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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.85


「な、な、なんでっ!さっきまで確かに、そこにアレクシスがいたのにっ!」


男達の1人が〝私〟を指差してそう言った瞬間、ダリウスがその指を掴みボキッとそれをへし折った。


「いっ……!いぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!

ゆっ、指がっ!俺の指がぁぁぁぁっ!」


男が自分の手を押さえゴロゴロ地面をのたうち回るのを、ダリウスが蔑み切った目で見下ろしながら、怒りを抑え込んだ低い声を出した。


「指がどうした、お前は私の話を聞いていなかったのか?

この方は大公国の君主であらせられるのだぞ。

そのようなお方に向かって指を指すなど、貴様はどれほど我が国に泥を塗れば済むのだ」


痛みに転げ回る男の姿と、ダリウスから漏れ出る怒りのオーラに恐れ慄いた他の男達が後退り、そのジャっと小さく砂を蹴る音にダリウスは敏感に反応して顔を上げると、その者達をギラリと睨み上げた。


「お前達もだ、畏れ多くも大公閣下に剣を向けるなど………よもやタダで済むとは思っておるまいな?」


ダリウスの底冷えするような眼力に、男達は地面に足の裏を縫われたかの如く、ピキッとその場に固まってしまった。


「………ですが、兄上………俺達は本当に、アレクシスだと思って、その………。

決して大公閣下に剣を向けた訳ではないのですっ!」


1人が涙を浮かべてそう訴えたところで、顎に手をやり思案していた〝私〟はパッと顔を上げ、ダリウスに向かって口を開いた。


「ダリウス様、どうやら彼らの言っている事は本当のようです。

彼らは私をアレクシス殿下と思い込んで話していました。

アレは嘘や演技には見えませんでしたわ。

彼らには本当に私がアレクシス殿下に見えていたのです。

そしてアレクシス殿下と思い込み、殿下に継承権放棄を迫り武力を行使しようとしたのですわ」


〝私〟の話を聞いたダリウスはピクッとこめかみを動かし、鋭い目を男達に向けた。


「…………ほう?アレクシス殿下の継承権を放棄させようと、武装までしてこんな所に………?」


一層怒気を孕んだダリウスのオーラに、男達は怯え切ってお互いを抱きしめ合い、涙目でガタガタと震えている。


「多分、彼らは幻術系の魔法を使われていたのでしょう。

だから彼らには私の姿がアレクシス殿下に見えていた。

さて、ここで問題なのは、その幻術を使った目的が私にあるのかアレクシス殿下にあるのか、です。

彼らの企みを利用して私を亡き者にしようとしたのか、アレクシス殿下の代わりに私を傷付け、国際問題に発展させる事でこの国を傾けようと画策した者がいるのか。

貴方がたはそのどちらだと思いますか?」


ニッコリ和かに〝私〟に問われ、男達の顔色が真っ青を通り越して真っ白になっていった。

今更ながら、自分達の仕出かした事の重大さをやっと理解したらしい。


「どちらにしても、大公国の君主に対しての度し難い無礼、王弟である私から陳謝致します。

大公閣下、どのような処罰でもいかようにお下しください」


ダリウス並びにその場にいた者がザッとその場に跪き、深く頭を下げた。

それを見たクーデター組は地面の上で泣きながら土下座をして、顔に土をつける勢いで頭を下げる。


「まぁまぁ、お待ち下さい、ダリウス様。

私とて、この度は非公式で秘密裏にこちらを訪問しているのです。

これ以上事を大きくするつもりはありませんわ。

どうか頭を上げて下さいな」


穏やかな〝私〟の微笑みに、まずダリウスが頭を上げ、レジス、ゼノ、ヨハネスがそれに続く。


「この者共を拘束せよっ!」


バッと片手を上げたダリウスに騎士達が俊敏に反応して、クーデター組を捕縛していった。

騎士に後ろ手に縛られながら、クーデター組の王弟の1人が恐る恐ると言った様子で〝私〟に向かって口を開く。


「……あの……畏れながら……大公閣下は何用でわざわざ秘密裏に入国なさったのですか……?」


その問いに〝私〟はニッコリと微笑み答えた。


「私の妹の孫がこの度、こちらで可愛い赤ちゃんを産みましたの。

そのお祝いに駆け付けた次第ですわ」


〝私〟の答えに男達はポカンと口を開いて間抜けヅラをしている。


「大公閣下の妹と言えば、確か皇帝陛下の正妃……つまり、皇后陛下っ!

えっ!では、その孫という事は……皇孫殿下がっ!この王国でお子をっ!一体、誰の……っ⁉︎」


驚愕の声を上げた男に、〝私〟はふふっと優しく微笑む。


「アレクシス殿下のお子を産みましたのよ。

王太子妃エレーヌは私の姪孫ですの」


私の言葉に男達は目を見開き、ややしてその場に膝から崩れ落ちた。


「………俺達が平民の子と馬鹿にしてきたアレクシスの妃が………帝国の皇帝の孫だったなんて………」


「では、その子供のエリオットは……前国王の数いる夫人の子の1人でしかない俺達じゃ、到底敵わない血筋……という事に……」


「そんな方の王位継承権まで簒奪しようとしていたのか、俺達は………」


ガクガクと震える男達の前に立つ〝私〟を見上げる彼らに向かって、静かに口元の前に人差し指を立てた。


「この事は極秘事項ですから、絶対に今後口にしないで下さいね?

誰かに漏らすという事は、我が大公国のみならず、帝国をも敵に回すと心得て下さいませ」


ふふっと〝私〟が笑いながらそう伝えると、王弟達のみならず、その場にいた他の人間、ダリウス達が連れて来た騎士達までもが真っ青な顔でブンブン頭を縦に振っていた。


「もう良い、連れて行け」


ダリウスの指示で騎士達がクーデター組を引っ立てていく。

グイグイ縄で引っ張られながら、1人の王弟が首を私に向かって一生懸命に向け叫んだ。


「あのっ、どうかもう一つだけお教え下さいっ!」


「もう良いっ!いい加減にせぬかっ!」


その者に向かって怒鳴り付けるダリウスを手で制し、〝私〟は首を傾げながら笑った。


「ええ、何でしょう?」


その〝私〟に王弟の1人は不思議そうな声で問いかけてくる。


「大公閣下といえば、前国王である我が父とさほど変わらぬ年齢の筈……。

ですが貴女様はとてもそのような年齢に見えませんが………」


その問いに、内心よく聞いてくれた、とばかりに密かに目を輝かせる人間がチラホラ。


「………まぁ、それは」


〝私〟が口を開くと一斉にゴクリと唾を飲み込む音が響く。

固唾を飲んで見守る皆の前で〝私〟は困ったように頬に片手を添え、ポッと頬を染めた。


「乙女心ですわ」


うふふっと〝私〟が恥ずかしげに笑うと、皆が呆気に取られたようにポカーンとしている。


「今度こそもう良いっ!早く連れて行けっ!」


ダリウスの怒号に騎士達がハッとして、クーデター組を引き摺って去って行った。




その全てを見守っていた私はパチンと指を鳴らし、姿を消していた魔法を解除した。


「良くやってくれた、イブちゃん2号や」


ニコニコと私が近付くと、イブちゃん2号はカーテシーで礼を取る。


「ありがたきお言葉ですわ、マスター」


そのイブちゃん2号を顎に手をやりしげしげと眺めながら、レジスが驚嘆の声を上げた。


「初めてお会いするが、大したものだ。

本当にエブァリーナ様ご本人にしか見えない」


そのレジスの言葉にヨハネスが意外そうな声を上げた。


「えっ?そうですか?

実物のエブァリーナ様より見た目も内面も仕草も微笑みも随分穏やかだと私は思いますが」


そう言った後ヨハネスはすぐにハッとして、カタカタ震えながら横目で私の様子を探ってきた。


「ふん、イブちゃん2号とは私が5歳の頃からの付き合いじゃ。

いくら意識共有していようと、これだけの年月が経てば〝個〟の差とて生まれようもの。

イブちゃん2号の穏やかさのお陰で私も助けられておる」


「ああ、師匠は穏やかさとは縁遠いですからね」


常に余計な一言を足してくるゼノをその辺の蔦でグルグル巻きにしてブンブン振り回してやると、ごめんなさいと泣きながら謝ってきた。


良い年した男が半泣きで何をやっておるか、情けない。


「さて、イブちゃん2号や、あまり大公国を空けておくのもよろしくない。

悪いがまたあちらで私の留守を頼む」


イブちゃん2号の足元に私の魔法陣が浮かび上がり、イブちゃん2号は穏やかな微笑みを浮かべた。


「はい、マスター。あちらの事はお任せ下さい」


最後にそう言って、イブちゃん2号は私の転移魔法で大公国へと戻って行った。



「うむ、これで残りもうまく片付けられそうじゃな」


うんうんと満足げに頷く私に、ダリウス達は脱力したように肩を落とした。


「確かにその通りですが、大公国の君主にこの国の王族の者が刃を向けたなどと、そんな話がどこかから漏れれば大変な事になりますよ」


ハァッと深い溜息を吐くダリウスに、レジスが同情するように肩をバンバン叩く。


「なに、同行させた騎士達は俺とゼノの信頼厚い部下達だ。

まかり間違ってもこの事を口外したりはせん。

当事者達はこれが露見すれば極刑だけでは済まんからな。

家族親族皆処罰されるだろうから、絶対に口にしたりはしないだろう。

後はアイツらが連れていた人間を始末しちまえば終わりだ。

そんなに悲観的に考えない事だ」


カッカッカッと笑うレジスも冷や汗を流している辺り、何のかんのと肝が小さい男達じゃて。


「……………師匠の計画になんて乗るんじゃなかった……」


まだ私の魔法で蔦に絡まったまま宙吊りになっているゼノがボソリと呟き、仕方ないのでそのまま目を回して失神するまでブンブン振り回してやった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「このっ!馬鹿者どもがっ!!」


国王の怒声が響き、部屋がビリビリと揺れる。

縄で縛られたまま国王の前に跪いていた愚弟達がそれに縮み上がってガタガタと震えている。


「私の息子と孫を廃したところで、貴様らに王位継承権が回ってくる訳がなかろうっ!

そうなれば貴様らをいち早く王位継承権から外し、ダリウスとその子供にこの国を譲り渡す。

私がそう動くとなぜ分からぬかっ!

それとも、ダリウスとその子供まで排するつもりでおったか?

己の力量も計れず、よくもそのような愚かな考えを持ったものだっ!」


低く凄みのある国王の怒鳴り声に、愚弟達は歯をカチカチ鳴らしながらも震える唇を動かした。


「………俺達は何も……ダリウス兄上にまで手を出そうだなどとは……」


「そうです、アレクシスだけ何とか出来ればと思って………」


「ですが、ダリウス兄上は王位継承権を放棄するつもりがあると仰っていたので………アレクシスとエリオットが継承権を失くせば、俺達の誰かが国王になるしかないのかな、って………」


馬鹿馬鹿しい言い訳にもならない愚弟達の戯言を国王はギロッと睨み付け、その眼光のみで愚弟どもを黙らせてしまった。


ヒィィィィッと悲鳴を上げながら身を寄せ合う愚弟達を目だけで威殺しそうな勢いの国王に代わり、ダリウスが溜息混じりに口を開く。


「私が王位継承権を放棄すると言ったのは、アレクシス殿下に後継ぎである王子が生まれたからだ。

2世代前の継承権保有者などもう必要失くなったと判断した為であり、間違っても貴様らに王位継承権を回す為などでは無い。

先程兄上が仰ったように、アレクシス殿下とエリオット王子に何かあれば、私は王位継承権を放棄などせず、貴様らのような輩が王位を狙ってくる度に返り討ちにしてやろう。

生まれてきた事を後悔する程に、木っ端微塵にしてくれるわ………」


そこで言葉を切り、ニヤリと黒く笑うダリウスに、愚弟達は身を寄せ合って涙を流し震え出した。


「馬鹿者どもめ………自分達が謀られ踊らされていた事にもまだ気付かぬとは………。

何故、誰が、何の為に、貴様らに幻術魔法をかけ、秘密裏に訪問していた大公閣下をアレクシスと見誤るように誘導したのか、本気で分からぬか?」


国王の話を聞いても愚弟達にはピンとこないらしく、アホ面で首を傾げている。

その愚弟達の反応にダリウスと国王が同時に深い溜息をつき、国王に代わってダリウスが口を開いた。


「良いか?この国の王族が大公国の大公閣下に刃を向けたのだ。

これだけでも重大な国家間の紛争の火種になり得る。

いや、一方的に大公国から攻め入られ蹂躙されても文句は言えぬ程の事をしたのだ、貴様らは。

しかもその理由が、クーデターを起こし王位継承権第一位であるアレクシス殿下を亡き者にしようとして、そのアレクシス殿下と大公閣下を見間違え刃を向けた、などと、他国に知られれば我が国の内部が分裂し弱体化していると判断され、付け入る隙を見せつけるようなもの………。

貴様達はそれを狙った何者かの策略にまんまと嵌り、アホ面を晒してアレクシス殿下と思い込まされた大公閣下に刃を向けたのだ。

どうだ?こう言えば流石のお前達にも理解出来るか?」


ダリウスが蔑み切った目で4人を見下ろすと、やっと愚弟達は己の仕出かした事の重大さを理解したのか、今にも死にそうな土気色の顔色で目を見開き、そのまま気でも失いそうな様子でダリウスをただ見上げていた。


「………もちろん、私達もお前達だけでこのような事を仕出かせたとは思わね……。

お前達の耳元で甘言を囁いた者、その者の名前を言えば、少しばかりの温情をかけてやらんでも無い」


その時、先程までとは打って変わって優しげな面持ちで愚弟達に話しかけてきた国王に、その場にいた誰もが身を固くした。


例えここでゴルタールの名がこの者達の口から出たところで、奴の事だ、そのような証拠は何一つ残してはいないだろう………それでも、国王はわざとそれをこ奴らから引き出そうとしておる。

それこそが、父を同じくする兄弟達への最後の温情なのであろう………。


愚弟達は顔を見合わせ、すぐに悲しげに顔を曇らせると、同時に首を横に振った。


「………いえ、そのような者はおりませぬ……」


「全て俺達のみで謀った事です………」


「兄上っ!いや、国王陛下っ!どうか家族だけは………家族は何も知らないのですっ!」


「俺達はどうなろうと自業自得ですが、家族に非はありませんっ!

どうか、どうか、温情をっ!」


後ろ手に縛られたまま、4人は床に頭を擦り付け、悲壮な声を上げた。



「家族を大事に思う心があるなら、何故私の家族は害そうとしたのだ…………」


その愚弟達に向かって呟くようにそう言った国王の言葉に、4人はぐっと言葉に詰まり、ややして呻き声のようなくぐもった啜り泣きを漏らした………。





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