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ゲーム序盤の悪役貴族に転生しましたが、【錬金術】を極めて破滅フラグを回避します  作者: 月雲 十夜


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第32話 光へ

 あれから、歩き続けることしばらく。

 俺達は、ようやくハルティバの門をくぐり、街の中へ入るが――。


(……モンスター自体はやっぱり侵入していた、か)


 めくれた石畳、壁に残る焦げ跡やら折れた矢やら。

 たしかに、ここに戦いがあったようだが。

 しかし。


(――街は、ほぼそのままだ)


 ゲーム中では、この石とレンガの町並みがほとんど木造の質素なものへと変わってしまっていた。

 だが、この感じを見るにほとんどの家屋はそのまま使い続けることが出来そうだ。


「――私たち、しっかりと守れた」


 ルミナが、安堵の声で言う。


(……良かった)


 あぁ、これで――と、俺も安堵のため息をつく。

 先ほどまで肩に何かがずっしりと乗っていた感覚から開放されたような感じがする。


 正直言えば、スタンピードは攻略できたものの街は大損害、という可能性はゼロではなかった。あの数のアンデッド、あの強力なアンデッド。

 何か、一手でも遅れれば、街の一角程度は余裕で消し飛んでいただろう。


(あぁ――だいぶ、うまくやったもんだな。ヴィトルム?)


 街を救うヴィトルム、なんてまたとんでもないヴィトルムが生まれてしまったものだ。


「――あっ! キミは!」


 道の向こうから、鎧姿の男がこちらに向かって走ってくる。

 あの人はたしか……。


「ウォーター・スカルに腰を抜かしていた――」


「う゛っ……そういう、覚え方されてたんだ……」


 騎士の男の眉間がきゅっと締まり苦々しい表情となる。


「……悪い悪い。勇敢に戦っていた、騎士だな」


「ううっ……それも、それで心が痛い」


 再び、眉間がきゅっとしまる騎士の男。

 反応がいいので、つい遊んでしまった。


「それで、何を話したかったんだ?」


「え? あ、あぁ。いや、ただキミが無事で良かったってだけなんだけど……。さっきまですごいたくさんモンスターが街の中に来てたものだからさ」


「負傷者は?」


「いや、それがね。あれだけモンスターが来たのに、ケガ人はほとんどいなくてね。僕らみたいな前線で戦っていたメンバーにケガ人がいる、ってくらいかな」


「――そうか」


 よっしゃあ! と言いたくなる気持ちを抑えて、俺はそれらしくうなづいた。

 どうやら、スタンピードに向かう前の対策がしっかり機能していたようだ。

 よくよく見てみれば――玄関にホーリー・ランタンが飾られている家も結構ある。


 ……我ながら、とんでもない口八丁でやったもんだな。


「キミのことだから、多分モンスターと戦っていたんじゃないか、と思ってね。ちょっと心配してたんだよ」


「まぁ、俺ならこの通りだ」


「みたいだね。ははっ、頼もしいよ」


 まぁ、実際にはスタンピードの最前線で戦っていたわけなのだが。

 ……とはいえ、話せば話が大きくなりそうだし、ここは控えておこう。


「おーい! この屋台を起こすぞー! 誰か手伝ってくれー!」


 どこからか、声が聞こえてくる。


「おっと……。いやはや、モンスターと戦ったあとは、街の復興。やることがいっぱいだよ」


「――民のためにあれ。それが騎士であろう」


 後ろからデクラウスの一言が飛ぶ。


「えぇ。それはもちろん。それが僕の仕事ですから。それじゃ、また!」


 騎士の男は軽く頭を下げたかと思うと、元気よく走り去っていった。

 と、後ろから「うーむ」とバルムの唸り声が聞こえる。


「まだまだあれは半人前――いや、四分の一人前かのう。のう、デクラウス?」


「……時間はかかろうな」


「ワシが鍛えてやるとするかのぅ?」


「おじいちゃんの特訓、みんな一日でやめるよね。……なんでだろ」


 最初はただ素振りを200回、腕立てを200回するだけなのに、とルミナが呟く。

 なんであんなにルミナが強いのか、わかったような気がする……。




 馬車に向かうさなか、時計塔が目に付く。


(……あぁ、無傷で残ったか)


 原作では崩壊し、苔生した残骸が残るばかりだったが。

 特にアンデッドの攻撃の痕もなく、最初に見たままの立派な姿のまま残っている。

 

 と、その時、低い声が聞こえてきた。


「お前は――」


 時計塔の前に一人ぽつんと立っていた男。

 

「……ハーマン!」


 一瞬、認識が遅れた。

 というのも。


「そのケガは――」


 ハーマンの装いはボロボロだった。

 最初に見た真紅のコートは泥をかぶり、生地はやぶれ――金色のボタンのいくつかはなくなってしまっている。


 そして、包帯で巻かれた片腕が、三角巾で首から吊られていた。


「はっ、ロクに剣術も学ばず、剣をふるった結果がこれだ」


 ハーマンが自らを嘲るように言う。

 まさか、モンスターと戦ったのか……!?


「……無茶をする」


 改めて、あれ以上遅れなくて良かった。

 仮に街が助かったとしても、リーダーがいなくなれば、ハルティバはパニックになっていたかもしれない。


「――まったくだ。戦いにすらならなかった。使えんと思った騎士団共のほうがまだマシな戦いをする」


 苦々しく、ハーマンが語る。


「正直――私は死の運命にあった。剣も弾かれ、地に転がされ――。あの忌々しきドクロどの刃がハッキリと、私の心臓を捉えようとしていたのだ。……だが、あのドクロどもの刃は私の心臓を捉えることはなかった」


 ハーマンはとつとつと、話す。


「あれは……私の眼の前で灰となって消えていった。まるで潮引くように、な。……おかげで街には骨の一つとて転がっておらん」


 スタンピードで生まれた魔物たちは、基本的に『主』の魔力供給を受けている。

 その主が消えれば、本来昼間に活動できないアンデッドたちは太陽に焼かれ消滅するか、太陽光の及ばぬ場所へと逃げ帰っていく。

 ……ちょうど、俺達が倒したタイミングが、きっとその時だったのだろう。


「誰かが、何かをした――それ以外にあり得ない」


 ハーマンの目が俺を捉える。


「――あるいは、祈りが届いたのかもしれん」


「祈り? はっ、祈りか……。教会の生臭坊主のような事を言う」


 ……正直、俺はどう答えればいいか分からなかった。


「神とは強き者にのみ微笑むものだ。……弱き私を救うなど、よほど奇特な神に違いあるまい」


 笑いながら、ハーマンがそう言い背を向ける。

 そして。



「――感謝する」



 ただ、一言だけハーマンが告げた。


「……私は、仕事に戻る。どんくさい騎士共の尻を叩かねばならんのでな」

 

 そう言ったかと思うと、ハーマンはツカツカと歩き始める。

 そして、その後ろ姿を見送った時。


 ――ゴーン、ゴーン。


 雄大な鐘の音が、ハルティバの時計塔から響きわたった。


「……行きましょう、ヴィトルム様」


 遠くから見ていたデクラウスが近づき言う。


「あぁ、そうだな」


 俺も、館に戻るとしよう。




   *



「ほほぉ……こりゃあ、分厚いドラゴンのステーキが食べられそうじゃわい」


「私、すっぱいチーズケーキ食べたい」


 馬車に戻ると、満足気に金貨を数えるバルムとルミナの姿があった。

 途中で、用事があると言って一瞬姿を消していたのだが、これを見るとなにかの報酬を受け取っていた――らしい。


「そのお金……」


「ん? あぁ、こりゃ護衛代じゃな。なんでも、大事な商品を運ぶとか言う話での。たーんまりともらったんじゃ」


「私たち、元は護衛の仕事でここに来てた」


 あぁ……なるほど。

 そういえば、なんでルミナとバルムがいるのか、とは思っていたが。

 ……ん? もしかして、大事な商品を運ぶって。


「私たち、もうこの街を出る」


 塀に座っていたルミナがぴょんと飛び降りる。


「まぁ、傭兵はこう平和だと仕事がなくての。それに、復興中でメシ処はやっておらんかったわ。ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ!」


 バルムが豪快に笑う。

 まぁ、元より傭兵として各地を行脚しているのが、この二人だ。

 これくらいフットワークが軽いのが、きっと彼女らのデフォルトなのだろう。


「……だから、お別れを言いに来た」


「お別れ――」


 改めて、不思議な状況だ。

 ヴィトルムがルミスからお別れの挨拶を送られる、というのも。


「まぁ、といっても、別に何か改まって言うことも特にないんじゃがの」


 バルムがそっけなく言う。

 

「味気のないことを言う。……此度は、実に運命の妙を私は感じたが」


 デクラウスが、添える。

 運命の妙――というのは、俺にとってもまさにその通りだった。


 まさか、ルミナと再会し、バルムと出逢い、あまつさえ共に戦う。

 改めて、ヴィトルムとしては考えられない話だ。


「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ! まぁ、たしかにワシもあのデクラウス将軍と出逢うとは思っとらんかった。とはいえ、これだけ旅をしていれば奇跡のような出逢いもあるもんじゃよ。行動は時として、運命のような偶然を引き寄せる、それだけじゃ」


 運命のような偶然――か。

 こればっかりは、あんまりバルムの言葉はあまりしっくり来ない。それはきっと、俺が『アイリス』ゲーマーとして、様々なことを知っているから――かもしれないが。

 ルミナとの出逢いは、偶然か、運命か。


 ……きっと、ただの偶然ではない気がする。


「――ヴィトルムとはまた偶然出会う、かもね」


 ルミナが言う。

 

 ……俺がヴィトルムである限り、ルミナとはきっと出会うことになる。

 偶然に見えても、それはきっとヴィトルムとしての運命。


 今回、俺ははっきりと、感じざるを得なかった。

 と、そうだ。最後に。


「……そうだ、バルム」


「ん? なんじゃ」


「一つ、手渡しておきたいものがある」


 俺は、馬車の中に入り、錬金釜をいじりはじめた。





「……よし、出来た」


 せっかく、イゼデンから購入したやつを早速使ってしまったが。


「なんじゃそれは? 飲み物か?」


「……まぁ、薬だ」


 俺がわたした液体は、光を受けきらきらと虹色に光っている。


「ふむ……おかしなものをわたすのぅ」


 今俺がバルムにわたしたものは、プロト・エリクサー。

 聖水と、ハイ・エーテルを錬金することでできるものだ。真のエリクサーに比べれば効果は大きく下がるが――。


「まぁ、なにか今後病気なった時にでも飲んでくれ。……少しはマシになるかもしれん」


「……まぁ、何かお主のことじゃ。考えがありそうだの。まぁ、もらうだけもらっとくわい」


 プロト・エリクサーは傷を治すだけではなく、病気を直す効果もある。

 ただ、真のエリクサーとは異なり、すべての病気を治すことは出来ない。


 あるいは運命は変わらない可能性はあるが――それでも、少しでも二人の時間が増える可能性があるのなら。

 

「それじゃ、行くぞ。ルミナ」


「うん」


 二人が、ハルティバの門に進み。



「それじゃまた、ヴィトルム」



 ルミナが手をパタパタと振った。

 俺も、手を上げルミナに返事をする。


 今度会う時――ルミナは敵か、あるいは味方か。


(きっと――味方だと良いが)


 さて、いよいよ俺達もハルティバを離れる時が来たな。


「行こう、デクラウス」


「えぇ」


 俺とデクラウスが馬車へと乗り込む。

 馬車の窓からは――立派なハルティバの街が見える。ゲームでは――スタンピードに沈んだはずの街が。


 運命は、きっと変わった。

 ほんの少しではあるだろうが――それでもなにかきっと、ヴィトルムにとっては大きな何かが。

 これからも、一つ一つ積み上げていくとしよう。


 ――ヴィトルム・アルトラスとして、俺ができることを。

これにて、二章完結となります!

無事、大台の10万字達成できました……! 

ここまで来れたのは皆様がこの作品を読んでくださったおかげです! 本当にありがとうございました!

もし、よろしければブックマーク、そして下から☆を入れてくださると、今後の執筆の励みになります!


また、なろうの方ではいったんこちらで投稿を区切りといたしますが、カクヨムにて続きも連載しています! よろしければ、そちらもご覧くださいませ!

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