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絵本の部屋(3)

 本当は音なんてしていないハズの教室の黒板の上に掛けられた時計。なのに今は秒針の動きがメトロノームのようなリズムを打つ甲高(かんだか)い金属音をさせてるみたいに感じる。

 棗ちゃんの素朴(そぼく)な質問が、私にとって考えたこともないくらい自然な我が家の環境に、もっともな違和感を(あらわ)せてみせた。

 

 何でだろう……。

 私は棗ちゃんの質問に何も答えられずにいた。知ってるハズなんだけど分からない。

「梓ちゃん、大丈夫?」

 自分の心音(しんおん)が、彼女に心配を掛けてはいけないと私に知らせる。

「あっ、うんうん、大丈夫!あっ、でも前に棗ちゃんが気になったっていう児童書、あの部屋で探してみようかなっ!」

 自分の()(つくろ)う不十分さに(あわ)ててドキドキしてしまう。

「うん、余裕あったらでいいからね」

「うん、わかった」

「あっ、と……」

 棗ちゃんの指先からシャーペンが落ちて、ノートの上で2回転した。


 放課後、帰宅した家にはまだ誰もいなかった。

 校門で心配そうに笑顔を作って手を振る棗ちゃんに、心の中で大丈夫だから心配しないでと強く想って、私も笑顔で手を振った。

 シンとした家の中は、気流さえも聞き取れそうな静けさだった。


『今日は……見えないの?』

 ――静か過ぎて聞き取りたくない事まで聞こえてきそうだった。ワカバヤシの嫌な言い方……。この、今日は?って所、まるで見えない事がダメみたいな言い方。期待させといて期待ハズレみたいな、残念なカンジ……。超ムカムカする!

 ダメダメ、若林の嫌がらせは忘れよう!意味ないし!

 ていうか、この部屋……。

 2階の絵本の部屋は、あらためて見てみると思っていた以上に本の冊数が多く感じる。

 本当に絵本と児童書だけなんだ……。私は目を(めぐ)らせながら、本棚から本棚へと歩き回り背表紙のタイトルを見て回った。

 いつもここへ来る理由が、本を読むためでない事は動機(どうき)不純(ふじゅん)というべきか、単純に猫に小判と表わすべきか、当然のように私はちっともこれらの本を読んでいないようだった。

 そしてカワイイもの発見!

 本棚の少し空いたスペースにマトリョーシカ人形があった。顔はニコやかだけど、ブックエンドの役割に少し不満そう。その隣の棚には、だるまの置物も挟まっているその顔は、口をへの字にかなり不満そう。

 部屋の一番奥の端っこの本棚にもいた。

 今度は仏像?じゃなくて、インドかエジプトかどこかの壁画に書かれてそうな神話の神様みたいな人形。二本足で腕を胸の前で組んでて人間っぽいけど、顔に(かぶ)ってる仮面はウサギの耳とテングの鼻をつけた奇妙(きみょう)なスタイル。

「あなたも不満そうだね」

 私はその子の窮屈(きゅうくつ)そうな一冊の児童書を抜き取って、少しだけ余裕を作ってあげたついでに、その本の中盤ほどに挟まっていたしおりのページを読んでみた。


 ミカエは橋のたもとに立って、来る人来る人にたずねた。

「どこへいくの」

「河を渡るんだよ」

「なぜそちらへいくの」

「そう言われたからだよ」

「いつもどってくるの」

「たぶん戻らないよ」

「なにがあるの」

「何も無いよ」

「うそよ」

「本当だよ」

「しりたいのよ」

「教えられないんだよ」

「つれっていって」

「連れていけないよ」

「なぜよ」

 誰もそれ以上は教えてくれなかった。


「アズサ、君は来るかい?」

「私?」

「そう、一緒に」

「怖いよ」

「大丈夫だよ、さあ」

「行かない」

「アズサ」

「アズサ」

「アズサ」


「梓ちゃん、風邪ひいちゃうじゃないの!」

 私はママに起こされて目を覚ました。

「もう、どうしていつまでも子どもみたいに!」

「ママ、私……寝てた?」

「もう、しっかりして」

「おお?!我が娘よ、パパは天然キャラのそんな所が好きだぞ~」


 ママは(あき)れていた。

 パパはまたいつものように、意味不明にふざけていた。

 不思議な本の内容だった。

 私はその本の作者の名前を見た。

 それは私が知っている人みたいだった。

 今すぐにふたりに()きたかった。

「梓ちゃん、落ち着いたら下りて来てね」

「寝ぼけて階段から落ちないようにな~」

 ママもパパも私の話なんて聞く気ないんだ。そう思った。

 この作者を知りたい。とも思った。

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