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ゲーム序盤の悪役貴族に転生しましたが、【錬金術】を極めて破滅フラグを回避します  作者: 月雲 十夜


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第28話 いざ、狂宴へ

「……なるほど、わかった」


 俺の作戦を一通り聞いたルミナがうなづく。

 まさか、ヴィトルムがルミナと会話して、こうして戦場を共にする日が来るとは思いもしなかった。それも、まさかデクラウスとバルムを交えて共同戦線。

 本来は――決して、こんなシチュエーションにはなりえない。


(……本当、すごい状況だな)


 こんな状況でなければ、思い切り喜び叫びたいものだが。


「第一波を突破して、中心地にいる主を倒せば良い。……すごく明快。それで、中心地はどこ?」


 ルミナが尋ねてくる。


(……壊されたモンスターカウンターには、水が溜まっていた)


 触ってみて、外部には濡れた感じはなかった。

 つまり、それは雨に濡れたとか、水に落ちたというわけではない。にもかかわらず、内部に水が貯まる――それはつまり、『攻撃自体が、水を伴うである』ということ。


 上位のアンデッドかつ、攻撃が水属性――そう考えると、そういったモンスターが出現できる場所は一つしかない。


「この森の奥深く――具体的に言えば北北東方面に、祈りの湖と呼ばれる湖がある。スタンピードの中心地はそこだ」


「湖――なるほどのぅ。水場はなんとやら、とは良く言ったもんじゃな」


 バルムが感心した様子で、カイゼル髭をいじる。


「幸い距離は遠くないようですな。これならば……」


 デクラウスが手に取った地図を眺め、呟いた。

 ……その瞬間のことだった。



 ――ヒュォオオオオオオッ!



 森の奥から、何か――得体のしれない音が響く。

 それは、声のような。あるいは、とてつもない、風が吹いたかのような。身の毛がよだつ、この世のものとは思えない怪音だった。


「――嫌な音」


 ルミナが不快感をあらわにする。

 先ほどの音がいつまでも耳の中で響いているような感覚がある。

 これは酷く――不快だ。


「あれは……なんじゃ……!?」


 バルムが空を見上げ言う。

 空――俺が空を見上げると、空は。


(あぁ――『始まった(・・・・)』)


 先ほどまでは、雲一つない青空だったにもかかわらず。

 赤と紫の絵の具をぶちまけたかのような禍々しい空が広がっていた。空は不気味にうねり――風はぱったりと止んで、粘りつくような重たい空気が口いっぱいに広がる。


「常軌を逸している――こんな、光景があるとは……」


 デクラウスが、驚きと困惑の入り混じった声を上げる。


(ゲームですでにこの光景は見ていたが。実際にこうしてみると、凄まじいな……)


 ただ、こうして黙っているだけで圧倒されそうになる。


「……来るッ!」


 ルミナが鋭い叫びを上げる。

 森の奥――木々の隙間から見える『灯り』。その数は、一つや二つではない。数十、いや――百。あるいはそれ以上かも知れない。


 ――あの全てが、モンスターだ。


「全員! 戦闘準備! ――スタンピード第一波を攻略するッ!」


 重たい空気を振り払うつもりで、力の限り叫ぶ。


「「「了解ッ!」」」


 全員が、それに答える。

 スタンピードが、来る――!


「ウォオオオオオオッ――!」


 モンスターたちも、その狂気の限りの絶叫を上げる。

 そして、すぐに――。


「全員、壁の後ろへ――」


 俺の言葉が言う終わるより早く、敵の攻撃が始まる。

 幸い、全員戦闘慣れしているのもあって、防壁に避難することは間に合ったが――。


「――こりゃあ凄まじいのぅ」


 背を預けている壁が、アンデッドたちの攻撃で幾度となく震える。

 幸い、強度的には敵の攻撃をしのぐには十分だったようだ。

 少しだけ、壁の向こうを覗いてみるが、飛び交う矢や火やら、水の数々。

 このままでは、攻められない。


「……作戦は速攻即決。ここでの籠城は、好ましくない」


 ルミナが、俺に訴えかける。

 そう、この戦いで長期戦はできないのだ。


「――おそらく、今攻撃してきているのはアーチャースケルトンや、ウォーター・スカル、あるいはボーンメイジだ。つまり、接近戦は弱い。懐に入り込むことができれば一気に崩せる」


「……ほほう? しかし、どう懐に踏むこむ」


 バルムが、ギロりと目を動かし、尋ねてくる。


「今、俺達がよりかかっている壁――これは俺が錬金術で作ったものだ。これを前方に作る」


「――それを盾に一気に接近。奇襲をかける」


 即座に内容を察したデクラウスが、小さくうなづきながら話す。

 

「なるほど、そりゃ名案じゃ。……では、先攻はワシがいただくとするかのぅ!」


 ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ、と豪快に笑うバルム。

 この弾幕の中、真っ先に名乗りを上げてくれるとは。……改めて、本当に頼もしい仲間が来たもんだな。


「では坊主!「ヴィトルム様だ」……ではヴィトルム! タイミング合わせはお主に任せるぞ!」


「……ヴィーノじゃないんだ」


 ……そういや、街ではヴィーノって名乗っていたっけか。

 ともかくここは、俺のタイミングが大事だな。


 俺は、地面に手を付け――遠くまで魔力を送り出す。

 正直、まだそこまで遠くはできないが、それでも。


(――あくまで、奇襲可能な距離であればいい)


 そして俺は送った魔力を、一気に活性化させる。



「――――【シェイプ】!」



 そして、地面の泥が寄せ集まり巨大な壁となる。

 即座に、バルムに目を合わせ。


「――今!」


「任された――ッ!」


 バルムが砲弾のように飛び出し、壁に向かう。

 そして、そのまま。


「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ! こりゃあ大暴れするには爽快じゃわい!」


 大槌をブンブンと振り回し、モンスターたちを薙ぎ払う。

 巨大なハンマーがアーチャースケルトンの頭蓋骨を叩き潰し、ウォータースカルの頭をまるでゴルフボールのように弾いては、逃げ惑うボーンメイジたちにぶちかましていく――。


(……戦車か何か?)


 正直、ちょっと引くほど強い。

 ……本当、敵じゃなくて良かった。

 いや、ともかく。


「これで前進できる。行くぞ!」


 デクラウスとルミナに声をかけ、俺達は進む。

 よほど、バルムが大暴れしているのか、矢も水も炎もまともにこちらに飛んでこない。


 そして、しばらく走り続けていると――遠距離モンスターの後ろにいた近接戦モンスターたちが列をなして、こちらの行く手を阻む。


「……スケルトンか」


 鎧を着込んだスケルトンナイトが剣を振りかぶり、こちらに走り向かってくる。

 カタカタという骨の鳴る音が、耳にうるさい。


「――来る!」


 背中から、槍を取り出し構えるルミナ。

 ……なるほど、このルミナは槍を選んだんだな。


「いや、直接コイツらとやり合うつもりはない」


「……え?」


「――こういう、ことだッ!」


 俺は腰に差していた聖水を即座に抜き、投げつける。

 無警戒に走っていたスケルトンは、その聖水を避けられるはずもなく。



「ウォオオ――ッ!?」



 聖水を浴びたスケルトンの身体は、瞬く間に灰となりその場に崩れ落ちる。

 なんか、久しぶりにやったな、これも。


「今のは……?」


「聖水だ。下級アンデッドなら、これで即死させられる」


 『アイリス』の上級者と、初心者を分けるワンポイントテクニックだ。

 これを知っているか、知らないかで序盤でのアンデッド攻略に大きく差が出る。


「……すごい。覚えとく」


 ルミナが、感心の声を上げる。

 これで、かなり前に進んだ。あともう少しで、第一波を抜ける――。

 そう、思った時。


 ――ウ゛オ゛オ゛ォ゛オ゛オ゛ッ!


 地を鳴らすような、禍々しい絶叫が響き渡る。

 ……声の方向は、湖からではない。この軍団の中からだ。


「ウ゛ オ゛ オ゛ オ゛ … … !」


 こちらを二回りも上回るような骨の巨人が、続いてこちらに立ちはだかる。

 真っ赤な鎧、炭を思わせる真っ黒い頭蓋骨――。そして何より特徴的なのは、四つの大腕を持ち、その全てに巨大な刀剣が握られている点。


(――スカル・ベルセルク!?)


 場所によってはボスも務めるような、大型のアンデッドモンスターだ。

 ……なるほど、『トラスのスタンピード』は作中でも大きく語られるだけあって、出てくるモンスターも小粒のスタンピードとはわけが違うようだ。

 さしずめ、第一波をまとめるボスといったところか。


(……普通の聖水じゃ、コイツを倒すことは出来ない)


 そう思い、腰に差しているエンチャント済み強化聖水に触れる。

 おそらく、この強化聖水なら、スカル・ベルセルクであっても致命傷を与えられることは間違いない。

 しかし――。


(『主』に残しておくべき――ではある)


 スカル・ベルセルクも強力なモンスターであることは違いない。

 しかし、『主』は確実にアンデッドの上級モンスター。場合によっては、この強化聖水に頼った戦いになることは想像に難くない。

 

 とはいえ、強化聖水なしでの戦いは確実に不利。

 『主』に辿り着く前に、下手すると致命傷を受けかねない。

 どうする――?



「――退け、死にぞこない。ヴィトルム様の道を邪魔するものは決して許さぬ」



 スカル・ベルセルクに、剣を抜いたデクラウスが足を進める。

 その表情は、かつてなく、厳しいものとなっていた。

 

「ヴィトルム様。ここは、私にお任せを」


 背を向けたまま、デクラウスが言う。


「……良いのか?」


「これも作戦のため。――肝要なのは、『主』を速攻で倒すこと。であれば、ここで足を止めている時間はないはずです」


 ……さすが、将軍。

 実に合理的な判断だ。


「……わかった、ここは任せる」


「いいの?」


「ここにはあのバルムもいる。それなら、戦力的に問題もないだろう」


「……そうだね。おじいちゃん、強いし」


 お互いに二人の実力がわかっているだけに、話は早かった。

 たった二人をスタンピードに残す――なんて狂気的だが。

 それでも、あの二人なら――第一波はきっと、十分にしのぎきれるだろう。


(――ただ、あの二人であっても、第二波、第三波と続けばそうも言っていられない)


 作戦は速攻即決。

 もはや、スタンピードは始まった。そして、今はスタンピードのただなかにいる。

 もう、逃げることは出来ない。


 ならばやることは一つだ。


「――このまま中心地へ向かう!」


 ルミスに呼びかけ、俺は森へ――『主』のいる祈りの湖に向かって走り出した。

 アンデッドひしめく、狂気の中心地へ――!

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