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青の女王  作者: 雨宮 瑞樹
真実の在処

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素顔4

 サラは、薄く笑ってみせる。

「魔法を使ったせいです。気にしないでください」

 サラは、吐く息で身体の冷えを散らす。アレスから送られてくる視線が痛い。

 青いペンダントも、サラの身体を心配するように揺れていた。

 自分の身に起きている変化は、魔法を使ったことによる反動だ。

 これまで、自分に魔法があるということはわかっていたが、本格的に使ったことはなかった。

 父の声が、木霊する。

 

『このペンダントは、私の意志を継いだ証。と同時に、お前を守るためにある。サラの身体は、魔法に合わないのだ。極力使ってほしくないが、どうしても使わねばならないという時にだけ、その力は使ってほしい。そして、その時は必ずこのペンダントを身に着けていなさい。きっと助けになってくれるはずだ』


 サラの手の震えは、なかなかおさまらない。父が魔法を使うなといった意味がよくわかった。こうなるのだなと、他人事のように思う。ペンダントを指先で撫でる。もし、ペンダントがなかったどうなっていたのだろう。

 サラは、全身の熱をかき集めるように、両手を合わせて握り込んだ。アレスが何か言いたそうな顔をしているが、サラは、その先を続けた。

「私がいた部屋は結界が張られていて、魔法を使うことがなかったので、疲れたんです。そうはいっても、そもそも私の魔法の力は、何かを破壊するとかそういった力はありません。そんなことをしても逃げられなかったのですが」

 サラは腕で、額の冷汗を拭った。アレスから気遣われる視線が少し薄まる。

 アレスの頭の中では、宮殿のことが思い出されていた。

「宮殿でミリオンも魔法を使っていたな。宮殿内部には、ほかにも使える者がいるのか?」

 サラは、首を横に振る。

「魔法は、基本的に王家の血を引く人間だけが、使えるものらしいです。ミリオンが、魔法を使えるのはあの腕輪のせいです。あれさえなければ、魔法は使えない」

「あの金の腕輪か。確かに、魔法を発動させるとき腕輪が光っていたな」

「あれは、王家に代々伝わる腕輪で、身に着ければ魔力がない人間でも魔法が使えるようになる。いつか王家の誰かが自らの強大な力に溺れ、世界を破滅へ導くことがないように、金の腕輪を作り出したと、文献で読んだことがあります」

 サラの手の震えが少し治まる。

 サラは、何度か大きく息をして身体の中の冷たさを追い出して、少し戻ってきた熱を全身へ回していく。

「人の手で、作ったということか?」

「魔力というのは、モノに移すことはできるんです。こんな風に」

 

 サラは、ほうっと溜息をついた。丸めていた背中を伸ばす。

 そして、足元に落ちていた小石を手にした。それをきゅっと握りしめて、目を閉じた。

 淡い青い光が、手の中で放たれる。ほんの数秒すると、光が消え、手を開いた。見た限り手の中の小石に、特に変わった様子はない。

「どうぞ」

 サラが、アレスの方へ石を差し出した。それをアレスは手に取る。

 その辺に転がっているただの小石だ。サラが握りしめていたぬくもりも消えて、ひんやりしている。しかし、しばらくすると熱を帯び始めていた。驚いていると、今度は小石自らが、白い光を放ち始める。数秒で光は消えていった。

「このように、モノに魔力を込めると、ほんの少しだけ魔法が乗り移るんです。これを何度も繰り返していくと、力が溜まっていく」

「そうやってできたのが金の腕輪、というわけか」

 サラは、頷く。

「その腕輪を作られたのが、いつの代の王だったのかはわかりません。その人は、強大な魔力を持っていた。それ故に、自分の力を恐れていた。もしも自分が正しい判断を下せなくなり、感情のままに暴走してしまったら。この世は、どうなってしまうのか。そこで、その人は考えた。自分を止めてくれる人間が、必要だと。そして、長い年月をかけて金の腕輪を作り出した」

 アレスは、思う。

 金の腕輪を作り出した王は、善良で、清らかな心を持った人だったのだろう。

 だからこそ、自分を戒めるためにつくった腕輪が、こんな風に悪用される日がくるとは、考えもしなかった。清らかすぎる心を持ったがゆえの爆弾を作り出したようなものだ。

 

 サラは、自らの手から、洞窟の外へ瞳を移す。

 相変わらず、満月は煌々と輝いている。

「私の父であるグラン王は、恒久的平和を確固たるものにすべく、サルミア王国へ出向かう途中で亡くなりました」

 平和を心から望んでいたグラン王。

 恒久的平和条約を結ぶにあたり、王は演説を行い『すべての武器。力。すべてを捨てよ』と述べた。それに対する反発は、すさまじかった。相手が攻め入ってきた時、どうやって国を守るのだ。武器を捨てるなど考えられない、と。

 それでも、グラン王は推し進めようとした。そして、いざサルミア王国へ向かっていた道中、落石事故で亡くなった。

 反対派に王は、殺された。世間の誰もがそう認識している話だ。

「その出立の直前、父はミリオンへ金の腕輪を託していました」

「グラン王がミリオンに?」

「父は、ミリオンに絶大な信頼をおいていたのです。本当に仲が良かった」

 しかし、その直後、グラン王事故で死んだ。

 偶然とは思えない。ミリオンが、グラン王を殺害したということは、容易に想像がつく。疑問が付け入る隙もない。アレスはそう考えるが、サラは足元へ視線を落とし、複雑にさ迷わせていた。


「父の事故を知ったミリオンは……酷く慟哭していました。あれが、嘘だとは私は思えなかった」

 アレスは思う。

 金の腕輪を作った王といい、サラといい、王家は、人の心の表面的な部分しか見えていないのだろうと。

 人の心には、奥行があるのだ。どんなに笑っていても、その下に激しい憎悪を隠し持っていることはざらにある。

 アレスは、それを口には出さずサラの声に耳を傾ける。

「でも、ミリオンはその直後。人が変わったかのようになりました。暴れまわるミリオンをどうにかしようと、同時祖父の時代からの側近であるミュラーというものが、抑え込もうとしたのです。でも、ミリオンはその時すでに金の腕輪を持っていたので、反撃されてしまいました……」

「殺されたか?」

 サラは、きゅっと眉間に皺を寄せる。

「私は、魔法で攻撃するような能力がないけれど、守る力はある。小さいながらも何とか、ミリオンの魔法からミュラーを守り、宮殿から逃げられた……と信じています。その後、どうなったか、知る術はありませんが」


 サラがそこまで話したところで、凍えるほどの寒さが消えて、今度は急激に熱が集まり始めていた。

 それが頭の方まで回って、ひどい眠気が襲ってくる。酷く瞼が重くなっていた。

 頭の奥も霞んでいくようだった。睡魔とひたすら戦っていると「少し休んだほうがいい」アレスの声と一緒に、タオルケットが落ちてきていた。

 大丈夫ですと、サラは突き返そうとしたが、手も鉛のように重く上がらなかった。

 タオルケットの重みが、サラの瞼をさらに重く閉ざさていく。サラは、気絶するように眠りについていた。

 

 タオルケットを頭から被ったまま眠りに落ちていったサラをみて、アレスは嘆息する。

 一般人と変わらない華奢な身体だ。

 普通に考えれば、あれだけ内なるエネルギーを消費すれば、相当体へ負担がかかるのだろう。

 アレスは、サラの横に膝をつく。頭からかぶっているタオルケットをとった。

 相変わらず、顔色は悪く白いが、頬は赤くはれていた。散々、人の傷を治しておきながら、自分は後回し。その結果を示すように、ロングスカートからほんの少しだけ顔を出しているサラの足は、傷だらけになって、血が固まっている。裸足で歩き回れば当然の結果だろう。

 アレスは、タオルケットをサラの体に掛けなおしてやる。

 その後ろに、ナリーがゆらりとたっていた。

 

「ねぇ、アレス兄ちゃん、その人もしかして……?」

 ナリーの耳に話の内容は全部聞こえていたはずだ。アレスが振り返る。ナリーの明るい表情は、消えていた。丸く大きな瞳が少しずつ光を失って、サラをじっと見つめている。

 

 

 アレスは、ナリーの両親との最後の会話を、今でも覚えている。

『なぁ、アレス。ナリーには、将来普通の幸せを見つけ、楽しく暮らしをしてほしいと思っているんだよ。俺たちは、こんなんだけどさ』

『もしも、私たちに何かあったら、あの子をお願いね。ナリーを正しい道へ導いてあげて』

 二人は、自分たちの死を予感してそういったのだろう。

 だが、そんなことなど気づきもしなかったアレスは『それは俺の仕事じゃない。親が最後まで面倒を見ろ』と突っぱねた。そもそも、子供の未来を明るい方へ導いていやるには、この手は血にまみれすぎている。

 二人は『アレスらしい言い方だな』と笑っていたが、その数時間後に、二人とも宮殿に捕まってしまった。

 アレスは、二人を助けようと主張したが、ファミルに組織の安全が第一だと言われ、聞き入れられることはなかった。そして、二人は殺された。

 あの時、どうすればよかったのだろうか。

 未だあの時、命令に従ったことは正しかったのか、わからずにいる。

 

 ナリーの手に、拳が握られている。その手に、冷たく光るものが見えた。

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