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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.88


帝国の赤髪の魔女宛に送られてきた親書の内容に、私はふむと顎に手をやり首を捻った。


どうも変わった内容じゃな。

要は、隣国からの難民の受け入れに窮した国からの帝国への支援要請なのじゃが。

何故かそこには、帝国の赤髪の魔女にしか対処出来ぬ、と書いてある。


そう書いてあるから〜〜と私にそのまま放り投げてきたレイは、自分の後を継ぐと決めてくれた孫との引き継ぎ作業に追われていて、どうやらこの問題はこちらで処理するしか無さそうだ。


「ふむ、手紙の主は小国の外務大臣か。

問題の隣国とは……デズモデーナ独立自治区?

なんじゃ、国とも呼べん移民の独立自治区かい?

そこから更に逃れてきた難民に悩まされておる、という話じゃが……。

はて?元々移民であった者達が独立自治区を認められたというのに、そこからも逃げ出すとは、確かに奇妙な話じゃ」


まぁ、ここでグダグダと悩んでおっても埒があかぬ。

ひとっ走り乗り込んでみるかの。



「師匠、どこかにお出かけですか?」


転移魔法を展開した丁度その時、セレンが訪ねてきたので私はその小国からの親書をセレンに見せてみた。


「少し気になっての、お前さんはこれをどう思う?」


私から渡された親書を読むと、セレンは首を捻った。


「………そうですね、変わった内容ではありますが………何故これが師匠にしか対処出来ないんでしょう?

私には帝国から救援部隊を送れば解決するような内容に思えますが………。

何か、裏があるような気もしますね。

例えば、師匠を誘き寄せる為に書いた、とか……」


セレンの言葉に私はほぅ?と片眉を上げた。


「この私を誘き寄せようなど、随分強気な奴らよ………。

ではご希望通り、ノコノコ誘き寄せられてやろうではないか」


ニヤリと笑う私をセレンはジッと見て、神妙な顔で短く口を開いた。


「お共いたします」


真面目な顔はしているが、口の端がニヤけておる。

どうやらセレンは今、暇を持て余しておるようじゃな。


セレンは日頃、ローズ侯爵家が管轄する北の大国との国境線での防衛任務につく事が多い。

ローズ侯爵家とはあのレジスを当主とする家門だが、国王交代に伴い、レジスは息子のルイスに正式に爵位を譲り、自分は辺境伯となり国境線の防衛の最前線に常に立つようになった。


大将軍であるレジスが常に最前線にいては、セレンも多少は暇が出来るというもの。

私の所に来れば、何事か暴れる理由があるだろうとあてにしてきたに違いない。

望み通りの展開に転がりそうで、つい口元がニヨニヨしてしまったのだろう。


攻撃に特化したセレンの魔法は、戦場以外で思いきり使う機会もないからのぅ。

まぁ仕方ない事じゃて。


「そなたがおれば百人力じゃな」


少々呆れつつ私が同行を認めると、セレンは嬉しそうに転移魔法陣の中にピョンと飛び込んできた。


やれやれ。

この小国、無事で済めば良いが………。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「ヌハハハハハハハハッ!

ノコノコとやってきおってっ!馬鹿めっ!

貴様はここで終わりだっ!狂眼の魔女よっ!」


玉座に座り、こちらを見下ろしバカ笑いをしている魔族を目を細め白けた顔で眺めていると、後ろからセレンのキャッキャッとはしゃいだ声が聞こえる。


「アハハハ、師匠っ、魔獣や魔物がうじゃうじゃいますよっ!

これ殺りたい放題ですよね?

全部殺っちゃって良いんですよねっ?」


理由はどうあれ、年相応のセレンの無邪気な声に、私は目を細めたまま、うんうんと頷いた。


「私の分は要らんから、全部お前がやりなさい」


若干棒読みになってしまったが、それも仕方ないと思って欲しい。

私の一番弟子が魔獣や魔物でテンション爆上がり系女子なのじゃから………。


………育て方を間違えたかのぅ………。



「フレイムボアッ!ファイヤーショットッ!フレイムマシンガンッ!」


後ろから聞こえてくる爆撃音からは一旦背を向け、私は改めて玉座に座る魔族に向き合った。

何故か先ほどまでの勢いを失い、口をあんぐり開けて私の背後で暴れるセレンを凝視しているが、なんじゃ、私に用があるのでは無かったのか、失礼な奴じゃ。


「おい、そこの魔族、私に話があるのでは無いのか?

無いならもう帰るが」


仕方なくこちらから話しかけてやれば、魔族はハッとした後、震える指で大暴れしているセレンを指差した。


「……貴様……あ、アレは、何だ………?」


随分な動揺っぷりに私は呆れつつ、仕方無しに答えてやる。


「あの子は私の一番弟子じゃ。

ちょっと暇そうにしていたから連れて来ただけじゃから、気にせんで良い」


言って若干遠い目をすると、魔族が唾を飛ばして喚き始めた。


「暇をしていたからなんて理由でとんでもないものを連れてくるなっ!

我がコツコツと増やしてきた魔獣や魔物があっという間にやられてしまったでは無いかっ!」


知らんがな、と言いたいような内容の苦情に、私はハテと首を捻った。


「はて?おかしいのぅ?

コツコツと魔獣や魔物を増やす魔族など聞いた事がない。

お前達は存在するだけで発する瘴気から魔獣や魔物を生み出す。

それはその魔族の個の力が強ければ強いほど、魔獣や魔物の数も強さも増すはずじゃ。

じゃが、その逆で、コツコツ魔獣や魔物を増やす魔族など、聞いた事が無い………。

貴様、本当に魔族か?」


私の問いにその魔族は分かりやすくギクリと身体を揺らし、焦ったように口を開いた。


「あた、当たり前だっ!魔族以外でこのような見た目の者などおるまいっ!」


そう言って玉座から立ち上がった姿は、まさに魔族そのものであった。

尖った耳と牙、鋭い爪、血管まで透けて見える青白い肌、そして背中から生える黒い羽。


………ふむ、確かに。


う〜んと首を捻りながら、私は何となしに思った事を口にした。


「では、まさか生まれ立てホヤホヤか?」


ハハハッ、そんなまさかな〜っと笑おうとした私の目の前で、その魔族は分かりやすくギクギクゥーッと身体を震わせる………。


一瞬シーンと静まり返ったその場で思わず見つめ合う私と魔族………。


ややして、ピキピキッと私の額に何本も青筋が走った。


「………貴様……覚醒したばかりのヒヨッコ魔族が、一国を乗っ取り私を呼びつけたなど……冗談もほどほどにせぬか……。

しかも貴様っ、魔族にしては驚くほど魔力が弱いっ!

よくそんなんで魔族として覚醒出来たなっ!」


ビシィッと指を指してやると、そのヒヨッコ魔族は見えない矢に射抜かれたように苦しげに胸を押さえ、ヨロヨロとよろめきながら玉座にドサっと倒れ込んだ。


「………ぐっ、き、貴様……ズケズケと………。

だが我を侮ると痛い目に遭うぞっ!

出よっ!我が肉の壁どもっ!」


魔族が声を荒げると、魔族の座る玉座の前に十数人にも及ぶ人間が並び、私の前に立ちはだかった。


「……ほぅ?なるほど?この者達は移民自治区の人間か?

なるほど、なるほど………見えてきたぞ。

移民の自治区を認めたものの、本音は邪魔に思っておったこの国が、自治区を貴様に差し出したのじゃな。

その自治区に自分の名をつけ国と認めさせ、貴様から逃げ出し難民となった者達を、我が国の国民を拉致したどうのと難癖をつけ、魔獣や魔物と共にこの国に攻め入り、結局国ごと乗っ取った、というところか?」


察しの良すぎる私に魔族はギクッギクッギクッといちいち身体を震わせている。

リアクションが分かりやすい奴じゃ。


「な……何故貴様……そこまで知っているっ⁉︎」


ガクガク震えながら目を見開いてこちらを見る魔族に、私はハハハッと笑い声を上げた。


「ちいとそこの人間達の心の声を聴いただけよ」


カッカッと笑う私を魔族が震える指で指差す。


「き、貴様……人間では無いなっ!」


これしきでこれほど動揺してくれるとは思わず、私はニヤリと悪い顔で笑って見せた。


「確かに、自分を人間だと言った覚えは一度も無いのぅ」


クックックッと悪い顔で笑う私に魔族はヒィィィィッと悲鳴を上げて、自分の前に並べた人々の背に隠れた。


「狂眼の魔女が人では無いだなどと聞いておらんぞっ!

人間じゃなかったら、もしかしてこの方法は効かないのでは無いか?」


急に自問自答を始める魔族のブツブツという独り言が、その姿は見えずともハッキリと聞こえてきた。


「あの者、この事を俺に黙っていたな……。

何がこの方法なら魔女に必ず勝てるだっ!

我は最弱の魔族だ、このままでは他の魔族に見つかれば一瞬で殺されてしまう………。

だが、狂眼の魔女を倒したとなれば、皆に一目置かれ、私に手を出そうとする奴もいなくなる……。

……………いや、待てよ。

これも奴に言われた事だ。

よく考えれば、狂眼の魔女を倒したとなれば、腕試しに他の魔族に襲われるので無いか?

狂眼の魔女を倒した我が世界最強になれば、その我を倒した者がまた世界最強になる、という事だからして…………。

あーーーーーーーーーーーっ!!」


ブツブツブツブツ言っていた奴は、やがてハッとしたように立ち上がり、真っ青な顔でこちらに手のひらを向けた。


「ちょっ!タンマっ!やっぱ無しでっ!我は貴様とは争わぬからして、その………」


「もう遅いわっ!サンクチュアリッ!」


私の放った聖魔法の保護結界が魔族の肉の壁にされていた人々を包み込んだ。

ちなみにこれは広範囲に放った魔法であり、この国に存在する全ての人間に効果を発揮している。


「貴様には聞きたい事があるでな、うっかり滅してしまわぬよう、聖魔法は使わないでおこう。

心して受け取れ、トールメガトンハンマーーーッ!」


私の放った雷魔法により、一国を覆うほどの巨大な雷の槌が天空に現れた。


「ま、待て……話せば分かる……話せば………」


ガタガタと震える魔族に私はニヤリと笑い返した。


「ほぅ。対話を望むか。良い心がけじゃ。

ではお主の作った国を消滅させてから、とことん話し合おうでは無いか」


パチンと指を鳴らすと天空に浮かぶ巨大な槌が振り下ろされ、轟音と共にこの国を一撃で破壊した。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「師匠、さっきの私も使えるようになりますかね?」


瓦礫と化した小国を高台から見下ろしながら、セレンがキラキラした目で私を振り返った。


「出来たとして、お主はどこを消滅させるつもりじゃ」


呆れ顔で聞くと、セレンはニヤリと笑い返してきた。


「そうですね、とりあえずは北の大国ですかね」


そのセレンの〝とりあえず〟が、どうとりあえずなのかはさておき、私は片手で掴んでいた魔族の頭をブンっと放り投げた。


「あぎゃっ!」


近くの木に打ち付けられたその魔族は、潰れた蛙のような声を出してズルズルと地面にへたり込むと、ぶつけられた木を背にしてハァーハァーと虫の息で荒く肩を上下させる。


「うわ〜〜、こんなグチャグチャなのに、よくまだ生きてますね。

本当に魔族って頑丈」


その魔族の前に立ち膝を屈めてその顔を覗き込むセレンに、魔族はヒッと小さな悲鳴を上げた。


「魔族は封印するか、聖魔法、又は聖剣で滅するしか無力化出来んからの。

つまり逆を言えば、どんな致命的な魔法攻撃を受けても死ねぬ、という事じゃ」


静かに魔族に近付くと、魔族は片方だけ残った目を見開き声にならない悲鳴を上げた。


「お主の名はデズモデーナで間違いないか?」


私の問いかけに魔族は微かに頷いた。


「どうもお主は魔族として弱すぎる。

一体どうやって魔族として覚醒したのじゃ?」


再び問いかけると、デズモデーナは荒い息のまま何とか口を開いた。


「………ま、りょくを、注入、された……覚醒出来るだけの………。

我は、元々、闇属性にしては稀有な存在、であった。

魔力、が………そこまで高くなく……だから、貴重な闇属性だというのに、誰にも相手にされず……恐れられる事もなかった………」


息も絶え絶えのデズモデーナは瞳から涙のような体液を流す。


「……それを不満に思っていた我の前に……奴が現れた………。

我に魔族になり、国を乗っ取り魔王として君臨しろと………。

我は奴の話に乗り、奴に足りない魔力を補ってもらう事で魔族へと覚醒した………」


デズモデーナの話に私はうむと頷き、顎に手をやる。


「この国は昔、帝族であった者が自ら帝国を離れ興した国であったな。

その時に自分の領地民も全て連れて来たそうじゃから、魔法を使える者も存在するという訳か」


私の言葉にセレンがなるほど、というようにポンと手を打った。


「我がアインデル王国と同じですね。

祖を帝国に持つ者のみ魔法が使える。

つまり、正しく帝国の血を受け継いできた者達。

魔力は帝国の血に宿りますから」


そう言うセレンに私は小さく頷く。


「そう、魔力は帝国の血に流れる。

土地では無く、その血にな。

魔法大国と呼ばれる帝国ではあるが、帝国民の血が流れぬ者には魔法は使えぬ。

とまぁ、それは今は置いておいて。

魔族デズモデーナよ、貴様に甘言を囁き魔族として無理やり覚醒させた者の名を教えよ」


私の問いに、デズモデーナはベッと舌を突き出した。

青筋を立てる私にデズモデーナは慌てて頭をブンブン振る。


「ち、違う……よく見てくれ……」


そう言ってまた舌を突き出すデズモデーナ。

私はその舌に刻まれた紋様を一目見て、ヤレヤレと肩を上げた。


「戒めの呪ですかね?つまり、その名を口にすれば喉が潰れる、とか?」


同じくデズモデーナの舌を覗き込み、セレンが首を捻った。


「いや、頭くらいは吹っ飛ぶじゃろうな。

こやつはその程度では死なんじゃろうが、近くにいる者は致命傷を負うかもしれん。

こやつにその名を喋らせようとした者を始末する為の罠じゃ」


私の言葉にセレンがゴクリと唾を飲み込んだ。


「………じゃあ、コイツにとってチャンスだったんじゃないですか?

その罠を発動して私達を倒せたのに。

わざわざ教えてくれるとか、怪しいですね……」


訝しげにセレンがデズモデーナを睨むと、デズモデーナは間の抜けた顔でポカンと口を開いた。



「…………………あっ」



ヒュル〜っと季節外れの木枯らしが吹き抜け、私達3人はしばし無言で見つめ合った………。





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