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謎解きと謎掛け(7)

 自分がいま目にしている物が、もしもアイツの言ってた物と同じだとして、これから自分はどうなってしまうんだろう……この場から自分はどっちに行くんだろう……まさか逃げることはあっても、自分から近づくことなんてあるハズないと思ったのに……。

 私は散策路を下りていた。しかも駆け足になってまで、その得体(えたい)の知れない何かに吸い込まれるように引き寄せられていた。

 きっと私の頭はどうかしちゃったんだ。

 これがただの好奇心や恐いもの見たさだったら笑える。

 あんなに怖がってたのに。

 あんなに信じてなかったのに。

 あんなに馬鹿にしてたのに。

 いつも危なっかしい梓はある時から、もっと強くなって、しっかりして、親友に認められる人間になって……。

 なのに、なぜ。あれが本当にUFOだったらどうするの?あれに連れ去られたらどうするの?アイツみたいにこの世界から消えちゃってもいいの?

 そんな自制心は線香花火の最後みたいにプツンと弾けて消えていた。

 その白いテントの中に自分が飛び込むなんて。


「梓ちゃん!!」

 あの時、坂の上で私の涙を拭ったように、棗ちゃんの手が私の両頬を挟んでいた。

 目の前には棗ちゃんがいて、隣には志摩先生がいた。私はさっきから一歩も動いてなかった。また、ただの私の中の空想だった。

「梓ちゃん、よかった。どこにも行かないでね」

「あっ、ごめん。また入っちゃった私……」

「うん、連れ戻した」


 ただ、遠くに見える物は(まぎ)れもなく“現実”だった。


「志摩ちゃん、遠くのくぼ地に下りた場所に何か見えるよね」

「見える、かな」

「ほ、本当ですか!私だけじゃないんだ!」

「あれは……」

 私は息をのんだ。胸のドキドキが指先にまで感じて、右腕を下に腕を組んだり右親指を下に指を組んだりソワソワした。


「あれは、蜃気楼(しんきろう)だ」

「そんな、まさか!」

「蜃気楼って春とかに海の上に現れるマボロシですよね?!ここ海でもないし真冬だし、本当なんですか?!」

「過去、蜃気楼は陸上でも目撃されているかな。特に山間(やまあい)などで温度差の発生している条件下では、遠くに幻影(げんえい)が確認できてもおかしくないよ」

「温度差って、そういうこと?!」

 棗ちゃんは、しゃがんで地面に手をあてた。

「たしかに、あったかい」

「そうだね、ここの特徴かな。地表からの地熱と山間部の冷え込みの空気の冷たさから、海上での条件とは真逆の蜃気楼が現れたということだね」

「そうなんだ……」

「夏の暑い日、アスファルト道路に水たまりが見える“逃げ水”や、島やオアシスが浮かんで見える“浮島”現象なども同じかな」

「近くで……見てもいいですか?」

「さあ、下りよう。ただね……」

 散策路を下りて近づいた私たちからは蜃気楼は……。

「消えた……」

「もちろん。あれは光の屈折で現れた“未確認物体”ってことだから、かな」

 本当にまさかだった。UFO現象の謎の正体が“蜃気楼”だったなんて少しも想像できなかった。都市伝説の正体は、遠くから見えて、近づくと消える……。

「やっぱりただの見間違いだったんだ……」

「じゃあこの事と彼がいなくなってしまった理由は無関係?」

「わかんない……わかったことは、この謎掛けを解くまで私は一生このモヤモヤを消せないんだって恐怖心だよ」

「心配しないで。梓ちゃんは私が守るよ」

「棗ちゃんはすごいな……私よりずっと大人なんだもん」


 この時の私はまだ何もわかってなかった。ただ空想と現実の境界線上で怖がってるだけだけの、ただの子どもだった。

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