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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴
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EP.7


あれからまた少しだけ時が経ち、私は5歳になり、魔法を学び始めていました。

私とジルヴィスの専属の教師に、座学から実践まで徹底的に魔法を教え込まれているところですわ。


ジルヴィスは風と水と土の三属性を持っていて、更に高い魔力量を有しているので、教師も少々熱が入ってしまうのか、かなり厳しく教えていますね。


私は風と火と光属性ですから、主に光属性の強化を中心に学んでおります。


えっ?

属性が減っているのでは無いか、ですか?

ええ、特に申告する必要は無いかと思いまして、他の属性については黙っていましてよ?

三属性くらいが丁度良いかと思いますし、ジルヴィスと完全に同じ属性にしてしまっては、申し訳ないのだけど、私とは実力差があり過ぎてジルヴィスの心を傷つけてしまう可能性もありますから。

光属性については、どうしても表立って使いたかったので、そこは外せませんでしたが、闇と聖は稀有過ぎて、要らない注目を浴びてしまう可能性がありますので、公表しません。

私なりに使い勝手の良い属性のみ申告させて頂きました。


ちなみに、魔力量や属性などはわざわざ測ったり調べたりはしません。

魔法が当たり前の国ですから。

どんな属性を持っていようと、それは特段特別な事ではありませんからね。

唯一、光属性だけは数が少なく重宝されていますが。

教会が躍起になって光属性持ちの人間を集めて独占したがるのも、光魔法が治癒魔法に特化している為です。


ちなみに、私は公爵家の令嬢ですから、光属性を公表しても教会には手出し出来ません。

流石に私を教会に入れろなんて言い出せば、お父様に教皇ごと潰されてしまうかもしれませんからね、ふふふ。


闇と聖については、またお話が変わってきます。

闇属性持ちの人間も、聖属性持ちの人間も、ほとんど存在しないような、大変希少な属性になります。

闇属性は脅威的な魔力量を持って産まれ、また感情に乏しく、何事にも興味を持ちにくいのも一つの特徴ですね。

この世界には魔獣や魔物が存在していて、中には人型の魔族というものも存在しています。

魔族は数は少ないですが、強力な力を持っている脅威的な存在です。

また、魔族から発せられる瘴気から魔獣や魔物が生まれるとも言われています。


その魔族ですが、実は闇属性の人間の成れの果てだったりします。

闇属性持ちの人間が力を暴発させた結果、闇に堕ち魔族と成り果てるのです。

故に闇属性持ちはそれを回避する為に感情が乏しい、と言われています。


えっ?そんな属性を持っていて怖くないのか?ですか?

私に限っては、闇に堕ちる事はありませんから、ご安心下さい。

光と聖の属性も同時に有していますので、闇の力に飲まれる事は絶対にありません。

それに、中身がシニアですからね。

年甲斐もなくテンションが上がる事はあっても、感情の起伏で暴発する事など、申し訳ありませんが、ありませんよ。

長く生きていればそれはもう、色々ありますから。


それに、魔族に堕ちる可能性のある属性である事だけをもって闇属性を恐れるのはナンセンスというものです。

光が差せば影が出来るように、光と闇の力は表裏一体。

実は相性の良い属性でもあるのです。

本来の闇属性の力とは、他の属性同様、自然に由来した力であって、禍々しいものではありません。


では何故、魔族に成り果ててしまう者がいるのかというと、それは闇属性の持つ並外れた魔力量と、人の持つ負の感情を引き付けやすい体質にあります。

闇属性には人の負の感情を力に転換する特性があるのですが、それゆえ自然とはまた違う種類の闇を抱える危険性があります。

その為、感情に乏しく他人に左右されない性質を持って産まれるのですが、残念ながらこの性質が裏目に出る事も稀にあります。

完全に何にも興味を失った時、闇属性がそれまで蓄積してきた負の感情が爆発して、その性質が別の闇へと転換した瞬間、魔族に堕ちるという訳なのです。


なので、魔族に堕ちない対策としては、人でも物でも趣味でも、何か執着出来るものを見つける事が1番有効的ですね。

それで言うと、私は執着の塊ですから、やっぱり心配は要らないと思いますわ。

死ぬまでに果たさなければいけない使命がありますし、前世を何度も共にした大事な存在もありますから。

彼と再び家庭を築き、末長く幸せに暮らす野望もありますし。


さて、闇についてはそんな訳で、私的にはさほど脅威に思ってはいません。

便利な力なので、むしろどんどん使うつもりです。

厄介なのはむしろ聖属性の方ですね。

こちらは神の力に1番近い属性で、あらゆる魔を浄化できるような規格外の力になります。

魔族というのは、眷属の魔獣や魔物とは違い、人の力だけで倒すのはほぼ不可能に近い存在です。

光魔法でさえ、魔族からの攻撃を防ぐ事は出来ても、魔族を倒す事は出来ません。

名だたる光魔法使いが束になって、魔族を封印するくらいがやっと、といったところです。


しかし、唯一聖魔法のみが魔族を滅する力があります。

魔族の存在を完全に消滅させる力。

それが聖魔法です。


そんな聖魔法を得る方法は二つ。

一つは、光魔法の才がある者が鍛錬、修練を重ね、光魔法を聖魔法に昇華させる方法。

世に言う大聖者と呼ばれるような、人の枠を超えるような者。

これには元々の素質もありますし、更にその上想像を絶するような鍛錬を積まねばなりませんから、その境地に達した人間は、この帝国の長い歴史の中でもごく僅かしかいません。


次に、元々聖属性を持って産まれる者。

私がまさにそれなのですが、何故かこちらは女性のみに限定されます。

つまり、女児のみが聖属性を持って産まれるのです。

そして彼女達は聖女と呼ばれ、国と教会に手厚く保護される訳です。


帝国にはもう何十年も聖女が産まれていません。

大聖者もいない今、魔族との戦いは困難を極め、光魔法の上位者が束になってやっと何体か封印している状況。

その封印とて、聖魔法が無ければいずれ解けて魔族が復活してしまうのです。


……という国の状態の中、私の聖魔法を誰かに知られる訳にはいきません。

国と教会に手厚い保護という名の檻に閉じ込められる訳にはいきませんからね。

まぁ、そんな檻、ぶっ壊して出れば良いだけですが、公爵令嬢が暴れるのもあまり体面が良くないですし。


そんな諸々の事情があって、私は闇と聖、特に聖属性は何があっても人から隠し通さなければいけないのです。


とはいえ、実際どちらも最強の力ですし便利なのは違いありませんから、必要ならこっそりどんどん使っていくつもりです。


そう、私にはこっそり力を使う環境が必要なのです。

つまり、公爵令嬢では無い別のもう一つの存在。

私であって私では無い者。

公爵令嬢である私には出来ない事を成してくれる存在。


つまり、二重生活ですわね。

私とは別の存在を生み出して、表裏一体に行動しようという訳です。


「ミラージュ」


試しに魔法で自分の写し身を発現させて、私はう〜んと首を捻った。

目の前の私の写し鏡である存在も首を傾げている。


「違うわね、これじゃ私の影に実態があるだけだわ、独立した行動を取るのは無理ね」


溜息をつきつつ、パチンと指を鳴らすと目の前の私がユラリと揺れてそのまま掻き消えた。


「困ったわ……先生は上位魔法はまだ教えて下さらないし、私の求める魔法は一般的な魔法書には書かれてないし」


残念ながら、前世の私はファンタジーものに明るくなく、魔法の類にも詳しくない。

娘ならこういう時、簡単に思い付きそうだけど、私にはどんな力を使えば良いのかさえ分からない。

もちろん、その力は全て持っているのだけど、具体的にどうすれば良いのかがさっぱり分からない。


とにかく、どんな力でも使えるのだから思いつく事は片っ端から試してみる事にする。

魔法の呪文なんてオリジナルで大丈夫よね?


「コピー」


試しに呟いてみると、私とそっくりの幼女が目の前に現れた。

先程の鏡に映ったような私より存在はしっかりしているけれど、まるでお人形のように意思を感じられない。

私はその自分のコピーの手を取り、更に魔法を付与してみる。


「意識共有」


途端に目の前の私が目をパチパチさせて、まるで今目覚めたかのように頬に生気が宿る。


「独立」


更に魔法を付与すると、コピーの私が私に向かってニッコリと微笑んできた。

私とは違う表情を浮かべるコピーに、私もニッコリと微笑みかける。


「ご機嫌よう、私はエブァリーナ・ヴィー・アルムヘイムと申します」


「ご機嫌よう、エブァリーナ様。

私もエブァリーナ・ヴィー・アルムヘイムと申します」


直ぐに返事を返してきたコピーに、私は自分の頭の中にあった考えが実現しそうな確かな手応えを感じた。


「そうだわ、私の方の姿を変えてみたらどうかしら?」


急に閃いた考えを私は直ぐに試してみる事にした。


「メタモルフォーゼ、なんてどうかしら?」


魔法を呟いた瞬間、私の姿がパッと変化した。

お父様譲りの、夜空の星を映したかのように美しい銀髪は燃えるような赤髪に、お母様譲りの、紫のかかったゼニスブルーの瞳は金属のように不思議に揺らめくレッドゴールドの瞳に。


私は鏡の前に立つと、自分のイメージした通りの姿に変身した事に満足げに頷いた。


「顔ももっと変えた方がいいわね。

垂れ気味の目を吊り目に変えて、もっと大きくしましょう。

それから、目鼻立ちはもっとハッキリとさせて。

作り物のお人形みたいにしましょう」


ブツブツと呟く度に、言った通りに顔が変わっていって、私は何だかちょっと楽しくなってきた。


「5歳の体では不便ね。もっと大きくして、そうね、高校生くらいがいいわ」


私がそう言った瞬間、グーンと背が伸び、目線が急に高くなった。


鏡の中には、燃えるような赤髪に、白い肌、華奢な体躯。

金属のように不思議に揺らめくレッドゴールドの大きな瞳の17歳くらいの少女が立っている。


「まぁ、素敵、これなら誰が見ても私だとは分からないわ」


私はクルリと回るとコピーの私を振り返った。


「ねぇ、どうかしら?イブ2号ちゃん。

この姿なら……あら?あらら?」


そしてその場にドタンと尻餅をついてしまい、目をパチクリさせていると、私のコピーであるイブ2号ちゃん(つい先程命名)がその私の前に屈んで座り、ニッコリと笑った。


「ご主人様、実際の体がまだ5歳ですから、その体ではうまく動けないのではないかしら?」


ごもっともな正論に、私はガックリと肩を落とした。


「困ったわ〜、どれくらいしたらこの体で自由に動き回れるようになるかしら?」


情けない声を出す私に、イブ2号ちゃんはう〜んと首を傾げながら口を開く。


「そうですわね〜、10歳くらいかしら?」


流石私のコピー、私の考えた年齢と全く同じ事を口にしてくれた。

改めて自分の考えを確認したところで、私は元の姿に戻り、やはりガックリと肩を落とした。


「そうね、焦りは禁物よね。

さっきの姿の私の設定を考えなきゃ。

イブ2号ちゃんはどんなものがいいと思う?」


どちらも私の頭で考えているだけなので、答えはだいたい分かっているけれど、脳内会議の実写版とでもいうのかしら?

こうして会話調にして考えた方が良い考えが浮かびそうな気がした。


「そうですわね〜、魔女なんてどうかしら?」


イブ2号ちゃんの言葉に、私は両手をパンと叩いてニッコリ笑った。


「まぁ、それは素敵ね、それが良いわ。

そうね、赤髪の魔女、なんてどうかしら?」


「年齢不詳にした方が良いですわね、魔女ですもの」


「ええ、そうね、では喋り方も年齢不詳な魔女らしく、おばあちゃんっぽくしましょう」


「自由で破天荒で規格外の力を持ち、人々に恐れられる魔女が良いわ」


「その姿で魔獣や魔物や魔族を次々倒していくの」


「暴れん方の魔女なんて、楽しそうですわ」


ニコニコと2人で(どちらも私ですけど)赤髪の魔女の設定を考えていく。


赤髪の魔女は、もう何百年生きているかも分からないような存在で、強力な力を持つ。

気まぐれで楽しい事が大好き。

破天荒なアイデアマンで、便利なものを次々生み出す(予定)。


この赤髪の魔女を使えば、前世の知識を応用した便利な道具をこの世界に持ち込む事が出来るわ。

確かにこの国は魔法によって大抵の事が賄えてしまうけれど、だからこそ生み出せない商品が沢山あるのよね。

そんな物を赤髪の魔女として生み出して商売にすれば、きっと大儲け出来るわ。

公爵令嬢として与えられるお金では無く、個人の資産をもっておけば、いずれ必ず役立つ筈。


私は夢中で、赤髪の魔女になれるようになったらアレもやりたい、コレもやりたいとかんがえを巡らせた。


魔法があって、そこに制約も無く、目立っても構わない存在。

そんな自分になって早く暴れ回りたいわっ!

新しい人生をいただいたのはありがたい事ですけど、幼いうちはもどかしいですわね。


うふふっ、ああそれにしても、本当に楽しみですわ。





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