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みちしるべ(2)

 目の前の雪景色みたいに、頭の中が真っ白になった。

「前にも飛べるなんて……なんか想像できない」

『そうかも知れぬ』

 足を止めて、しばらくその場で空を見上げると、空からゆっくり落ちてくる雪が、フラフラ風に流されながら私の顔に着地してじんわり肌に染み込む。

 すると何もない空に、道標(みちしるべ)が浮かんだ気がした。

『きっとそうなのだ』

「え、何が?」

『あの者たちは、私たちが飛ぶタイミングで待ち伏せていた。そうしないと私たちに干渉(かんしょう)する(すべ)がないからだ』

「そっか、私たちが動いた先でしか邪魔できなかった。むしろあの場でしか本を奪う機会はなかった。それなのに……」

 悔しさで肩が震えた。

『梓、家に入ろう』

「うん」

 私たちが戻った本の部屋は出掛ける前と同じだけど、ついさっきのあの出来事が、今になって私に目を開けていられないほどの恐怖を感じさせる。

 問い掛けられた意味不明な言葉も、迫り寄られた時の違和感も、私へ掴み掛かろうとする瞬間だって、自分がよく平気でいられたなって思ってしまう。

 私が棗ちゃんと引き離されたあの時、あの場にいた亀人間の集団は、さっき私を襲ったヤツらなんだろうか。私はあの後しばらくの間、とうとう棗ちゃんに見放されたと本気で思っていた。でもこれで分かった……棗ちゃんは私にエルクァフゾで避難させるために背面ジャンプさせたんだ。

 棗ちゃんはなぜそんなに多くを知っているの?それならば棗ちゃんは今どこにいるの?


 少し落ち着きたくて、守護神を隣に置いて床に座る。窓の外の風見鶏はさすがに怖くて見られないけれど、あのお隣の家の屋根に見えた巨大な赤いキノコは乗り物だったのかな……。クラスで一時期少し騒がしかった世界のUFO目撃事例になんて興味はなかった私も、赤いキノコ説は聞いたことがあった。それと……若林が言ったあの言葉。

『御神本さんが見たUFOに乗っていたのは、どんな生き物だった?僕が見た時は、普通に人間だった』

 私が見たのは普通じゃない亀人間だった。アイツのそれと私のこれに何の関係がないとしても、私が経験した事実は変わらない。


「ねえ守護神、前に飛ぶのはきっと難しいんでしょ?」

『その通り簡単ではない。誰も見たことのない先のイメージを狙うなどという空想めいた想像力は、普通の大人になせる(ざわ)ではない』

「そうだよね」

『君は自分をまるで大人の女かのように話を流したな』

「は?」

『少女レベルの空想めいた想像力は自慢ではないのか?』

「誰が夢見る少女よ」

『君ならきっと簡単だ』

「じゃあ、その前に……」

 私は自分の考えを守護神に相談した。猛反対されるかもって少し心配だったけど、私の気持ちをちゃんと理解してくれて、内心すごく嬉しかった。


「さっむ、こっわー」

『何回ここを訪れたら気が済むのだろうな』

「まあそう言わないでよ、ここぐらいしかヒントないし」

 私だって少しはそう思ってる。三賀山遺跡にばかり来てるなって。

『別に私は構わないのだが』

「てか真夜中はやっぱ怖いし寒いしミスったかなぁ」

『うまくできそうか?』

「ダメもとで試してみるだけだし、ここで何回も見たって言ってたし」

『そうか』

「いくよ」


 ジャンプ!!


 私は数ヶ月前のこの場所に飛んだ。

 消えたクラスメイトの男子が現実世界から消える前に言っていた事がもしも事実ならば、そのポイントを突き止められるかもって思った。

 それだけだった。

 けれど。

『これは実に見事だな』

「マジ?これヤバくない?」

 崖の上から見下ろす遺跡のくぼ地に見える物。月に照らされてもほとんど黒っぽいけど、あれは間違いなく真っ赤な巨大キノコ傘だと思う!

『くれぐれも注意するのだぞ』

「ちょっと見てくるだけだよ」

 私は散策路を静かに下りる。やっぱ真夜中にして良かったと、そう思うのはタイミングがジャストミートしたことよりも、闇に(まぎ)れて行動できるのってやっぱ正解だったと思ったから。

 アレに近付き過ぎるのは危ないけど、近くで見るとなぜか不思議と親近感が()くのはたぶん、テーマパークの乗り物っぽいからかな。

 そう思って油断してたからか、どこかから(かす)かに聞こえる話し声に超ビビる私!だって発見されたら終わりだから!

 ひとまず岩かげから盗み聞きしよっと。


「本当にここだなんて信じられないよ」

「うん、そうだよ」

「画像と全然違うよ」

「うん、たぶんそう」

「もう回収も終わると思うけど、うん……」

 ――電話?若い男の子かな、てか普通に人じゃん。じゃあ亀人間って何なの?

 あー!もう分かんないや!

「ちょっと、アンタ!」

『おい、梓!やめろ!』

 見るからに相手は私より年下の男子だった。しかもコスプレみたいな格好だし。だからって、気が付けば私はソイツに話し掛けるなんて、かなり無謀(むぼう)な行動に出てた。

「その画像、見せなさいよ」

 その少年は私を見て声も出ない様子だった。でも手には何も持ってないのに誰かと電話してるっぽいし、文庫本くらいの画像が空中に浮いてるのはもうワケが分かんなかった。

 それにもうひとつ……。

「その写真、まさかここなの?」

 理由なんてない、私は直感でそう思った。三賀山遺跡の、いつの時代なのか……。


「遭遇!遭遇!遭遇警報だ!」

 ――そして案の定、ついに叫ばれた。


「わっ、ヤバっ!!」

『梓、急ぐんだ!!』

 私は猛ダッシュで散策路を逃げる。でもこの音って、警報?!メチャクチャ高い音で聞こえない?!何から何まで意味不明すぎ!!


 ジャンプ!!


 果たして少年は、あの真っ赤なマシンに乗ってどこから来たんだろう。外国?違う、どっかの惑星?まさかね。でも見た目は普通にハーフの少年ってかんじだったけど、話した言葉は日本語だった。

 そして無理やり見させたあの画像は、しっかりと私の目に焼き付いていた。

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