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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.97


「のぅ、エリオット。シシリア嬢ちゃんのあの勘違いは一体どういう事じゃと思う?

私にはシシリア嬢ちゃんがこの世界をゲームの世界だと本気で思い込むほど愚かな子には思えんのじゃが」


シシリア嬢ちゃん達の修行を始めて少しした頃、こっそり様子を見に来たエリオットと2人、いつもの小屋でお茶をしながら私は首を傾げた。


「う〜〜ん、多分だけど、あちらの世界にスキルを持つ者がいたんじゃないかな?

例えば異世界を覗き見る能力とかね」


エリオットの言葉に私はポンと手を打った。


「なるほど、その者がこの世界を覗き見たとして、例えばシシリア嬢ちゃんの言うゲームの制作に関わっていたとしたら、それをモデルにしたゲームが作られても不思議では無い、という事かい?」


私の返答にエリオットは正解、とでもいうように軽くこちらを指差した。


「たぶん、夢や白昼夢で異世界を覗き見る能力だろうね。

無意識で力を使っているから、見たものを自分の空想や想像力だと思っても不思議じゃない。

つまり、急に空からアイデアが降ってきた、みたいな感覚かな?

それを元にゲームの世界観やキャラクターを生み出せば、この世界をそのまま再現したゲームが出来上がる。

まぁシナリオなんかはその人間のオリジナルなんだろうけど。

キャラクターの性格なんかも見た目からの想像だろうし」


軽く肩を上げるエリオットに、私は顎を掴み首を捻った。


「うむ、だとして、では何故キティちゃんが悪役令嬢役だったんじゃろうな?

あんな可憐で可愛らしい容姿をしておるのに」


私の疑問にまたエリオットはなんて事ないように答えた。


「見るからに高位貴族のお嬢様で見目も良いと、悪役令嬢役になっちゃうんだよ。

ゲームのヒロインはつまりプレイヤーの分身だから、出来るだけ身分が低く、平均より上くらいの見た目がベストだからね。

そうじゃないと、自分をヒロインに投影し辛いから。

キティちゃんくらい突き抜けて可愛いと、逆にヒロインにはなれないみたいだよ」


ゲームのキャラクターにそんなルールがあるとは。

言われてみれば、確かに納得の理由じゃな。

キティちゃんを自分の分身として投影するのは確かにしんどいかもしれん。


「なるほどの〜〜。では、シシリア嬢ちゃんが次回作の悪役令嬢だというのも同じ理由かい?

確かに、自己投影するにはキティちゃんよりもシシリア嬢ちゃんの方がもっとずっと厳しいのぅ。

まだ幼いというのに、もう既に完成された美人じゃもんなぁ」


私がボソリと呟くようにそう言うと、エリオットが急にがターンッと椅子を鳴らして立ち上がった。


「否っ!イブッ、それは間違っているっ!

シシリアはまだまだこれからっ!美しく成長するよっ!

僕には見えるんだっ!

いけないワガママボディへと美しくかつ妖艶に育つシシリアの輝く未来がっ!」


フガーッと鼻息荒く熱弁しているが、自分の欲望がダダ漏れているだけのエリオットに私はハァーッやれやれと肩を上げた。


「まだ10歳の女の子に何を期待しておるのじゃ、お主は。

確かに前世ではスラッとしたスレンダー美人じゃったが、今世でどのように成長するかはまだ分からんじゃろう?」


呆れれ果てた目で見つめる私に、エリオットは必死になってブンブンと頭を振った。


「ノーーーッ!僕には分かるっ!

シシリアはボンキュッボンないけない魅惑ボディで僕を悩殺してくるんだっ!

僕は今からそのシシリアの将来の姿を……妄想しては……ハァハァ……」


瞳孔が完全に開ききったエリオットにドン引きしつつ、今だに犬の姿だった頃を引き摺ってハァハァいっておるんじゃのぅ、と明後日な事も頭によぎりつつ、私はヤレヤレと首を振った。


「まぁ、良い、シシリア嬢ちゃんがどんな風に育つかは先のお楽しみとして……。

その乙女ゲームのルールとやらは何となく理解出来た。

要は、位が高く見目が良い男子は攻略対象者に、同じく位が高く見目の良い女子は悪役令嬢役になるという事じゃな。

対して、主人公であるヒロインは位が低く、見目はどちらかというと平均的な方。

なるほど、なるほど、確かにその方が遊んでいてしっくりくるの。

あちらの世界のスキルを持った者が少し先のあの子達の様子を見てそのゲームを作ったのなら、では、ヒロインのモデルになった子も既にこの世に存在しておる、という事か……」


だが、そのヒロインのモデルになった子が将来あの子達に接触したところで、私にはクラウス坊やがどうかなるとは思えんのぅ。

まぁ大した影響は無いじゃろう。


「面白いもんじゃのう、シンデレラストーリーというものは手を変え品を変え、色々な形で今も受け継がれておるのじゃな。

とはいえ、現実ではなかなかお目にかかれないもの。

ゆえに余計人を惹きつけ、夢中にさせるのかもしれぬの」


人の発想力とは凄いものだな。

憧れという感情一つで様々なものを生み出す。

確かにあの子達の未来の姿は万人に憧れを抱かせるに足るだろう。


そこまで考えて、ふと私は不思議に思い、マジマジとエリオットを眺めた。


透けるような淡い金髪に、瞳の色は濃いロイヤルブルー。

まるで彫刻のように整った顔にスラっとした長身。

まだ15歳だからこれからまだまだ背は伸びるだろうし、顔にも精悍さが加わるだろう。

そうなれば今よりも更に美しい男性に育つ筈………。


「何故エリオットはそのゲームには登場してないのじゃろうな?」


よく考えれば、王国の第一王子で王太子であるエリオットが攻略対象者でないのはおかしい。

首を捻る私を真似して自分の顎を掴み首を捻りながら、エリオットは私の言葉に呑気な口調で答えた。


「僕、犬の姿だった頃、あの二人の会話は全部聞いていたし、ゲームもしっかり覗き込んでいて、内容はだいたい知ってるんだ。

僕の存在は簡単な説明くらいしか無かったな。

姿もシルエットだけで。

あのゲームに出てくる皆は今より先の未来の姿だから、今の僕には予想ぐらいしか出来ないけど。

多分、僕なら誰かにスキルで覗かれてるな〜って気付けるし、そしたら自分の存在を曖昧にする力で逃げるかな。

だから僕はハッキリとした存在としては出てこないんだよ。

あの子達の会話から、王太子という存在を知った、くらいの認識で済んだんじゃない?」


まるで他人事のようにすっとボケた様子のエリオットに、これ以上無い回答を頂いた私は、その事について話す気力さえ一瞬で失った。


先の話でまだ分からないが、多分それが答えじゃな。

いや、間違いない。


「それにね〜〜、王太子ってのは人気ないんだよ〜〜。

ほら、王太子と王子では背負う責任の重さが違うでしょ?

ヒロインとしてどちらかを選ぶなら、断然、まだ責任の低い王子の方だと思うな。

乙女ゲームは婚姻がゴールみたいなところがあるからね。

実際には婚約までかな?その辺でハッピーエンドを迎える訳だけど。

乙女ゲームというからにはプレイヤーは女性がほとんど。

ゲームの中の事とはいえ、女性はシビアだから。

責任ばかりが押し掛かる王太子妃より、王子様の婚約者〜〜辺りでゴールを設定して欲しいわけ。

そんなこんなで僕には特に需要が無いまま、説明とシルエットだけで片付けられてるのさ」


じんわり目尻に涙を浮かべ、それを指で拭う真似をしているエリオットをジト目で見つつ、今更何を言おうと、あちらの世界のスキル持ちを自分のスキル(正確に言うとエリオットのはスキルでは無いが)で弾くエリオットの未来の姿しか浮かばん。


「まぁ良い、エリオットが攻略対象者では無いからこそ、シシリア嬢ちゃんもどこか安心してお主には気を抜けるのかもしれん。

何にしてもシシリア嬢ちゃんは色々と気負い過ぎているように見えるからの。

あの子達の事もまだ信用はしきっておらんように見える………。

私の所で共に修行していくうちに、仲間意識も芽生える事じゃろう。

あの子達のこの先の未来は苛烈な時代となるじゃろうからな。

幼いうちから共に切磋琢磨し合う仲間として育つのは良い事じゃ。

背中を預けられる仲間は多いに越したことはない」


うんうんと頷く私に、エリオットはヘラヘラした笑いを引っ込め、真面目な顔で私を真っ直ぐに見た。


「という事は、イブの最後のピースが揃いそうなんだね?」


そのエリオットをこちらも真っ直ぐに見返して、私は静かに頷いた。


「うむ」


そして直ぐにへにゃっと肩を落とす。


「と、言いたいところなんじゃが。

シシリア嬢ちゃんに会ってハッキリしたよ。

私の最後に求めるピースの欠片は、どうやらあちらの世界にあるらしい」


はぁぁぁぁっと盛大に溜息をついた後、私は悔し紛れに地団駄を踏んだ。


「あ〜〜なんて事じゃっ!ここまできてっ!

まさか最後のピースが前世のあの世界にあったとはっ!

シシリア嬢ちゃんの前世であった、あのお嬢さんに纏わりつく嫌な気配……当時はあの気配のせいでこの子が辛い思いをしなければ良いが、と心配しておったが、あの気配こそ、今の私が求めているものじゃったんじゃっ!」


キーーッ!と地団駄を踏む私を見つめながら、エリオットは自分の顎を掴み少し考え込んでいた。


「………アレか………アレなら多分……そのうちシシリアを追いかけてくると思うよ」


ボソッと嫌そうに呟くエリオットに私は目を見開き、その襟首を掴んで思わずグワングワンと振り回してしまった。


「いっ、一体どういう事じゃっ!

あの気配が生まれ変わったシシリア嬢ちゃんにまで纏わりつくという事かっ!

じゃが、一体どうやってっ!」


その私にブンブン振り回され目を回しながら、エリオットが苦しげな声を上げた。


「あの魂はもうずっと、シシリアの魂だけを探して求め続けてきたんだ。

一応は人間の魂だから輪廻の輪には乗るけれど、僕らの神様はあの魂に干渉する事が出来ない。

だからあの魂は輪廻とはまた違う理りで自由に生まれ変わり続け、ついに前世のあのシシリアの魂を見つけ出した。

やっと見つけ出したシシリアの魂に執着しているアレは、必ずまたシシリアを追いかけてこの世界にもやってくるはずだ。

……いや、既にこちらに生まれ変わり、必ずいつかシシリアに接触してくると思うよ」


話の途中で襟首を掴む手を緩めた私から逃れ、エリオットはケホケホ咳き込みながらも、その美しい顔を心底嫌そうに歪めた。


「………それは、一体………。

シシリア嬢ちゃんとあの気配とは、一体どんな関係なんじゃ?」


私の疑問にエリオットは襟を正しながら哀しげに睫毛を揺らした。


「………イブは………君が初めて人として生まれたあの時代を覚えているよね?」


エリオットの言葉に、私は最初の記憶を思い出しながら頷いた。

その私をやはり哀しげにチラッと見てから、エリオットはその顔をそっと横に向けた。


「シシリアの元の魂はね、あの時代に、アレに酷く傷付けられ、その魂を癒すためにずっと神様の御許で静養していたんだ。

やっと輪廻の輪に戻った頃にはほぼ真っさらな魂になっていた。

だから、シシリアの前世のあの子は、その魂の生まれ変わりとはいえ、自分の前世との繋がりの薄い真っ白な魂で生まれたんだよ。

流石にアレにもその魂を見つけ出す事は無理だろうって、神様も思っていたんだけど……。

アレの執着心はそんなものじゃ無かった。

ほぼ消えてしまったその魂の前世の気配を嗅ぎ取り、再び酷く傷付けたんだ。

シシリアは前世で受けたその傷を抱えたまま、こちらに生まれ変わった……。

前世での記憶を持っているシシリアのその傷は、少しも癒されないまま、今でも血を流し続けているんだよ………」


悔しさと哀しみの混ざり合ったその横顔を見つめ、私は息を呑んだ。


……あの気配が、今のこの世界で私が求める最後のピースだとすれば………。

それも無理からぬ事やもしれん。


あんなものに目をつけられ執着されてしまっては、ただの人間にはもうどうする事も出来んかったじゃろう。


「………シシリア嬢ちゃんが傷付けられというのは、あの、いつも一緒にいたお嬢さんを害された事だね……?

じゃが、2人はもうこの世界で再会しているではないか」


私の言葉にエリオットが指を口の前に立て、ふふっと笑った。


「2人はまだ、お互いが前世の親友だって気付いてないんだ」


楽しげなエリオットの様子から、それを2人に教えてやる気は無いのが伝わってきて、私は呆れて溜息をつく。


「まぁ、あれほど仲が良かったのじゃから、余計な事をせんでもいずれ気付くじゃろう。

………しかし、だからといって前世で2人があの気配に傷付けられた事実が無かった事にはならんの。

………そうか、シシリア嬢ちゃんも大変なものに目をつけられたもんじゃ。

エリオット、シシリア嬢ちゃんをきちんと守ってやるんじゃぞ?

相手が相手じゃ、私達のように神様と縁のある者でも油断は出来ん。

もう2度とシシリア嬢ちゃんの魂を傷つけられぬように、私達で守るのじゃ。

あの気配の持ち主さえ分かれば、来る時に私が必ず滅してみせるゆえ、それまでは何とか守らねばならん、良いな?」


私の言葉にエリオットはその瞳を妖しく揺らめかせた。


「やだなぁ、イブ………僕を誰だと思っているの?

………僕が大事なシシリアを誰かに傷つけさせたりする訳ないじゃない………」


ニッコリ笑うエリオットの気迫に当てられ、私は口の端を引き攣らせて、何とか笑い返した………。



やれやれ………シシリア嬢ちゃんはつくづく………とんでもないモノを引き寄せてしまう体質らしい………。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「と、いう事なの」


その夜、私の寝室でカインに全てを説明し終わると、私は悩ましげに頬杖をつきながらハァッと溜息をついた。


「タロちゃ……エリオットったら。

まだ犬の姿だった頃の癖が抜けないのね。

シシリアちゃんの話をするたびにハァハァって、息を荒くするのよ」


どうしたものかしらとカインを上目遣いで見上げると、カインはニヤける口元を手で覆い、困ったように目を泳がせていた。


「………イブ、エリオットがシシリア嬢に関して息を荒くしているのは、たぶん、犬だった頃の名残りじゃない………。

その、男の本能というか、いや………まぁ……仕方ない理由があってだな……」


言いにくそうなカインの言葉に私は目を見開き、怒りで目尻をほのかに赤くした。


「まぁっ!あの子ったらっ!まだ10歳の少女に対して性的興奮を覚えているっていうのっ!

なんて事かしらっ!私は本当にあの子の躾を間違えたわっ!」


瞬時に声を荒げる私を落ち着かせるようにカインが両手で制して、いやいやと首を振った。


「性的興奮とまでは……言わないが。

そうだな、アレくらいの年齢なら、好きな女の子の事を考えるだけで気持ちが落ち着かなくなったり、急に興奮状態になったりは普通の事だと思う。

特にエリオットは前世、いや、エリオットの場合はそうは言わないが、とにかく、前の世界にいた頃からシシリア嬢を想っていたんだから、その、通常よりは気持ちが重く、興奮度合いも高いのかもしれない………」


しどろもどろなカインの言葉に、私は納得のいかない顔で腕を組んだ。


そうかしら?あの子、随分シシリアちゃんの成長を心待ちにしていたけど?

シシリアちゃんが成長した暁には、襲いかかって頭からバリバリ食べちゃいそうな勢いだったわよ?


「とにかく、今のエリオットのシシリアちゃんへの欲望は、まだ10歳の少女には不適切過ぎるわ。

これはしっかり目を光らせておかなくてはならないわね……」


自分の顎を掴みブツブツ呟く私の隣で、カインがご愁傷様とでも言うように手を合わせていた。


「………5歳も年上に生まれるから………。

まぁ、輪廻の輪に時間軸は関係ないから、仕方ない事とはいえ……。

タロの場合は気持ちが急いて、シシリア嬢が生まれる前まで飛び越えちゃった感じがするけどな………」


ボソリと呟いたカインの言葉に、私は頭の中で、狂喜乱舞してシッポをブンブン振りながら、お目当てのシシリアちゃんを追い越し高くジャンプするタロちゃんの姿を易々と思い浮かべてしまった。


…………犬の姿を借りていただけだったのに……最後の最後の1番肝心なところで、その姿の本能に逆らえなかっただなんて………。


可哀想な子っ…………。




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