向けたままだった。

 サラの理想の世界と、現実の世界はあまりにかけ離れている。

 その背中の震えに葛藤が見え隠れしている。

 アレスはその背中へ、静かに声をかけた。

 

「ロジャーは、俺が助ける」

 勢いよく振り返ってきた青い瞳は、大きく見開かれていた。微かに濡れている瞳に、月光が差し込んでいく。胸の青いペンダントにも、その光が反射して光った。

「あれは、演技だったのですか?」

「いや、一人のために全員を危険にさらすわけにはいかない。それが、レジスタンスの鉄則だし、俺もそのルールは絶対的に正しいと思っている。これはあくまでも、俺のわがままだ」

 サラの唇は振り返った勢いのまま、口を開いた。

「一人ではいくら何でも無茶です!」

 サラがその先も、勢いよく続けようとしていたが、アレスはそれを手で制していた。そして、アレスは、前へ出てサラの横に立つ。

「確かに、一人では無謀だろう。死にに行くようなものだ。本来なら協力してくれる誰かを呼び掛けたい所だが、内通者がいる」

 アレスは、はっきりと静かにいった。サラは、ゴクリと唾を飲む。

 

「その方は……捕まったでしょう?」

 サラは、声を抑える。その奥から、酷い暴行をブレイの顔が浮かんできた。

「アイツが本当の内通者なのか、怪しいところだ」

「偽物……ということですか?」

「本人と話してみなければわからない。アイザックは、意識を取り戻したらすぐに吐かせるといっていたが、ブレイは酷く痛めつけられていて、話せる状態じゃない。ロジャーの死刑執行前に本当のことを吐かせたいところだが、時間がない」

 ロジャーの死刑執行は、三日後だ。

 あのケガであれば、意識が戻るかも怪しいところだ。いつまともに話せるようになるのかも、わからない。

 アレスが逡巡していると、サラがそんなこと不要だというかのように、言い放っていた。

「ならば、今すぐ行きましょう」

「どこへ?」

 アレスは眉を寄せる。サラは青い瞳に光を讃えたまま、力強くいった。

「ブレイの所です」

 アレスは目を瞬かせるばかりだったが、サラは、珍しく自信に満ちた顔をしていた。

「私の力、忘れましたか? 今すぐ、怪我を治して、話してもらいましょう」

 サラがニコリ微笑む。呼応するように青いペンダントがキラリと光っていた。

 

 裏切者が出れば、宿屋の裏にある倉庫の中へ放り込むことになっている。ブレイも例外ではないだろう。

 アレスは、直ぐ側にあった井戸から水を汲み上げ、転がっていたバケツのなかへ注ぎ込む。

「何をしているのですか?」

「念の為だ」

 アレスはサラの質問に答えになっているかなっていないか分からない答えをしながら、二人はそのまま裏手へ回っていた。

 物置にはドアに外鍵がかかっていた。

 アレスは、ポケットから針金を出して、鍵穴の中へ差し込む。簡単に鍵は開く。その中へ、小さな小屋の一番奥。荷物に埋もれるように、ブレイが倒れていた。

 早速サラが、ブレイの横に膝をつき、アレスはバケツを傍に置く。

「傷は治ると思いますが、だいぶ弱っていますね……」

 サラの見立ては正しい。手当もされず放っておかれているから、衰弱していた。

 おそらく、アイザックたちは死んだら死んだで、構わないとでも思っているのだろう。他に、内通者がいる可能性を考えていないらしい。

 

「話せる程度治れば、それでいい。無理はするな」

「わかりました」

 サラが手を翳した。

 淡い青い光が、放たれ始め、すぐに部屋に満ち溢れた。ブレイを包み込んでいく。

 青い光がさらに強くなり、白に変わっていく。それが数秒続き、スーッと波が引くように光が消えた。

 ブレイの腫れあがっていた顔は、きれいに元の顔に戻っていた。サラの少しあがっていた息を整える。

 虫の息だったのが、通常の呼吸に戻っていた。

「俺の後ろへ下がってくれ」

 アレスの指示に素直にサラが従い、背後へ回る。それを確認したあと、アレスは、何の躊躇もなく、バケツの水を倒れいるブレイへをぶちまけた。サラは、アレスの容赦ない行動に目を剥いていたが、ブレイへの効果は抜群だった。

 

「突然、何するんだ!」

 プレイの小さな目が見開いて叫ぶ。

「目が覚めたか」

 アレスが呼びかける。ブレイは状況が読み込めていないらしい。驚いた顔をして、唇を戦慄かせていた。

「……ア、アレスか? まさか、生きて、いたのか? 」 

「まるで、死んでほしかったというよりうな口ぶりだな」

 アレスは冷たい視線で、見下ろす。そして、アレスの尋問が始まった。サラは見ていることができず、背を向けていく。


 

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