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第5話 錬金術スキル習得

 ――場所は自室。

 

「まさか、あのデクラウスに稽古をつけてもらえることになるとは思わなかったな……」


 先ほどの稽古の感覚が今も鮮明に体に残っている。

 結局先ほどの戦いなど、実際のデクラウスの実力の一割にも満たないだろうが――それでも、あの戦いでの気迫、技。

 「伝説」の空気感を実際にこの肌で感じることができた。

 

(ヴィトルムになって初めて、良かったと思えた瞬間かもしれん)


 ひとまず、剣術についてはほぼ心配はいらないだろう。

 俺が、エルディナほどの剣技を身につけるかどうかはさておきとして、基本的な剣を使った立ち回りについては今後もデクラウスの稽古で学べばなんとかなるはずだ。

 

 ――さて、問題は。

 

 机の上に積まれた二冊の本――そのうちの一冊である『錬金術-初級-』。

 メイドに頼んだ通り、自室に置いてもらえているようだった。

 良かった。

 

(……正直盗まれたり紛失でもされたら、その時点でゲームオーバースレスレだからな)


 剣術はデクラウスが教えてくれるとは言え、剣術はあくまで『戦闘力』を上げるもの。

 一方で錬金術は、『生存力』全体を大きく上げるものと言って良い。


 この世界で、ヴィトルムに降りかかる災いとは、単に強敵が出るばかりではない。

 土質の変化による作物の不作、伝染病の蔓延など――単純な武力では解決できない問題も様々起こる。錬金術は、初期は戦闘は得意ではない一方で、それ以外を解決する能力が非常に高い。

 

 剣術一本だけでは必ずしも生き残れない。

 それが『アイリス』の世界だ。

 使えるものをすべて使っていかねば、この世界では生き残れない。 


「どうせ、錬金術を修めるなら『ホムンクルス化』したいところではあるけど――」


 一人こぼす。

 ホムンクルス化すれば、戦闘力も大いに改善され、生存力も大きく跳ね上がる。錬金術師を志す以上、必ずたどり着くべきところであり――おそらくヴィトルムの運命を考えてもたどり着くべき場所ではあるだろう。

 しかし、今はまださすがにその段階ではない。

 

 ひとまずは、『錬金術-初級-』から。

 ここを超えない限り、まずそもそもスタートラインに立つことも出来ない。

 

「……そしたら、まずは読んでみよう」


 クラスブックをゆっくりと開き、ページをめくる。

 

「――ん、んん?」


 ページに書かれた文字に目を走らせ。

 俺は、驚いた。

 

「読める、読めるぞ――!」


 ページに書かれた文章がきちんと理解できる――!

 興奮のまま、ページを俺は次々にめくる。

 

 さて、ただ文章を読めただけで何を感動をしているのか――となるかもしれない。これには理由がある。

 『アイリス』にはクラスブックやスキルブックなどの様々な書物が存在するわけだが、書物ごとに書かれた時代が違ってくる。

 

 ――そして、時代ごとに使用されている『文字』が異なるのだ。

 

 一般的なスキルのものになれば、この世界で広く使われている通称『アイリス文字』を読めれば即座に理解可能だ。

 しかし、ある程度レベルの高いスキルや、クラスブックになるとただの『アイリス文字』ではすぐには理解できない。『王国アイリス文字』や『古代アイリス文字』などの文字の知識が読むにあたり求められることになる。

 

 一応、知識がなくても読み進めること自体は可能なのだが、理解するまでに時間を要したり、古いものであればそもそも解読できなかったりという問題がある。

 特に、クラスブックは初級であっても最低でも『王国アイリス文字』以上の知識が必要だ。

 

(――さすが、貴族の子息というだけはある。伊達に偉そうな家柄してないな)


 『アイリス』の主人公は『王国アイリス文字』を知らないため、序盤はまず『王国アイリス文字』を学ぶ必要があるのだが……。

 どうやら、貴族としてのある程度教養があるためか、ヴィトルムは最初から『王国アイリス文字』が読める、ということらしい。

 

(ゲームでも、魔法や錬金術がどういうものかいくらか説明はあったけど。――実際見ると、より詳細だな)


 『錬金術初級』には、ただスキルをどう覚えるか――という話ではなく、実際に錬金術がどこから端を発し、どういった要素で機能しているのか、という歴史や概要などが事細かに書かれている。

 

「お……これは」


----


 ――錬金術の本質とは再構成である

 たとえば形、性質、大きさ。

 錬金術とは、それらを『再構成』するものであり、無より生むものにあらず。

 金を作る術にあらず。金を錬る術にあり。


----


 ゲーム中でも登場した有名な文が目に入る。

 実際に本に書かれた文字としてみるとなんだか感慨深い。

 そして、その続きには第一の術。

 

----


 そして、形を再構成する術――すなわち【シェイプ】。

 金への道は、形を成すことより始まる。

 

----


(出た――【シェイプ】)


 戦闘中に使うと、少しだけ防御が上がるだけの錬金術。

 しかし、この【シェイプ】が使えるようになることで様々な錬金術の特殊行動が可能になる。


「……この術、第一の術にしてはだいぶいろいろ書かれてるな」


 続きには【シェイプ】の原理やら使用法やら、歴史やら様々な内容が書かれている。

 ゲームでは基本の術だが、実際にはこの術一つを習得するにもなかなか情報量が多い。ゲーム中で錬金術師がそれほど見かけなかったのも何となくわかる気がする。

 

「――とりあえず、試してみるか」


 試しにその辺にあった万年筆に手をかざしてみる。

 

「【シェイプ】!」


 ――ッ!

 体の芯から何かが抜けてでていくのが感じられる。おそらく、魔力が抜け出る感覚なのだろう。

 そして、万年筆は柔らかな光に包まれたかと思うと。

 

 ――何も起こらなかった。

 

「……これは」


 失敗、だろう。

 しかし、術が発動しなかった――というようには見えない。


(――おそらく、効果がなかった)


 万年筆を手に持ち、触ってみる。

 手触りなども特に変化なし。

 

(それなら――なにか違うものを試してみるか)


 あたりを見渡し、実験できそうなものを探してみる。

 そして、あるものが目についた。

 

 ――窓際の観葉植物。


 ヴィトルムにも、植物を愛でるような感性があったのか、と妙な驚きがふと生まれた。

 そして、その観葉植物の下――植木鉢。

 

 ――土と、枯れて落ちた葉っぱ。

 

 一応、貴族というだけあって、部屋の中にあるものは高級そうなものばかりで実験に使うにはちょっと抵抗が大きかった。

 しかし、これなら、実験に使うにもちょうどいい。

 

 俺は植木鉢の土と枯れ葉をすくい、机の上に載せる。


(元のヴィトルムなら、こんなこと絶対しないだろうな)


 そんなことを思いながら――。

 

「【シェイプ】!」


 土と枯れ葉に向かい、再び【シェイプ】を発動する。

 すると――。

 

「……形が変わった!」


 思わず、机に乗り出してしまった。

 

 動きがあったのは、土の方だった。

 バラバラだった土が俺の魔力を受け、一つの箇所に集まり――三角錐の形へと変化する。

 対して、枯れ葉の方は特に変化はなし。

 

(――なるほど、形をなす、ね)


 植木鉢から土を更に持ち出し、広げて――もう一度行ってみる。

 今度は立方体の形に変化。意外と見た目はきれいに整っている。


「触った感じは――、むっ」


 力を加えてみたところ、ボロボロと土の立方体が崩れていった。

 強度はあまりないらしい。ゲーム中では【シェイプ】は防御をわずかに上げる術だったが――実際にこうみると軽い「造形」を行う術というのが正しい効果なのだろう。

 

 万年筆や、枯れ葉は、術自体は発動しているが、効果は出なかった。

 とすると、効果が適用される範囲には条件があると考えていい。正直、現時点での俺の練度が高くないのもあって、正確な条件の把握ができるかどうかは不明ではあるが――。

 

 それでも、今の自分がどこまで何ができるか、ある程度把握しておいたほうがいい。

 

「……そしたら、しばらく【シェイプ】について色々調べてみるとしよう」


 幸い、【シェイプ】の使用が次の術の開放の条件にも繋がっている。

 さすがに錬金術師になって早々世界が変わる――というほどではないかもしれないが、錬金術にまずアクセスができたのは非常に大きい。

 第一の術にアクセスするのも、本来もっと遅かった可能性もあるのだから。

 

 ――ふふっ、これからが楽しみだ。

 ベッドに身を投げ、俺は不敵に笑った。

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