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青の女王  作者: 雨宮 瑞樹
真実の在処

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19/25

束の間の平穏

 満月に近い月明りは、思いのほか明るく足元を照らす。先頭はアレス、ナリーと続き、少し遅れてブランカとサラが続く。

 険しい道のりの山を抜けて、街道に出たころには、朝日が昇り始めているところだった。

 

「……すみません。足、遅いですよね」

 自分の歩調に合わせてくれているみんなへ、サラは謝罪する。すかさずナリーから「全然平気だよ」と、明るい声が返ってきていた。

 サラに付き添うようにずっと真横を歩いてくれているブランカは、両手を空に向けて伸びをする。

 朝のさわやかな風が心地よく、さーっと吹き抜けていく。

 

「まぁ、しょうがないよ。体力勝負の仕事してこなかった上に、足もケガしてるわけだし」

 今のサラは、ブーツを履いているから、包帯は見えない。

 しかし、足を庇いながら歩いているせいで、少々歩き方が不自然だった。傷が痛むのだろう。

「それに、急いだところで、みんなバタバタしている最中で、情報収集に走り回っているだろうし。朝は、快適な陽気だし。私たちは、のんびり行きましょ。ね? アレス」

 ブランカが先頭を歩いているアレスに話題を振る。しかし、視線を寄こしただけで、何も言わずすぐに背を向けていた。

 そっけない態度に、ブランカはむっとしていた。

 少しくらい場を盛り上げようとか、そういう気遣いはないのだろうか。上がっていた気分が、急速に低下して、空へ伸ばしていた手を腰に置く。


「アレスって、本当に不愛想よね。言葉も足りないし。冷たい」

 ブランカは、アレスに聞こえるくらいの声で嫌味をいう。それに反応したのは、アレスではなく、後ろを歩いていたナリーだった。「僕は、そう思わないけど」

 ナリーが自然と口を挟む。ブランカは、むっとしてサラへも意見を求める。

「……私も、ナリーさんと同意見です」

 サラは短くなった髪をさっとよけて、少し困りながらそういった。

 ブランカは、口を尖らせる。

「じゃあ、私とロジャーだけ冷たいってこと? ますます酷いじゃない」

 ブランカは、ぼやく。

「前もさぁ、アレスとロジャーが手合わせをしているときに、私はその近くの湖畔で作戦に使用するための小物を作成していたのよ。そしたら、ロジャーの木刀が私の顔に向かって、すっ飛んできわけ。間一髪のところで、何とかよけたんだけど、勢い余って真っ逆さまに湖におちたの。そしたら……アレスの奴、大丈夫かの一言もなく、さっさと引き上げちゃったのよ? 酷くない?」

 すると、何も聞いていなさそうだった背中から、初めてぼそりと反応が返ってきた。

「ロジャーが、助けに行ってただろう」

 アレスは、振り向くことなく、反論してくる。

 ブランカは、その背中に冷たい視線を背中に浴びせていた。

「二人のせいで、大変な目にあったんだから、そこはアレスも助けに来るべきでしょ?」


 ブランカは言い返すが、アレスから、うんともすんとも反応はなくなる。

 消化不良のアレスに対する不満。それは、もくもくとブランカの中で燻っていく。

 どうにかして、その無表情の仮面を壊してやりたい。動揺する顔が見たい。ぎゃふんと、いわせたい。


 ブランカは、前を歩いているナリーに声をかけて手招きする。立ち止まり、コソコソと話を始めていた。

 それに合わせて立ち止まろうとするサラには、すぐに追いつくから先に行ってと、追い払う。

 アレスは、どうせろくなこと吹き込んでないなと思いながらも、放置する選択をすることにする。そのタイミングを見計らって、アレスは速度を落として、サラの横についた。少し気がかりなことがあった。

「この先に、検問所が設置されている可能性がある」

 小声でサラへ投げかければ、アレスの本当に聞きたいことを難なく読み取っきていた。

「その可能性は高いと思いますが、私に気づく兵はいないと思います」

「どうして、そう思う?」

「初めて私と会った時、アレスは私が女王だとわかりましたか?」

「わからなかった。正直、影武者かと思った」

「一般的な兵は、みんなアレスと同じです。ミリオンは、兵士たちに本当の私の姿を見せるのを嫌っていました。ほんの一部の兵士しか、私の部屋には出入りしていなかった。ですから、きっと大丈夫です」

 短くなった金色の髪が揺れる。それを見越して、髪を切ったのかと、アレスは今頃気づく。

 自嘲気味に笑うサラの胸にあったはずのペンダントも、いつの間にかしまわれていた。いつもならば、不確定な要素に頼ることはないのだが、サラが言うのならば大丈夫だろうと、不思議と思えた。

「危機管理能力に、優れているんだな」

 アレスから固い言葉が出てくる。サラは少しだけ青い目を丸めると、フフッと笑った。

「それは、誉め言葉だと受け取らせていただきますね」

 列は自然と入れ替わり、アレスとサラ、ナリーとブランカという順となっていた。


「やっぱりあったか」

 しばらく歩くと、前方に検問所が見えた。

 検問所が設置されている場合の想定問答は、道中みんなで考えてあった。その時に頭に叩き込んでおいた回答のページを、各々頭の中で開いていく。


 数人の兵士が、四人に止まるように指図して、横に並べと命じられた。

 歩いてきた順番のまま横並びになるが、兵士の反応はサラの予想通りだった。サラを見ても、無反応だった。

 兵士は、四人を一般人と同様の扱いをし、それぞれの荷物のチェックを始めていく。ばらばらと中身を出されるが、出てくるのは、食料ばかり。不審な点は何もなかった。

 そして、質問が飛んだ。

 

「行先は?」

「キシアです」

 キシアは目的地の手前にある小さな町だ。

 そこには、レジスタンスの情報収集を担当しているビゼルとライツがいるはずだ。検問があった場合は、そこへ一旦立ち寄り、一度顔を出そうという話になっている。

「何の目的で?」

「雑貨屋を営んでいるので、部品の仕入れに来ました」

「なるほど」

 兵士は、じっと四人を観察する。再び、質問が飛んだ。

「お前たち、どういう関係だ?」

 これも想定内の質問だ。この質問の場合、親戚一同だという答えが正解だ。

 アレスは迷わず答えようとしたが、それを遮るようにブランカが言った。

「この二人は、夫婦です」

 アレスの米神が、ぴくっと反応する。サラは危うく声が出そうになったが、何とか飲み込んで、小さい深呼吸繰り返していた。そこにすかさずナリーが笑顔で話を合わせた。

「僕は、息子です」

 ナリーは愛想を振りまいて、サラの手を握る。サラは右手に絡みついてきたナリーを見やる。

 笑顔でブンブンと握られた手を振っていた。戸惑い固まるサラ。

 すべてを察したアレスは、小さくため息をついて、笑顔で答えた。

「今日は、妻と息子にも普段の仕事を見てもらおうと思いまして、同行させました」

 アレスは、サラを抱き寄せるように肩に手をやる。

 ますます硬直しているサラだったが、笑顔だけは張り付かせてその場を凌ぐ。

 兵士は、幸せな空気感を醸し出すアレスに、一気に興味を失っていた。嫌そうな顔をして、「さっさと行け」と命じる。

「ありがとうございます」

 アレスが一礼し、慌ててサラも一礼する。ナリーは笑顔で礼を言って、通り過ぎる。

 ブランカも「どうも」といって、通り過ぎようとした。が、すぐに兵士に呼び止められていた。

 ブランカはきょとんとした眼で、兵へ説明を求める。

「あの三人は家族だということはわかったが、お前はなんだ?」

 不審な視線を向けられていた。ブランカは、内心イライラしていたが、満面の笑顔で返答する。

「私は、さっきの不愛想な旦那の姉です」

「そうなのか?」

 すでに背を向けているアレスへ、兵が確認する。

 アレスは、相変わらずの無表情を貫いて、振り返った。そして、平然と言った。

「僕には、姉はいませんが」

「え!?」

「ならば、詳しい話を聞こうか。こっちへこい」

 連行されそうになったブランカは、弟と喧嘩をしている最中なのだと長々と説明をし、何とかその場を脱していたのだった。

 その後の道中、ブランカの機嫌は最悪を通り越して、大爆発していたのは言うまでもない。

 

 

 

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