第27話 奇縁
何故――何故彼女が。
彼女が、スタンピードに関わった、なんて設定は原作になかったはず……!?
「……? どうして、私の名前を知っているの?」
ルミナが首を傾げる。
しまった――。たしかに、以前名前は聞いていなかったな……。
「――ま、街で噂を聞いた」
「……ふぅん。そうなんだ」
納得したような、納得していないような。
ルミナが再び小さく首を傾げる。と、その時。
「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ! ワシらも有名になったもんじゃのぅ?」
ルミナの背後にはもう一人――大槌を持った老人がいた。
(そうか、5年前なら――!)
「おじいちゃんが有名なのはわかる。……でも私も?」
「まぁそりゃ、ジジイとこんな子どもで傭兵なんてやってりゃ、当然目立つじゃろうなぁ」
老人は、口元の立派なカイゼル髭をいじりながら、ルミナと話している。
――この人物は、原作主人公ルミナの育ての親、バルム。元は騎士だったが、組織とソリが合わず騎士をやめ、傭兵として世界をさすらう生活をしていた。
そして、ある日原作主人公であるルミナを拾い上げ、戦闘技術やサバイバル技術をルミナに教え込んだ――ルミナにとって、育ての親にして師匠のような存在だ。
(……原作が始まる一年前には病死していたけど、今は五年前。それなら、たしかに)
おそらく、トラスの街でも見つからなかっただけで、バルムと二人で来ていたのだろう。
色々と、俺が考え事をしていると。
「良く見れば――お前さん、デクラウスか? ほほう、こんなところで会うとはな」
バルムが、デクラウスを見て言う。
デクラウスと、バルムが知り合い――!?
「見たところ、騎士のようだが……」
「『元』じゃな。まぁ、そういうお前さんも『元』のようじゃが。……ふぁっ、ふぁっ! ダヴィド砦を攻略をする時は苦労させられたもんじゃわい!」
「……なるほど、誰かわかった。貴様と直接、剣を交えたいと当時は思っていたものだよ」
そういって、バルムとデクラウスが握手を交わす。
……なんだか、今すごい光景を見ていないか?
この二人、ゲームではどちらも直接会うことは出来ない人物だ。こんなシーン、絶対に原作で見られないぞ……!
(『アイリス』に転生して良かった……!)
と、ゲーマー丸出しでホクホクしている時のこと。
――ジ、ジジ。
森の奥から、黒い砂の人型がこちらに接近してくる。
クロゴが、帰ってきた――!
「むぅっ、モンスターか!」
バルムが大槌を構える。
「待て! ……それは、俺のゴーレム。俺の使い魔だ」
「ゴーレム。そう、それが錬金術の」
クロゴに近寄ってみると――その左腕は完全になくなっていた。
(ゴーレムが襲われている――)
本来、無生物であるゴーレムをアンデッドたちが自発的に襲うことはほとんどない。
しかし、一部の上位アンデッドは知性が高く、あるいは侵入してきた不審者を攻撃した可能性はある。
「……クロゴ、モンスターカウンターを」
――ジ。
砂鉄の体の中からモンスターカウンターを取り出すクロゴ。
しかし。
(――やられた)
クロゴから渡されたモンスターカウンターは、巨大な風穴を空けられていた。
文字盤こそ残っているが――肝心の針の部分はなくなっている。おそらく、貫かれた際に持っていかれたのだろう。
「……ずいぶんと、手酷くやられている」
デクラウスが、壊されたモンスターカウンターを見て、苦々しく呟く。
これでは計測結果がわからない……。
――いや、待てよ。
不審な存在を攻撃するような知性の高いアンデッドがいたのなら、それはスタンピードの『主』である可能性が高い。
というのも、スタンピードはモンスターを狂化させるもの。つまり、スタンピードに関連して呼び出される尖兵は知性を失っている。
……しかし、その扇動者たる『主』だけは別だ。
つまりクロゴは、『主』と接敵した可能性が高い――!
(何か――何かないか――!?)
モンスターカウンターになにか証拠は。
そう思い、モンスターカウンターをまさぐっていると。
(水が溜まっている――)
風穴を通して、水が入ったのだろう。
その瞬間――俺の頭に電流が走るのを感じた。
「――中心地がわかった」
デクラウスが俺の言葉に、声を上げずただ驚きの表情を見せる。
そして。
「やっぱり、あなたたちは何かしようとしている」
ルミナの静かな声が、俺に投げかけられる。
「街であなたの噂を聞いた。街を直して、ランタンを配っていたと。……そして、ここでは壁を作っていて、極めつけはさっきのやりとり。
――あなたの目的は何?」
ルミナの澄んだ瞳が、まっすぐとこちらを捉える。
不思議と、誰も言葉を発しない。ルミナが尋ね、俺が答える。その瞬間を誰もが待つように、一帯は突然しんと静まり返った。
――胸をえぐるような静寂が、俺に訴えかけてくる。
「……スタンピードを攻略することだ」
絞り出すように、俺は答えた。
「スタンピード?」
ルミナが小首を傾げる。
「これから、ハルティバに大量のモンスターが詰め寄せる。いや、ハルティバだけじゃない。トラス地方全体が被害を受ける」
「……どうして、そんなことがわかるの?」
――ッ!
心臓を掴まれたかのような感覚。果たして、彼女の言葉にどんな意図があるのか。
ただ、言葉通りの意味か。それとも、ヴィトルムという存在の後ろにある『何か』を見たのか。
……澄んだ瞳と、真剣な面持ちには、その言葉の裏にあるものは見えていこない。
俺が、『転生者』だとバレたらどうなる?
予想がつかない。運命は、ヴィトルムに何をもたらす?
何も、わからない。
「――本、から、学んだ」
緊張に喉が潰れてしまいそうになりながら、音として、それを絞り出す。
――彼女と、目を合わせることが出来ない。
「そう」
彼女は、ただ短くそう答えた。
心拍数が上がっているのを嫌と言うほど感じる。彼女の声色はまったく変わらない。
その表情もきっと――あの感情の見えにくいもののままなのだろう。
彼女は何を――何を見た?
「――魔霧が!」
突如、デクラウスが鋭い声を上げる。
全員が、森を見ると――たしかに魔霧が、地面を舐めるようにこちらへと広がろうとしていた。
「――私たちも協力する。どうすればいいか、教えて」
「あ、あぁ」
そうだ。今は、スタンピードを。
スタンピードを攻略しなければ。
「――わかった、少し急ぎ足になるが、しっかり聞いてくれ」
協力者として――彼女らは、あまりにも心強い。




