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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.91


クラーラを弟子に取った私の元に、エリオットも共に通ってくるようになった。

お陰でエリオットと話す事が増え、その中で私はエリオットの気掛かりな事を知る事も出来たのだ。


「つまり、エリオット坊の弟であるクラウスに闇属性が備わっている事が問題な訳じゃな?」


私の問いにエリオットは静かに頷き、隣でクラーラも神妙な顔をしている。


「ふむ、魔法大国である帝国であれば、多少警戒されたとて国レベルの機密事項には当たらぬが………。

だがそうじゃな、王国では大問題となろう。

王国では魔法を使えるのはごく一部の人間だけ。

正確には帝国の血を正しく繋いできた人間達のみ。

ゆえに魔法自体が未知な存在な上に、魔力があっても魔法までは習得しない無知な人間も多い。

属性についても正しい認識が広まっておらんからな。

闇属性イコール魔族、つまり魔王と考えてしまうのじゃろう。

そりゃ、王家の第二王子が魔王となれば、国家の一大事。

闇属性を持っている事が知れれば国民が黙っておらんじゃろうて」


ふ〜むと顎を掴む私にエリオットは話を続けた。


「その上クラウスは魔力量が規格外なんですよ。

闇属性を持つ人間は魔力量が多い事は皆が知っている事実ですが、その常識以上に高いんです。

属性は水と火と風だけ公表していますから、三属性あってその上魔力量が高いという事で、周りからの期待も僕以上。

さっそくよからぬ輩達が何やら動き出していますよ」


ヤレヤレと肩を上げるエリオットは、クラーラの手前、私を師匠として扱っている。

話し方もそれに合わせているので私的にはちと淋しい。


「ふむ、常識を更に越える魔力量の闇属性となれば、我が帝国であろうと危険視するかもしれんな。

しかし、元来闇属性とて自然から生まれた力。

その力を使う事自体は何ら問題ないのじゃ。

問題なのは闇属性という特殊な力を与えられた人間の精神の持ち様よ。

闇属性はその強力な力とまるで引き換えにするかのように、人間から感情を奪う。

人としての感情が無になると、足りないものを補うかのように魔が入り込むのじゃ。

要は人としての感情を軽視せず、己を見失わぬ事。

そして、何でも良い、固執出来る何かを見つける事。

それさえ備えておれば、むしろ闇魔法は人の扱える魔法の中では最強となる。

むやみに恐れる必要は無いのじゃがな」


私の説明を聞いていたクラーラが、落ち着いた様子で口を開いた。


「………前に、師匠も闇属性をお持ちだと聞きましたが、なぜ師匠は感情が気薄では無いのですか?」


クラーラの問いに私はその目を真っ直ぐに見つめ返した。


「私は生まれた時から大事な者の存在を知っていたからね。

それにこの人生でどうしても叶えたい宿願もある。

大事な者と己に課した使命。

これだけあれば闇に堕ちる暇などないさ。

感情とて、後から後から湧いてきて仕方ないね。

まぁ、長く生きてきた甲斐あって感情のコントロールも幾ばくかは上手く出来ておるのじゃろう。

うむ………とはいえ、少々冷淡で薄情な部分も無いとは言えん。

私は人情家では無いからね。

魔族に対しては当たり前の事として、それが人であっても殺めねばならぬ場合には躊躇なく手を下す。

使える者や、真には罪の無い唯の無知なだけの人間などには手を出さぬが、私利私欲の為に人を陥れて平気な顔をしている人間などがどうなろうと知った事では無いね。

そんな人間にまで温情を与えるような博愛主義者では無いよ」


私の説明に納得したのか、クラーラは一度頷いてから口を閉じた。

その代わりに今度はエリオットが口を開く。


「師匠は光と聖の属性も持っていますからね。

その辺で上手い事闇属性が中和されているんじゃないんですか?」


平気な顔でケロッとそう言うエリオットを、クラーラが信じられないとでも言うように目を見開いて見つめた。


「やれやれ、一応、赤髪の魔女である私が光と聖属性を持っている事は秘密にしてあるのじゃが。

まぁ良いだろう、クラーラは私の正体がエブァリーナだと知っているしね。

エブァリーナとして公表しているのは風と火と光属性だけじゃが、聖属性の方も聡い人間には疑われてきておる。

聖女研究家などに目をつけられている時点で私もまだまだ脇が甘いという事よ」


私の言葉にクラーラはハッとして、ポンッと手を打った。


「そうでしたね、師匠の正体は大公国のグランドデュークであるエブァリーナ様でした。

私は師匠の方とばかり一緒にいるからつい失念していました。

エブァリーナ様が光属性をお持ちで、実は聖属性も持っているんじゃないかという話は有名ですし、つまり師匠は希少な闇と聖を有するという事で………。

それって、王子殿下なんかより遥かにヤバい話じゃないんですか?」


クラーラの物事を柔軟に受け止める性質に感心しつつ、私はハハッと声に出して笑った。


「まっ、そうかもしれんな。

そう思えば、クラウスの力とて可愛いもんじゃろ?

まだ幼い子供に魔力量だ闇属性だなんだと、騒ぎ立てる方がどうかしておる。

お前達年上の子らがクラウスを守ってあげなさい。

クラウスとて、これからいくらでも特別な存在に出会えるチャンスはあるさ、のう?」


チラッとエリオットを見ると意味ありげにふふっと笑っている。


「そんなに時間はかからないでしょうね。

2人は必ず出会い、惹かれ合う、そういう運命なんですよ」


その何かを含んだ物言いに、私は小さな溜息をついた。

やはりかつて神の一部であったエリオットには私でも見えない何かがまだ見えているらしい。

人に生まれたとはいえ、まだ神の力の方が強いのだろう。

エリオットが生まれた時に神の力が残っている事に気付いて、全てをスキルだと誤魔化しておいて良かった。


「クラウスが成長すればいずれ師匠の元を訪れると思いますよ。

その時はあの子に闇魔法を正しく使えるように教えてあげて下さい」


ニコニコ笑うエリオットに私は頷きつつ、実際に本人に会えばエリオットの含んだようなあの言葉の真実が分かるじゃろうと呑気に考えていた。


「で?そのクラウスに群がろうとする輩とはどんな奴らじゃ?」


私の問いにエリオットはヤレヤレといった風に肩を上げた。


「クラウスの魔力量の高さを理由に、僕ではなくクラウスを王太子にすべきだっておかしな事を言う貴族達がいるのですが。

更におかしな事に、彼らの勢力が徐々に増え始めているんですよね。

まるで誰かが彼らの後押しをしているように……」


そう言ってニヤリと笑うエリオットは、表面は穏やかだがその瞳の奥はギラリと仄暗く光っている。


「確かに碌でも無い輩のようじゃな。

で、そ奴らの後ろ盾になっているのはまず間違い無くゴルタールじゃろうな。

奴め、またよからぬ事を始めたようじゃ。

次は何を仕出かすつもりだか」


呆れ顔の私にエリオットは困ったようにその眉を下げた。


「今回はどうやら、北と通じているようですよ」


そのエリオットの言葉に私はチッと舌打ちをした。


「いよいよ北と繋がったか、あの蛇め。

くだらない歴史を繰り返す訳にはいかんの。

どれ、ちょっくら北を滅ぼしてくるかの」


ふ〜やれやれと椅子から立ち上がる私を、エリオットが慌てて抱きついて動きを封じた。


「駄目ですって、師匠。

前にやらかした時は凄い怒られたって言ってませんでしたっけ?」


エリオットにそう言われて、私はトラウマになっているあの記憶を思い出し、小刻みにカタカタと震え出した。


「師匠が一国を滅ぼした事があるって話、アレ本当だったんですね」


一を聞いて十を知る賢いクラーラにまでツッコまれてしまい、私はプシューと空気が抜けた風船のようにトスンと椅子に座り直した。


………だって、あの時のカイン………めちゃ怖だったんじゃものっ!

たまに怒らせると怖いのじゃ、カインは。


椅子に座ったままカタカタ震え出す私を見て、エリオットは安心したように息を吐いた。


「今はまだ、向こうの目的も見えていない段階ですから、こちらから手を出す訳にはいかないんですよ。

まっ、僕はこれはゴルタールにとってさほど重要な謀だとは思っていませんから。

僕らで対処しますよ。

必要な時は協力をお願いすると思いますから、師匠はその時動いてくれれば十分です」


穏やかに微笑むエリオットだが、その目だけ笑っていない事に気付いて、私はちょっとだけゴルタールと北に同情してしまった。


ほんのちょこっとだけじゃが。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





それから、やはりクラーラが自分の性を自覚し、エリオットに本当には婚姻は出来ないと告げたのはその2年後。

エリオットが8歳、クラーラが11歳の時だった。


「フラれちゃったよ〜〜イブ〜〜」


うわぁ〜んっと私の膝に泣きつくエリオットの頭を撫でながら、私は呆れたように溜息をついた。


「貴方の思った通りになっただけじゃないの。

それより、クラーラの家が了承してくれて良かったわね。

これからはクラーラは病気で寝たきりという事にして、婚約者という大義名分は残してくれるのでしょう?

そんなにお世話になって、貴方も何か恩返ししなければ駄目よ」


言い聞かせるようにそう言うと、エリオットは涙一筋も流れていないその顔を上げ、ニヤリと私を見上げてきた。


「もちろん、そのつもりだよ。

つきましては、イブにちょっとしたお願いを聞いてほしいな〜〜、なんて」


うふふっと小首を傾げ愛らしく瞳を潤ませるエリオットに、私は片眉を上げた。


「もう……仕方ないわね。

それで?何が欲しいの?」


既に大体の見当のついている私に、エリオットはパァッとその顔を輝かせた。


「流石イブ、話が早いね。

あのね、クラーラに帝国での新しい身分を用意して欲しいんだ。

もちろん、男性のものをね」


エリオットの言葉に私は僅かに驚いて少し目を見開いた。


「新しい身分くらいならいくらでも用意出来るわ。

でも、男性のものをなの?

いくら見た目を誤魔化したとしても、どうしても女性と男性では体格に差が出てしまうわ。

いつか性別を詐称している事に誰かが気付くわよ?」


私の言葉にエリオットは平気な顔で、うふふっと笑いながらニヤニヤしている。


「いいんだよ、それで。

必ず男の身分が必要になる日が来るから」


意味ありげなエリオットの返事に私はその意味を考えハッとした。


「………まさか、クラーラはいずれ………」


そこまで口にして、私はこれは大変な事だと冷や汗を流した。

………まさか、この世界で本当にそれを………。


一瞬絶句してしまったけれど、ふと冷静に考えてみると、不可能な話ではないと思い直した。


………まってよ、この世界には魔法がある。

今から医術をより詳しく学んでいけば……あるいは………。


考え込む私をエリオットは頬杖を付き見上げながら、楽しげに笑って見ていた。


「イブとクラーラならきっと実現出来るよ。

僕はクラーラには本当に感謝しているんだ。

クラーラのお陰で僕の婚約者問題がクリアになったからね。

そのクラーラの願いなら出来るだけ叶えてあげたい。

クラーラの苦しみを取り除いてあげたいんだ。

こんな気持ち、人に生まれないと手に入らなかったものだよね。

僕、感情に似たものを感じたのはイブの周りにいた人達以外、初めてだよ。

今の僕の周りにいる人達。

イブの周りではなく、僕個人の人間関係。

今の僕にはそれがあって、彼らに対しての感情もある。

ふふっ、楽しいね、人って」


幸せそうに私の膝の上に頭を持たせかけるエリオットの紙を撫でながら、私も嬉しくなって微笑んだ。


エリオットは本当に人になったのね。

力はまだ神のものに近いけれど、これから人の魂として輪廻を繰り返せば、いずれその力も消えていくのでしょう。


私の為だけに幾千年存在してくれていたエリオットが、自分だけの魂と存在を手に入れてくれた。

それは間違いなく、あのお嬢さんがエリオットに与えてくれた奇跡。

あのお嬢さんと出会っていなければ、エリオットは自分の中に生まれていた人に近しい感情を消して、ただ神様の中に戻っていた事でしょう。


それが悲しい事だとは思わないけど、やっぱり私は今のエリオットの姿が嬉しいわ。


「また忙しくなりそうね」


私達は顔を見合わせ、幸せな笑みを交わし合った。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





エリオットの予想通り、クラーラは自分の心と身体の不一致を正したいと私に相談してきた。

前世の記憶でいうところの正適合手術をこの世界で一から確立させねばならない。


じゃがクラーラのその濁りの無い真っ直ぐな瞳を見て、私にそれを断るという選択肢は無かった。


この世界で出来たエリオットの大事な友人。

そして私の大事な弟子の1人。

そのクラーラの幸せの為なら、不可能も可能にしてみせると、その日から私とクラーラは性転換魔法手術の研究を始めた。


まずは前世の記憶に頼り、身体の方を変化させようとしたが、これは何故か上手くいかなかった。

変装魔法のように表面だけ男の体を纏うような、クラーラが本来望む形にはならなかったのだ。


本当の外科手術で身体を変えるのではなく、魔法で変化させるには何か他に、違うやり方があるのだと、私とクラーラは研究に没頭していった。



そうして忙しく過ごしていたある日。

それは衝撃と共に無慈悲に私を襲った。

予想だにしていなかったその出来事は確かに、私を絶望へと叩き落としたのだった………。





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