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ゲーム序盤の悪役貴族に転生しましたが、【錬金術】を極めて破滅フラグを回避します  作者: 月雲 十夜


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第2話 クラスブック『錬金術-初級-』

 さて、まずは『アイリス』の世界を生きるに当たり、まず知っておきたいことがある。

 

「――ステータス!」


 何はなくともステータス。

 初期ステータスは結構大事で、初期ステータスの配分で将来的に戦士職か、魔導師職、どちらが向いているのかがわかる。

 さて、俺は――ヴィトルムはどうか。

 

 しばし手をかざしていると、やがて目の前に光の文字がぼんやりと浮かび上がってくる。

 実際にゲームの中だとこんな感じなのか、と思いながらステータスを見てみると。

 

 

-----


ヴィトルム・アルトラス

HP:100/100


-----


(……ん、あれ)


 何か、俺が知っているステータス画面より、ずいぶんとさっぱりしているような。

 本来は攻撃力とか防御力とか、魔力とか、次のレベルアップに必要な経験値なんかも出てくるはず。

 これ、他のステータスはどうやって見るんだ……?


 スワイプ的な操作なやつか、と思い宙に浮かぶ光の文字に触れてみるが一切変化はない。

 

「もしかして、これしか……わからない?」


 ……そういえば思い出した。『アイリス』の主人公はゲーム開始以前から、様々な経験を積んでいて、とても「目が利く」という設定だ。

 となると、あの努力を嫌うヴィトルムがそういった能力を持っているとは考えにくい。


「……なるほど」


 命に直結するHPが明らかなのは救いだが、それ以外については今はわからないことを前提に動くしかない。

 それに、とりあえず今は本編開始以前のタイミング。ステータスをどうにかして検証する時間はおそらく十分にあるだろう。

 

 となれば。


 

「――『アイリス』と言えば、まずはアレだな」



 『アイリス』プレイヤーなら、街や建物に入って第一にやることがある。

 たしか、このヴィトルム邸にも、アレはあったはず。正直、この瞬間が『アイリス』をプレイしている、という気分がしてくる。

 俺は、心が躍るのを感じながら、自室を出た。



 記憶の通り、ヴィトルム邸を歩くことしばらく。


「――よし、あった」


 俺は目当ての部屋の前へとたどり着いた。

 先ほどの自室の扉に比べて装飾こそ質素であるが、大きく重厚感のある両開きの扉。

 逸る気持ちのまま、ドアノブに手をかける。


「カギはかかってない。なら――!」


 ドアノブをひねり、重い扉を思い切り開け放つ。

 そして、俺が望んでいた光景が視界に広がる。

 

 そう、ここは――。

 

 

「来たぞ、初『書斎』――ッ!」



 書斎。

 それは、様々な本が収納されている場所。様々なゲームでも、こういった書斎や図書館とはゲームのフレーバーや知識を学べる場所だが、『アイリス』の書斎や図書館はひときわ有用性が高い。

 

(……タイトルは全部『アイリス』文字で書かれてるけど、不思議と全部読めるな)


 『アイリス』世界に入れたことの嬉しさと、ヴィトルムになってしまった実感が合わせて少々複雑ではある。

 本棚にある本をくまなく見ていく。

 ゲーム中では感じることのなかった、本のカビ臭い匂いに心が踊る。

 

「お、これは……」


 本棚にあったある一冊を取り出す。

 

「――『剣術本【パリィⅠ】』」


 手に取った本をめくると、パリィについての基礎的な説明が様々書かれている。

 なるほど、実際にはこんな感じなんだな。

 

(たしか、ゲームだと……)


 本を広げ、手をかざす。

 すると、ページに書かれた文字がうっすらと光を放つ。


「よし、これは覚えられるな」


 今、俺が手に取った本はいわゆるスキルブック。

 この本を所有した状態で、本ごとにある様々な条件をクリアすることでその本に書かれた技を覚えることができる。

 適正なんかは必要ではあるものの、本来の習得条件を無視して覚えられるものもあり、上位のスキルブックが出た時は大いに嬉しい。


 ――そう、『アイリス』における書斎や図書館には、こういったスキルの書がランダムに配置されている。

 本来、その進行度では覚えられないスキルがスキルの書で覚えられるというのも珍しくなく、ゲームプレイの度に全て違ったプレイが体験できる、というわけである。

 

(とはいえ……まぁ、【パリィⅠ】自体は普通だな)


 【パリィⅠ】は、いわゆる剣術や短剣術で覚えられる技だが、「基本武器スキル」と呼ばれるようなもので、その武器を装備して戦っている内に勝手に覚えるスキルである。

 とはいえ『アイリス』では、基本武器スキルの習得タイミングはキャラクターに早かったり遅かったりとムラがあるシステムなので、一応そういった意味では使い道はある。……多分。

 

「他は……ありそうか?」


 書斎には図書館には、スキルの書以外にも何種類かこういった便利な本がある。持っているだけで魔法を使える魔導書なんかがあれば、今後かなりできることは増えると思うんだが……。

 俺は書斎を歩き回り、一冊一冊本棚を物色していく。しかし。

 

「思ったより、それっぽい本はないな。うーん、こんなものか……?」


 だいたいこういう書斎には体感的に2冊から3冊以上はあるイメージなんだが。

 貴族の書斎としては、正直だいぶ薄味な気がする。

 

 そう思った時、机の上でほこりを被っていた一冊の本に目が留まった。

 

 

「――なっ、『錬金術-初級-』ッ!?」



 慌てて机に駆け寄り、ホコリまみれになっていた本を手に取る。

 もし、この本が生きていれば――!

 俺は、急いで本を開き手をかざす。頼む、光ってくれ……っ!


「――よし、行けるッ!」


 ページに書かれた文字が、強い光を放つ。

 ……まさか、こんなところでクラスブックが手に入るとは。

 

 クラスブックとは、簡単に言えばスキルブックの上位互換である。内容的にはスキルブックを複数まとめたようなもので、この『錬金術-初級-』であれば錬金術で「初級」に分類されているスキルを「全て」習得できる。

 

 もちろん、今回の場合は習得できるのは初級錬金術のみだが、それでも複数のスキルが覚えられるわけで、大いに嬉しい。

 何より「錬金術師」という職業が大当たり中の大当たりだ。錬金術師とは『アイリス』において最強職と呼ばれるものの一つ。ゲーム中においては、あまり高くない評価なのだが、実際はかなりのぶっこわれ職業。最初こそやや緩やかではあるが、最終的な戦闘力はどの職業よりも飛び抜けることになる。


(これなら、行けるかも――!)


 やっぱり、『アイリス』は書斎に行っておけば間違いない。

 

(……そしたら、まずはこの本に書かれてる錬金術を覚えるとしよう)


 そう思い、机の上に本を広げた時のこと。

 

「もうしわけありません、ヴィトルム様。ここにいらっしゃいますか?」


 扉をノックする音が聞こえてくる。

 ……そうだ。ヴィトルムっぽい口調を意識して。

 

「何かあったか?」


 扉越しに会話するのもな、と思い扉まで向かい、扉を開ける。

 扉の向こうには――先ほど見た、部屋にはいってきたメイド。


「も、申し訳ありません。わざわざこちらまで来ていただいて」


「いや、構わない。ドア越しに話すのも大変だからな。それで、何か用があったのではないか?」


「は、はい。執事のデクラウス様が、剣術のお時間だと……」


「デクラウス……!?」


 デクラウスといえば、この世界でもかなり高名な騎士だ。

 かなり老齢であるためもう軍は引退しているが、ゲーム中でも著名な騎士や将軍を多く育てた伝説的な存在として語られている。

 ゲーム中では、行方知れずとなっていて直接会うことはできなかったが。まさか、ヴィトルムの執事として余生を過ごしていたとは。


 あのデクラウスに会える……!

 

「あの、つ、伝えることは伝えましたが、べ、別に今すぐ来いとか、そ、そういう話ではありませんのでっ! いつものように行きたくないという話であればそれはそれで構いま――」


「わかった。今行く。デクラウスはどこに?」


「えっ? えっと中庭に……」


「そうか! よく伝えてくれた」


 ゲーム中の多くの騎士が語る、老騎士デクラウス。

 プレイヤー間でも、人となりや、その強さは様々考察されてきた。あのデクラウスにまさか会えるとあっては、『アイリス』プレイヤーとしては行かないわけには行かない。

 中庭は、確か書斎に行く途中に中庭に通じる道があったはずだ。

 

 と、中庭に向かおうとして、気がついた。


「……この二冊を俺の部屋に。頼まれてくれるか?」


「はっ、はい! わ、わかりました!」


 俺は、メイドに先ほどのスキルブックとクラスブックを手渡す。

 あのほこりを被っていた感じからして、スキルブックもクラスブックも誰も興味はなさそうではあるが、どこかに持っていかれたりすると困る。

 一応、俺の部屋で保管しておくべきだろう。


「では、行ってくる!」


 デクラウス――実際にはどんな人物なのか。会うのが楽しみだ……!





「……あ、あれこの本って、錬金、術?」

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