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伝染咒

ああ、ごめんなさい。許さないでください。すべて僕のせいです。

小さい頃から、僕は怖いもの、特に人知を超えた妖怪や悪魔の類が好きだった。

降霊術や黒魔術にも興味を持って、何度か実践していたが、それは全て何の意味もなさないものであった。


そんな事をしていたからだろうか、僕は霊感というものをこれっぽっちも理解できなくなった。

幽霊は見えないのだからロマンがあるのであって、見えてしまえばそれはただの実体ノンフィクションだ。そうでなければ、ただの妄想か精神に異常をきたしているといえるだろう。


まあ、そんなことはひとまず置いておいて、これから僕の体験談を話そう。

この話はフィクションであり、ノンフィクションでもある。

生々しくもどこか幻想的で恐怖心に溢れたお話だ。


◆◇◆


僕は、中学生くらいの時、よく地方に住んでいた曽祖父の実家に遊びに行っていた。

九十歳になっても元気な曽祖父は、仏壇の前で僕と一緒によく曾祖母の遺影に向かって両手を合わせて拝んでいた。

それから一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って遊んでもらった。


ある日、僕は曽祖父の家のある集落で、自分と同年代くらいの少女に出会った。

ここではAとしておこう。


彼女は幼い体躯ながらもやけに大人びた、立ち振舞をしていて、周囲の大人からはませていると少し敬遠されていた。

しかし僕はそんな彼女のことが気になり、少しだけ話しをしてみた。


「ねえ、君、名前は?」

「私はAと言います。好きに呼んでもらって構いませんよ」


噂に聞くようなやけに大人びた口調はその小さな体躯には合わないようなものだった。

しかし、彼女がその言葉遣いをすると、自然とそれが受け入れられたように感じられるのだ。

彼女は僕にいろいろなことを教えてくれた。


学校の勉強からそのへんに落ちている昆虫の名前、暦の成り立ちや神社での参拝の仕方など、学術的なものから宗教的なものまで幅広い知識を僕に教えた。

僕は次第に彼女のことを尊敬の念を込めて『Aさん』と『さん』付けで呼ぶようになった。


そんなある日、僕はAと曽祖父の家でテレビを見ていた。

ローカル局の少し安っぽいクオリティのニュース番組を見ていると、キャスターが少し難しい顔をして話し始めた。


「―――えぇ〜、次のニュースです。先日行方不明になっていた○○○○ちゃんが、バラバラの状態で発見されました。警察は犯人の特定を急いでいますが、事件性は......極めて『低い』との見解を示しています。○○○○ちゃんは今月三日に、○○県○○○村で家族とハイキングに来ていた際、誤って足を滑らせて滑落したとの通報があり、その後警察、消防の調査が行われましたが発見されず、本日未明になりバラバラの状態で発見されたとのことです。詳しくは―――」


ピッ


曽祖父がテレビの電源を落とした。


「最近は物騒な世の中じゃのぉ。こんなニュウスなんて都会でしか起こらんと思っていた」


ただの事故なのに、どこが物騒なのかと、僕は曽祖父に聞いた。

だが、彼は聞こえないふりをして昼食の支度をした。


結局何度聞いてもその言葉の真意は教えてもらえなかった。

その後はいつも通りに曽祖父とAと昼食を取って、そのまま外でAと遊んでいた。


集落の、舗装されていない裏路地は、ジメッとしていたがひんやりと涼しく、休憩するのにちょうどよい場所であった。


そこで、僕はよくAから怪談を聞いていた。

背筋が凍るような話から、つまらない話まで、何でもしてくれた。


「今日は何の話?」


僕は目を輝かせてAに聞いた。

彼女はいつも通り、一つの怖い話をしてくれたが、あまり怖くはなかった。ただ呪われて、頭の中で変な声が聞こえ続けるといったようなものだった。


もちろん僕が満足するはずもなく、僕は彼女にもう一つだけ!とお話をねだった。

彼女はしばらく思案に暮れていたようだが、取ってつけたように『思いついた』と言って話し始めてくれた。


「今日はとある儀式について、話しましょうか。その儀式の名前は―――」



伝染咒うつりまじない



「何?それ」


まだ話し始めても居ないのに、妙に背筋が冷える感覚を覚えた。変に風でも吹いたんだろうと思っていると、Aが話し始めた。


「このお話は、とある部落で生まれた、強力な咒です。二人向かい合って座り、一人が怖い話をして、最後に『咒、咒、廻れや廻れ』と唱えて、その人の儀式は終わりです。これを連鎖させて、呪いの力は増幅させられんです。儀式を最後まで聞いた人は、三日以内に他の人に別の種類の怖い話をして同じ様に儀式を終了させなければ、今までのその呪い全てがその人に集中するの」

「ヘ、ヘェ〜」


少し怖くなった僕はか細い声を出すことしか出来ず、ただただ彼女の目を見て震えていた。


「怖いんですか?」

「マア、ウン、チョットダケ......」

「では......」


彼女は手をパチンと叩いて言った。


「「咒、咒、廻れや廻れ」」


誰かの声と被さったような音だった。

それと同時に、僕の足元に不思議な感覚があった。何かに掴まれているように、その部分だけ変に温かい。

涼しいはずの路地裏が急に寒く感じて、僕はAの顔を見た。


彼女はニタっと笑っていた。


怖い。


本当にそれだけだった。漠然とした恐怖。何かが自分に作用しているはずだが、それが一体何なのかが、わからない。

震えて動けなくなっていると、彼女はこう言った。


「これは、フィクションよ。安心なさい」


彼女が僕の方を二回ぽんぽんと叩くと、体につきまとっていた不安はすべて消え去った。


「全く、子供なんですから」

「ごめんよ。でもさ、すごいね。才能だよ」

「ふふ、そんな事はありませんよ」


その日は、そこで彼女と別れた。


◆◇◆


あの日から、Aと合うことはやけに少なくなった。彼女の家に行っても、今は出かけているの一点張りでまともに取り合ってくれなかった。

そんな彼女を、僕は集落中探し回った。


そんな時、彼女は大体神社の近くにいて、一人で雑草を眺めていたり、神社の小高い丘の上から集落のスケッチなどをしていた。


ある日、僕はAに出会った。


すごくやつれた顔をしていて、なんだか息も辛そうだった。


「大丈夫?」

「「ええ、大丈夫です」」


声が被っている。なにかが憑いていると、直感的に感じた。

このままでは死んでしまうのではないかと、彼女に心配の眼差しを向けていると、彼女は少しため息をついて草むらに寝転んだ。


「「伝染咒は、"直接"嘘だと伝えると、呪いの効果が消えるんです。そしてその呪いは、自分に返ってくる。ごめんなさい。あなたを呪おうとしました」」

「......」


僕は空いた口が塞がらなかった。

彼女が僕を呪おうとしたことよりも、呪いというそんなオカルト的なものが本当にあるということが、信じられなかったのだ。


「でも、僕は本当にそれが存在しているって分かってるから......きっと君の呪いを引き受けられると思うよ?」

「「でも、そんなことをすれば、あなたは死にますよ?あなたのようにすぐに物事を信じてしまう人なんて居ないんですから。都会住みの人なら、なおさら...」」


彼女の影が揺らいだ。時間はもう無いようだ。


「大丈夫、手はある」


僕は彼女の肩を掴んで、そう言った。


「「本当に?ですカ?」」


もう時間がない。


「早く、なにか話して」

「「では、伝染咒は罹患者が死んでも、呪いは罹患者を動かし続ける、という怖い話を」」


それから、僕は呪いを引き受けた。彼女の体調はすぐに回復したようで、反対に、僕の体にはあの時と同じように変なものが体にまとわりついていた。


「さて、どうしたものか」


やけに落ち着いていた僕は、とある計画を思いついた。


◆◇◆実話


僕は大舞台に立って、話し始めた。


―――これは、僕がとある人から聞いた、少しだけ不思議なお話です。

その人は、学校からの帰り道、その日はもう夜も遅かったようで、街頭だけに照らされた道を一人で歩いて帰っていました。

誰も居ないのに、後ろから足音が聞こえる。


もしや、妖怪の類では?と思うと、少し怖くなって振り向けなくなった。

少し小走りに移動すると、その足音は急に早くなった。

どうやら走ってきているようだ。

不審者だろうと腹をくくって振り向こう、そして思いっきり叫んで逃げてやろう。


そう腹をくくって振り向こうとした時、うしろから知っている声が聞こえた。


「なんで逃げるの〜?」


友人の声だった。安心して振り向こうとした時、彼女はその人の肩に手をおいた。


やけに冷たい。制服越しにも関わらず、一切の体温が感じられなかった。


「ひっ......」


少し、声が漏れた。


振り向けない、振り向いちゃいけない。

そう思っていると、後ろに居たはずの気配はその人を横切って前に歩いていった。


「なんで逃げるの〜?なんで逃げるの〜?なんで逃げるの〜?」


ゆっくりと目を開いて、友人の声をした"それ"を視認した。


明らかに人間ではなかった。全身血まみれで、ところどころひしゃげて変な形になっていた。


機械的にその音声だけを繰り返すそれは、首だけをこちらに向けて、足はそのまま前に進んでいた。


そして、最後に呟いた。


「私なのにィ〜」


翌日、その友人が帰り道にトラックに跳ねられて死んでいたという話を聞いた―――


「以上、僕の怖い話でした」










咒、咒、廻れや廻れ。

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