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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.82


親を困らせない良い子、であったエスティの反乱から時は立ち、エスティも自分に見合った良い旦那様の元に嫁ぎ、下の子達にも良い縁談が纏まり、それぞれが家庭を持って私達のもとから巣立って行きました。

………何故か誰も大公家を継ぐ意思が無く、私からの打診はうまくかわされるだけですが………。



「グランドデュークってそんなに面倒かしら………?」


げっそりとした私と同じような顔で、目の前のレイも肩を落としている。


「ハ………ハハハッ………それを言ったら、エンペラーの後継になりたがる人間がいない事も大問題だよね………」


レイがそう言うと、私達は同時にガックリと肩を落とした。


そう………私達は奇しくも同じ悩みに頭を悩ませていた。

つまり、後継の不在………。


いえ、不在というのはまた意味合いが違うのかもしれません。

私には3人、レイには2人の子供がいるのですが………。

見事にその中の誰も、私達の後を継ぎたがる者がいないのです………。


「僕らももう良い年だし、老害だ何だと言われる前に引退して後に任せたいんだけどね………」


ハハハッと乾いた笑いと共に目尻に涙が浮かぶレイ………。

私も同じように泣きたい気持ちで何度も頷いた。


「こればかりは……無理強いする訳にもいきませんからね………」


悩ましい溜息をつきながら、私はレイをチラッと見た。


「ですが、貴方の所は孫が名乗りを上げてくれたじゃありませんか」


私の言葉にレイは困ったように眉を下げた。


「それも現状を見るに見かねてね。

何しろ息子達があんなだから、その子供を担ぎ上げようと貴族達が焦って愚かな行動をしでかしたせいで、大事な皇孫を1人失ったんだ。

自分が名乗り出なければ次は従兄弟に災いが降りかかりかねない、と渋々僕のところに来たよ」


そう言いながら涙を流すレイの肩を、カインがポンポンと叩いてやっている。


「それで?あの子は幸せにやっているの?」


私の問いにレイは少し嬉しそうに、祖父の顔になり口を開いた。


「うん、まぁ元気にやっているみたいだ。

つい最近子供が産まれたから、秘密裏に祝いの品を贈っておいたよ」


ふふっと笑うレイに私は目を見開いて責める口調で話しかけた。


「まぁ、そんな大事な事を黙っているだなんてあんまりだわ。

私達からも急いで祝いの品を贈らなければ」


私の焦りを見てとったジルヴィスが穏やかな笑顔で席を立ち、一旦部屋から退室した。

執事に言って祝いの品を用意させる為でしょう。


それにしても、相変わらずの機密保持力ですわね。

徹底的にあの子についての情報を隠し続けるレイに、孫への深い愛を感じて、私は情報を伏せられていた事をそれ以上責める気にはなれませんでした。


「それにしても、最初はあんなに嫌がっていた相手と婚姻して子供まで産まれたなんて、世の中どうなるか分からないものね」


ふふっと微笑む私に、レイがハハハッと笑い声を上げた。


「あの子はどうやら王太子の〝番のような存在〟で間違いないようだからね。

見つかった時点で運の尽きだったんだよ」


レイが孫娘についての話にこうやって穏やかに笑えるのには訳がある。

それはアインデル王国の王太子が父と同じように〝番のような存在〟を見つけても、父とは違い、卑劣な手を一切使わなかったからだと思う。

更に〝番のような存在〟に対しての扱いも全く違う。

王太子は相手の自由を奪うような事などせず、真摯に相手に向き合ってきた。


軽薄そうな男だ、という理由であの子から虫の如く嫌われようと、王太子は笑顔であの子の気持ちが変わるのを待ち続けた。

立場や権力に依らず、強引な手も一切使わず、ただあの子の気持ちが自分に向くのを待った。


〝番のような存在〟に対してそこまで感情を律する事が出来たのは、母であるユリア妃の悲劇によるものなのでしょう………。


私達が危惧していたロイアス殿下とユリア妃。

2人はやはり、悲劇へとひた走ってしまいました………。


王太子から王へとなったロイアス陛下、そしてユリア妃も王太子妃から王妃へ………。

元平民であった男爵令嬢が王妃になった事への貴族達の反発は想像以上でした。

ロイアス王がユリア王妃に陛下の敬称を与えた事も貴族達の反発に火を注ぐ形になりました。


この世界での〝陛下〟とは、皇帝または国王、我が家のような大公に対して使われる敬称で、その伴侶や子供には〝殿下〟の敬称が与えられます。

ですがその伴侶に自分と同等の権限を与えた場合のみ、皇后や王妃にも〝陛下〟という敬称が与えられます。


レイで言えばシルヴィがそれにあたり、私もカインに同等の権利を与えているのでカインも等しく〝陛下〟と呼ばれます。

まぁ、大公は一般的には〝閣下〟と呼ぶのが通常ですから、あまり〝陛下〟は使われませんが。

大公国の君主に対して〝陛下〟を使うのも間違いではありません。


つまりロイアス王はユリア王妃に対し、自分と同じ権限を与えたという事です。

もともと彼女の出自に不満のあった貴族達はこれで一気に反発を強め、ユリア王妃はますます四面楚歌な状態に追い込まれました。

加えて夫に自由を奪われ、可愛い我が子でさえ〝平民の子供〟と揶揄され………。


貴族達の平民への意識改革に1人奮闘していたユリア王妃はいつしかその心を病み………。


………………ついに、まだ幼い我が子を残し、自らその命を断ちました………。


あの時、強引にでも彼女を預かり聖女として覚醒させられていたなら………と、悔やまない日は1日だとてありません。

歯痒さと悔しさと後悔で、私達は目の前が真っ暗になりました。


ユリア王妃に会えたのは、彼女がまだ当時王太子だったロイアス殿下の婚約者だった、あの短い時間だけでしたが、それでも彼らが破滅へとひた走っている事を、あの場にいる誰もが理解していたのです。

なのにどうする事も出来なかった自分達の無力さに、皆が今だに苦しんでいます。


私は今だに、当時ユリア嬢と呼ばれていた彼女のキラキラとした好奇心いっぱいの瞳を忘れられずにいます………。


ですが、彼女の息子がレイの孫娘の夫になった事に、一筋の光と奇妙な縁を感じずにはいられないのです。


ユリア王妃の息子であり、アインデル王国の現王太子であるアレクシス殿下は、レイの孫娘であるエレーヌを母のような悲劇から守ろうと誠実でいてくれています。


帝国の事情で王国に亡命し、身分を捨て伯爵家の秘された令嬢として第二の人生を歩み始めたエレーヌに添い、あの子の出自が一切漏れないように今なお尽力してくれているのですから、私達からしたらアレクシス殿下には感謝しかありません。


もちろん、ロイアス王もエレーヌの亡命の際には大変お世話になったのですが、それはあの時、帝国の赤髪の魔女の助けを受け入れなかった事への贖罪のように感じました。


ユリア王妃を亡くしてなお、国王として毅然と振る舞い、賢王と名高いロイアス王には敬意を表しますが、やはり、1人の夫、父親としては愚かしい人物だったとしか言いようがありません。


アレクシス殿下はそのような父親の轍を踏まず、エレーヌの人格と人権を一番に想ってくれていますから、私達も安心してあの子を送り出せたのです。


そのアレクシス殿下とエレーヌの間に子供が産まれたという事は、つまり今だ〝平民の子供〟と中傷されるアレクシス殿下が一人前となり、王位継承が揺らぎないものとなった証………。


裏でアレクシス殿下を〝平民の子供〟と陰口を言う貴族達を扇動しているゴルタール公爵がそろそろ動き出す頃だと、私達はダリウス様と密に連絡を取り合っているところです。

ダリウス様達が心配していた王位簒奪を目論む内乱が起きるのも時間の問題でしょう。



「アレクシス殿下から王位継承権を剥奪する為の内乱が起こる前に、私は密かに王国に潜入しようと思います」


私の言葉にレイは黙って頷き、口を開いた。


「ゴルタールを捕える事は無理でも、扇動された他の王位継承者を思い存分引き摺り落としてきて下さい」


そう言って、レイはフッと笑った。


「それにしても、赤髪の魔女を敵に回すなど、ちょっと彼らが不憫にも思えるね」


若い頃から変わらない皮肉げなその笑いに、私は片眉を上げた。


「敵になりに行く訳ではないわよ?

赤髪の魔女はダリウス様達の、そしてアレクシス殿下達の師匠だもの。

師匠が弟子の様子を見に行ったついでに彼らの困り事の相談に乗るのは当たり前の事でしょう?」


私の返答にレイはハハッと笑って、そう言えば、と呟いた。


「アレクシスの側近であり、ダリウスの息子であるジェラルド卿は確か、アレクシスの婚約者候補第一の令嬢を横から掻っ攫ったんだったね。

そのゴタゴタを利用してしれっとエレーヌを婚約者候補第一に上げたアレクシスもアレクシスだけど、いくら従兄弟とはいえ、仕えている主の婚約者候補を横から掻っ攫うジェラルド卿ってどんな人間な訳?」


興味深げなレイに私はハァッと溜息をつきつつ答えた。


「ジェラルド様はダリウス様によく似ているけれど、ダリウス様よりも合理的で冷静沈着な方よ。

寡黙であまり感情を表に出さない方だから、まさかあんな大それた事をするとは思っていなかったわ。

それにお相手も少し意外だったわね。

若いのに社交界を熟知した華々しい令嬢で、若い淑女達のファッションリーダーのような方だから、寡黙で華々しい事を避けるジェラルド様とは正反対なのよね」


私の言葉にレイはへぇ?と方眉を上げた。


「だけど彼はその令嬢に、従兄弟であり主である王太子から奪うほどに惚れていた、と。

どうも王国の王族筋にはそんなタイプが多いようだね。

これも大聖女の加護の影響かな?」


アインデル王国研究者でもあるレイは、興味深げに自分の顎を掴みニヤリと笑った。


「さぁ?でもジェラルド様の行動のお陰でアレクシス殿下は誰も傷付けずにエレーヌと結ばれる事が出来たのだから、別に良いのではないかしら?」


とぼけるような私の態度に何故かレイはニヤニヤと笑っていた。


「まっ、何にしても我が帝国の守護神を貸し出すのだから、王国にはうまく内乱を鎮静化してほしいものだね」


やれやれと肩を上げ、レイはふと私とカインを交互に見てジト目になった。


「………それにしても……イブ姉様もカインも、その若々しい姿でいるのはいい加減やめて欲しいな………」


舌打ちしそうなレイに困ったようにカインが眉を下げる。


「元々、獣人はなかなか歳を取らないんだから仕方ないだろ?

人族より寿命が長いし、見た目の老いもゆっくりなんだから」


そのカインの言葉を聞いて、レイは私に照準を合わせるようにそのジト目を向けてきた。


「じゃあ何でイブ姉様はそんなに若い訳?」


そのレイの質問に私は頬に手を当てポッと頬を染めた。


「乙女心ですわ………」


その私にレイは砂を吐きそうな表情をした後、拗ねるように口を尖らせた。


「そりゃ、魔力を体内で循環させて細胞レベルで若さを保つなんて芸当、イブ姉様にしか出来ないけどさ………。

お陰で今じゃ僕とイブ姉様の見た目が親子みたいになっちゃってるのが嫌なんだよね」


良い歳をして私達の前だと今だに口調が昔に戻るレイに、私はふふふっと笑った。


「見た目がどうであろうと、貴方は今でも私達の可愛い弟よ。

それはいつまでも変わらないわ」


私の言葉にやっとレイは機嫌を直した様子で、尖らせた口を元に戻した。


「僕達、こんなに歳を取っても相変わらずだよね。

皆んなとのこの時間があったから、僕は皇帝なんかやってこれたんだって、本当に思うよ。

血の繋がった家族には恵まれなかったけど、僕にとってはイブ姉様達が本物の家族だ」


年相応にしんみりとしたレイに、私は首を傾げて笑った。


「あら、貴方は自分の家族を作れたじゃない。

シルヴィと子供達、それに孫まで。

私達ももちろん貴方の家族ですけど、貴方の作った家庭は素晴らしいわ。

立場からどうしても帝国から逃げ出さなければいけなくなったエレーヌだって、その立場を捨てても、例え離れていても、貴方の可愛い孫である事に変わりはないわよ」


その私の言葉にレイは笑顔になって、まるで子供の頃のように無邪気な表情を見せた。


「……うん、そうだね。

僕は両親や兄弟とは上手くいかなかったけれど、自分の家庭はしっかり築けた。

奥さんと息子達は変わり者だけど、その心根は真っ直ぐだし、孫達はしっかりした優しい子達ばかりだ。

うん……僕にはそれだけの家族がいる。

それもあの時、イブ姉様達が僕をあの離宮から引っ張り出してくれたお陰なんだね………」


私達の前では、冷徹な皇帝の仮面も脱ぎ捨て、昔のあのレイに戻ってくれる。

それは私達も同じ。

共に青春を過ごしたあの頃に戻り、それぞれの仮面を脱ぎ捨て気やすい時間を過ごせる。


この時間が私達にそれぞれ与えられた責務を和らげてきてくれたのです。


もう長い時間は一緒にいれませんが、残された時間を大事にして、少しでもこんな時間を過ごせたら、と願うばかりです………。




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