第24話 守衛
「オォ……オ……!」
「ア、アァ……アァ……」
声の方向に行くと、鎧をまとったガイコツと、水の中に浮かぶ頭蓋骨――。
(あれは――スケルトンナイト。それにウォーター・スカルか)
完全にもう街の中に侵入している――。
そしてその後方には。
「こっ、コイツ……! くそっ、これ以上入ってくるんじゃねぇッ!」
「げっ、撃退……! 撃退をっ!」
アンデッドたちに立ち向かう鎧姿の男たち。
肩には太陽をモチーフとした紋章が。王国騎士団――ハーマンが言っていたのはあれか。
「ヴィトルム様。ウォーター・スカルのほうをお願いできますかな?」
「ん? あぁ。わかった。それじゃ――」
頼んだ、というよりも先にデクラウスが飛び上がり、スケルトンナイトの元まで飛び込む。
すぐに、デクラウスの激しい剣戟の音が耳に届く。
……あれで老いている、というのだからすごいな。
さて、俺も行かないと。
「オオッ……オオオオオッ!」
「ひっ、ひぇっ……。くっ、来るな……!」
すでに【アクア】を何度も発動しているのか、騎士の地面は水玉で破壊され穴だらけとなっていた。
見たところ、致命傷は追っていないようだが――鎧を着ているとはいえ【アクア】は何度も食らえるようなものではない。
ウォーター・スカルの周囲にはすでにいくつも展開された【アクア】――水玉があった。
「オオオッ――!」
「――シェイプッ!」
破壊された石畳の下にあった泥を瞬時に形成し、水玉の進路を塞ぐように泥の板を展開する。
バチャアと激しい水音を立てて、泥の板が大きく崩れる。
よし、後ろで腰を抜かしている騎士には届いてない――。
「なっ……なんだ、キミは?」
「――来い、ウォーター・スカル! 俺が相手をしてやる!」
俺は剣を抜き、騎士の前に立つ。
「オォオオ――!」
憤怒に満ちたウォーター・スカルの眼光がこちらを捉える。
最初に戦った時は、初戦闘というのもあり動揺もしたが。すでに一度倒した相手。
戦い方がわかっている以上、恐れることはない。
「オオッ、オオオッ――!」
ウォーター・スカルの一つ覚えである【アクア】が再び複数展開される。
ならば迎え撃つまでのこと。
「――シェイプ!」
手をかざし、集中して周囲の泥に魔力で訴えかける。
そして、俺の魔力に呼応するように泥が集まってくるが。
(――これ、は)
「泥で――盾をッ!?」
シェイプで泥の板を作り出したつもりだったが、力が入りすぎてしまったのか、それは泥の板というよりも泥の盾と呼ぶべきような大きく分厚いものとなっていた。
(――そうか、ゴーレムを作ったからか)
ゴーレムはいるだけで、錬金術の効果を上げる効果がある。
シロゴとクロゴを合わせれば、今の俺はそこそこ強化されていてもおかしくはない。
それなら。
「ウオオオオオオッ――!」
「――お前に勝ち目はないなっ!」
泥の盾を動かし、水玉の弾幕を抜けていく。
【シェイプ】はあくまで整形魔法。泥で作った盾はそれほど防御力はなく、水玉を受けるたびに少しずつ欠けていく。
しかし。
「近づくには、十分ッ!」
剣を振り払い、ウォーター・スカルに剣閃を走らせる。
「ァ、ォ……!?」
ウォーター・スカルの頭蓋骨は、俺の一振りによって真っ二つとなり、地面にボチャリと重たい水音を響かせたかと思うとそのまま霧散していった。
……今回は、エクトプラズムの入手はなし、か。
(デクラウスの方は――)
ふと、横を見てみると、上半身と下半身に別れたスケルトンナイトがぐったりと倒れたまま動くなっているのが見えた。
しかも、上半身はかなり遠くまで吹き飛ばされている。
……何が起こっていたのだろう。
「は、はぁ……た、助かった……! すごいんだな、キミ! い、今のは魔法かい!?」
鎧姿の男が、目をキラキラさせながらこちらに話しかけてくる。
「――いや、錬金術だ」
「錬金術!? ……信じられない、錬金術ってあんなことができるんだな」
俺がそういうと、騎士らしき男が感慨深げに言う。
「……その紋章、王国から?」
「え? あぁ。はは……こんな情けないところを見せてから言うのも恥ずかしいけど。一応、騎士ではあるね」
想像していたよりも、初々しい反応に少々困惑する。
王国騎士団――正式にはジークヴァニア王国騎士団は、高い練度と精強さで知られた騎士団、という話だったし、原作で見たのもみんなめちゃくちゃに強かった記憶があるのだが。
「――四等騎士団か」
デクラウスが呟く。
「……おや、お詳しいですね。ご老人。もしや、昔騎士だった経験があるとか?」
「まぁ――そうだな」
騎士の問いかけに、少し濁りのある返事をするデクラウス。
……もしかして、この騎士デクラウスの正体について気づいていないのか?
デクラウスに目で問いかけるが、小さくデクラウスは首をふる。
何か意図があるようだ。デクラウスの正体については伏せておくことにしよう。
「いや、本当に参ってしまうよ。最近はモンスターの襲撃も多くて。僕らじゃ――」
と、その時。
「――何をしている! ハーマン殿がお呼びだ。こんなところで油を売っているな!」
背後から聞こえてくる厳しい声。
声の方向を見ると――白いマントを着た軍服姿の男。
「団長! すっ、すみません!」
「ただいま、参ります!
モンスターと戦っていた騎士二人が、団長と呼ばれた男に向かう。
「……お前たち、見かけない顔だな。見たところ、外部からの来訪者と見るが」
「――用事があってここに少し滞在することにしたんだ」
団長と思わしき男の問答に、やや俺は答えを濁す。
スタンピードの対応のためにここにいる――というのは、ハーマンの耳に届くと厄介なことになるだろう。
あくまで俺達が許されているのは、街の滞在だ。
「怪しい動きはするなよ。……この街は、我ら王国騎士団が守っている。なにかあれば、この剣のサビになると思え」
剣を抜き、威圧する団長。
「ともあれ、ハーマン殿のお呼びがかかった。……急ぐぞ、お前たち!」
「「はっ!」」
団長の呼びかけに応じ、騎士たちはハーマン邸へと向かっていく。
この感じ、あるいはハーマンもスタンピードについてなにか考え始めたのかも知れない。
とはいえ……。
「……王国は、事態を正しく評価できていないようですな」
デクラウスが苦々しく呟く。
「四等騎士団は、王国の中でも予備兵団に近い存在。……この事態を考えるに彼らには荷が重いでしょう」
実際、ウォーター・スカルやスケルトンナイトについてもかなり劣勢な様子だった。
スタンピードはあれ以上のモンスターがもっと大量に押し寄せてくる。……それを考えると、明らかに彼らでは対応に限界があるように感じられる。
おそらく、平時なら彼らも力を合わせることで対応はできた可能性はあるが……。
「……行きましょう、ヴィトルム様。なすべきことをなさねば」
デクラウスの声色には、なにか苦々しさが載っているように感じられた。
俺は、声には出さず、ただ黙ってデクラウスの言葉に頷く。
と、その時のこと。
「ヴィトルム様! デクラウス様! ここにおいででしたか!」
向こうから、ターバン姿の男がこちらに手を振りやってくる。
あれは――。
「イゼデン!」
「受け渡し場所が急に変わったのは、少々驚きましたが――。たしかに、お持ちいたしました」
そういって、イゼデンが持ち運んできた箱を開ける。
「――ディバイン・リーフ、4500枚。すべてここに」
箱の中には、あふれんばかりのディバイン・リーフが収められていた。




