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青の女王  作者: 雨宮 瑞樹
真実の在処

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22/25

怒りの矛先3

 ファミルが足元に転がっているブレイを見やる。ずっとサラとアレスはと向いていたアイザックの怒りが、そちらへ向いた。銀色の瞳が鈍く光る。

「目が覚めたら、何もかも吐かせる。それで、いいな? ファミル爺さん」

「あぁ、いいだろう。ケビン、お前も付き合え。相棒としてな」

 ケビンは、噛み締めている唇へさらに力を込める。顔中腫れ上がって倒れているブレイを、じっと見つめうなずいた。

「アイザック、少しいいか」

 ファミルがアイザックを促しサラへは、また後ほどと、一言声をかけて二階へと上がっていく。アイザックは、サラへ鋭い視線をやった後、その後を追っていた。残されたメンバーも、サラへ冷たい視線を送る。

 そんな中、サラは伏し目がちにいった。

 

「アレス。すみません。私を庇ったばかりに……」

「俺は、そんなつもりはない。ただ思ったことを、そのまま言ったまでだ」

 アレスははっきりと、堂々とそう告げる。サラは、少し困ったように眉を下げていく。

 そして、ドアの外へと長い睫毛を向けていた。

「あの、私少しブランカさんと話したいのですが、いいでしょうか?」

 ブランカは、誰とでもすぐ打ち解けられる。サラへも、何の偏見もなく心を開いていた。それ故に、サラの正体を知った時の落胆は、激しかったはずだ。こうなることは分かっていたが、他に方法がなかった。もしブランカに洞窟で打ち明けていれば、激昂し、収拾がつかない状況に陥っていたはずだ。

 黙っていろと圧力をかけた結果、余計にブランカを傷つけた責任は自分にもがある。


「二人は、湖の方にいるはずだ。俺も一緒に行く」

 この街は、みんなで何度も足を運んでいる。その度にブランカとナリーは必ず、歩いて数分のところにある湖へと足を伸ばす。今もそこへ行っているのだろう。

「だが、ちょっと待ってくれ」

 アレスは気を失っているブレイの横で、膝をついた。全身チェックしていく。

 この部屋に入ってきてから俯いたまま微動だにしないケビンを見上げた。

 

「ケビン。どういった経緯で、ブレイが内通者だと気づいた?」

 アレスはあくまで暗殺担当であるために、情報収集担当側の人間関係はまったく知らない。この二人がどの程度の信頼関係があったのかも分からないが、ケビンの落胆した顔を見れば、信頼関係を築けていたが故の苦悩が見え隠れしている。今のサラと似たような場所に、深い溝が刻まれていた。

 

 ずっと唇を噛みしめていたケビンは、呻くようにいった。

「火事が起きて、それぞれ散り散りになって逃げ出してここに来る途中、ブレイが兵と会っていたところを見たんだ。仲良さそうに、話し込んでいた」

「兵と話していただけで、内通者と決めつけるのは時期尚早なんじゃないのか?」

「勿論その程度で決めつけたわけじゃない。これが、コイツの荷物から出てきたから、確定したんだ」


 ケビンはポケットからぐしゃぐしゃになった紙を取り出し、アレスへ寄越した。

 アレスが受け取る。上質な紙でできていて、普段自分たちが使用しているものとは明らかに違っていた。そこへ目を落とす。『当日の動きは以下の通り』と唐突な書き出しから始まっていた。

『宮殿内に侵入してきたメンバーに動きがあり次第、レジスタンス本部を包囲し放火する。メンバーを、裏口から逃げるように誘導せよ。1人ずつ出てきたところを、確実に仕留める。死体一体につき特別報酬を与える』とあった。最後に、宮殿のサインと印も押されている。寄贈ではなさそうだった。それは、つまり正式に宮殿から出された文書だと示している。


「頭にきて、この紙を持って問い詰めたんだ。だけど、『何も言えない』の一点張りだ……」

「そして、今の状態か」

「……許せなかったんだ。あの時、アイザックがたまたま先頭で外へ飛び出したから、みんな何とか逃げ切れたものの……他のやつらだったら、多くの死人が出ていたはずだ」

「少しこれ、借りてもいいか?」

「あぁ……」

 ケビンの頷く声は、怒りで震えている。信頼していたからこその震えなのだろう。気持ちはわかる。

「感情に振り回されれば、真実を見失う。少し頭を冷やせ」

 倒れているブレイをじっと見つめ頷く。しかし、そう簡単に気持ちの切り替えができるほど、人間は単純にできていない。時間が必要だ。

 アレスは、紙をポケットへ押し込み、立ち上がる。


「ブランカのところへ行ってくる」

 誰いうでもなく、アレスはそういい置いて、サラを伴い、ドアを押した。

  

 暗くなった街を縫うように進んだ先に、その湖はあった。今夜は、風がない。静かな水面は、美しく月を反射させていた。まるでこの世に二つ月が存在するかのようだ。その湖畔に、二つの影が見えた。

 サラは二人を見つけた途端、小走りになる。

 ずっと先頭を歩いていたアレスと、サラが入れ替わっていた。

 アレスは、その後をゆっくりとついていく。

 

「ブランカさん」

 湖畔で二人並んで座っている背中へサラは声をかけると、小さい方の背中はパッと振り向いて、隣の背中を揺さぶる。しかし、ブランカは頑なに首を横に振るだけだった。サラは、ぎゅっと手を握りしめ、息を吸い込んだ。

「あの……」

「話しかけないで。うっかり、あなたを刺しちゃいそうだから」

 ブランカの尖った声に負けじと、サラは声を張った。 

「騙すようなことをして、本当に申し訳ありませんでした」

「……どうせ、アレスたちから、しばらく黙ってろって言われてたんでしょ? 気性が激しいからって」

 自覚があるという言い方をする。サラが、何と言えばいいのかと、考えあぐねていると、後からやってきたアレスが口を挟んだ。

「その通りだ。お前に言えば、無駄に時間を食うことになる。それだけは、避けたかった」

 アレスの率直で辛辣な言葉に、サラがぎょっとする。同時にブランカが立ち上がり、振り向いた。

 その目は、怒りに燃えている。

 

「アレスってさ、そんなに私のこと嫌い?」

「普通だ」

「全然、そんな風に感じられないんだけど。いつもいつも、いい方酷くない? もっと優しく諭すとか、いろいろ言い方あるでしょ?」

「遠回しに言っても、通じないだろう」

 アレスがピシャリという。

 ブランカの目から本物の火が出ているのではないかと思えるほど、赤く光った。しかし、アレスは構わず淡々と言葉を連ねていく。 

「ブランカが人の気持ちに寄り添いすぎて、足元をすくわれるところを何度も見てきた。その度に泣いて、怒っていた。そんな姿を見る度に、こいつは馬鹿なんじゃないかと思ったこともある」

 ブランカはとうとう絶句する。サラは、アレスを食い入るように見つめる。ブランカの隣でボカンと口を空けっ放しだったナリーも、さすがに我に返っていた。

「ちょっと! アレス兄ちゃん!」

 アレスは止まりそうなるが、押し切った。

「だが、ロジャーはいつも言っていた。ブランカは凄いやつだ、と」

 アレスの言葉に、ブランカとナリーの尖っていた瞳が、見開かれる。きっとロジャーの顔が浮かんだのだろう。

「最初は意味が分からなかった。しかし、他の奴らも口々に同じようなことを言う。それから意識してみてみれば、言っている意味がやっとわかった。ブランカは、初対面の人間でも疑うことは後回し。そのままの目の前にある姿を信じることができる。それは、なかなかできるものではない」

 それは、ブランカを褒められているか、やはりただのバカだといっているのか、判断しかねて、少し複雑な顔をする。そして、じっとアレスが続けるだろう言葉を期待しているようだった。しかし、アレスにとって、そこまでが限界だった。

 いい言葉が出てこない。

 サラはそれに気づいたかのように、その後を引き取った。


「私は、これまで人を信用できませんでした。本心を口に出すことは稀で、人はみんな嘘をつく。自分の保身のことばかり考えて、他人を簡単に傷つける。人はみんなそういうものなのだと思っていました。でもブランカさんと会って、そんな人ばかりじゃないと知りました。他愛のない話をすることで心は軽くなり、ブランカさんの笑顔で救われたような気持ちになりました。人は本当はとても温かいものなのだと、初めて感じました」

 湖に写っている月から放たれる光がサラに反射していく。青い目に穏やかな光が注がれた。

「私は、ブランカさんに恨まれるのは当然の存在で、こんなことを言えば迷惑になるかもしれません。だけど、言わせてください。私は、ブランカさんと出会えて本当によかった」


 あの洞窟にやってきたのはブランカでよかった。そうでなければ、サラの運命は決まったいた。それは、アレスが密かにずっと思っていたことだが、それをわざわざ口に出すことはないだろう。

 ブランカの目から大きな雫が、零れ落ちていた。


「私、今のサラを今更、嫌いになんかなれないよ……」

「ブランカさん……ありがとうございます」

 深々と頭を下げるサラへブランカは、抱きついていた。ぎゅうぎゅう抱きしめてくるブランカをサラは、遠慮がちに抱きしめ返す。

 サラの目にもうっすらと、涙が浮かんでいく。

 アレスはそんな二人を静かに見守っていた。 

 

 

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