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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.78


………ゴルタール公爵家。

王国の建国当時から続く古い家門の貴族。

元々は、大戦で兄を庇い戦死した建国王の腹違いの弟の息子に与えられた爵位。

王家に連なる家であったけれど、長い年月の中でもうその認識は消え去っている。


何故なら王族がゴルタール家と縁戚になる事を徹底的に避けてきたから。

ゴルタール家から妃を貰い受けず、逆に王族からゴルタール家に降嫁や降婿も許さなかった。

お陰で王族との血脈はすでに途絶え、公爵家と言えども国に対して何の貢献も実績も無いゴルタール公爵家は、それでも尚、王家に対して影響力のある一家門でい続けている。


それは何故か?

まず、ゴルタール家は貴族派という派閥の党首を代々勤めてきている。

そもそも貴族派という派閥自体、ゴルタール家が興した派閥だった。

貴族派の人数は多く、数では穏健派や王族派を上回る為、王家としてもゴルタール家を軽視出来ない現状であった。


次に、その資金力。

派閥の規模が大きければ、やりようによってはそれだけ資金集めも楽になるもの。

派閥の者を使い非人道的な資金集めも平気でやってのけ、今の地位を築いたのがゴルタール公爵家という家門だった。


つまり、数の暴力と莫大な資金で王国に根付いているいう事です。

よからぬ事の元を辿って行けば必ずゴルタール家に辿り着く事でしょう。

とはいえ、けっして辿り着かせないのがゴルタール家の狡猾なところなのですが。


「ゴルタールねぇ……その名には私も興味があるな」


私達の話に突然参加してきたレイは、ニヤリと悪い顔で笑った。


「貴族達を粛清した時に、チラホラと聞いた名だ。

中にはゴルタール公爵を頼って王国に亡命しようという輩もいたが、その前に綺麗さっぱり切り捨てられたようでそこにまで手は届かなかったが」


1人掛けソファーの肘置きに肘を立て、握った拳で頭を支えながら、レイは負けん気の強い瞳をギラリと光らせた。


「所謂、損切りが上手いのでしょうね。

ここで恩を売っておこうとは考えず、躊躇なく関係を断ち切れる。

それまでに掛かった費用を惜しむ事もしない。

だからこそ、ゴルタール家は様々な悪事に加担しているにも関わらず、その尻尾を掴ませてこなかったのでしょう。

陛下の追跡からも逃れるだなんて、相当な手練れね」


少し嫌味を込めてレイを見ると、拗ねたように口を尖らせそっぽを向いてしまった。

レイとしてはゴルタール公爵が帝国の貴族と繋がり行っていた碌でも無い罪を暴き、王国に恩を売っておきたかったのでしょうけど、それに関してはあちらの方が一枚も二枚も上手だったようです。

やはりそういった事に慣れているからこその俊敏さなんでしょうね。



「そう、ゴルタール家は抜け目が無い。

長い年月をかけ王国中に根を張り、裏で国を操ろうと画策しているのです。

王家と信頼出来る家臣達でそのゴルタール家と水面下の攻防を繰り広げている現状の中、兄上の王太子妃問題………。

ゴルタール家はユリア嬢を自分の家の養女にするべく画策していましたが、それを防ぎシュタイン侯爵家の養女に出来たのは確かに兄上の手腕です、が、そうなれば今度はゴルタール家は必ず兄弟達を操り王位簒奪を狙ってくるでしょう。

アルムヘイム公爵のおっしゃる通り、時期としては兄上達の子供が王位に就く頃を狙ってくるでしょうね。

兄上の子の不当性を責め、兄弟達の継承権の正当性を掲げてくる筈です。

我々はそれに今から備える為に、赤髪の魔女様に師事したいと考えているのです」


まだ16、7の若さでここまで国を想い憂う事が出来るだなんて……。

真面目な顔で私を真っ直ぐ見つめる青年達に心を掴まれると同時に、私は懐かしい気持ちにもなった。

私達にもこんな頃が確かにあったのだわ。

若さゆえに直走ったあの頃が。


懐かしさにチラッとレイを見ると、レイも目を細め彼らを見つめていた。

レイの事です、ダリウス様達が自分に近付いてきたその目的も既に承知していたのでしょう。

彼らもレイに国の内情を大っぴらに話すには、それなりの覚悟が必要だった筈。

だからこそ、まだ学生である自分達がその役を担うべきだと決意したのでしょうね。

若さゆえの無知を利用して、帝国の皇帝にペラペラと国の内情を喋ってしまった愚かな若者を演じ、もしもの時は自分達の失態で済ませる事が出来るように。

それも全て分かった上で、レイは彼らを自分の歳の離れた友人として受け入れ、こうして見事私にまで繋いだという訳です。


私に興味を持たせた時点で、全てはレイの思惑通りだった、という事ですね。

少々癪には障りますが、まぁそれくらいは致し方ないでしょう。

王国での内乱など、この私が許容出来る筈が無いのですから。


「分かりました、貴方がたに赤髪の魔女様をご紹介致しましょう。

その代わり、ユリア嬢を赤髪の魔女様に引き合わせる事も忘れないで下さいね」


ニッコリ微笑むとダリウス様達はホッとしたように胸を撫で下ろし、直ぐに真っ直ぐな目で私を見てきた。


「必ずや兄上を説得し、ユリア嬢を赤髪の魔女様の所にお連れいたします」


その偽りの無い綺麗な瞳を見つめ返しながら、私は彼らに強く頷いた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「ほ〜〜れっ!ゼノよっ、ぶっ飛べーーーーっ!」


「なんで俺ばっかりーーーーーっ!!」


チュドーーーーーンッ!

と音を立て、ゼノが私が放った攻撃魔法によりぶっ飛んでいく。


「ゼノーーーーっ!今行きますーーーっ!」


慌ててそのゼノを追いかけ走り出すヨハネス。

まだ遠距離広範囲での治癒魔法を会得していない為、とにかくあちらこちらに駆け回らなければならないヨハネスを眺めながら、私はカッカッカッと声をあげて笑った。


「くそっ!全くこちらの攻撃が通じない……」


外れた肩をバキっと自分ではめながら、レジスはチッと舌打ちをした。

そのレジスに風魔法による治癒をおこないながら、ダリウスがギラリと瞳を光らせる。


「それでも食いついていかねば。

我々は強くならねばならんのだ」


ダリウスの言葉に私はクックッと腹の中で笑った。


ふむふむ、良い目じゃ。

私に完膚なきまでに叩きのめされてもなお立ち上がり続ける4人に、私は満足げに笑った。


ダリウス、レジス、ゼノ、ヨハネスの4人を弟子に取り半年。

4人とも元々の魔力量が高い事と、個の才能もあった事で日々強くなっていっている。

まぁ今のところは私の攻撃から身を守るだけで手一杯な様子だが、だんだん良い攻撃も繰り出してくるようにもなってきた。

このまま順調に育ててやれば、帝国の魔法騎士にも負けない強さを手に入れる事だろう。

下手すると将軍クラスにもなるやもしれんな。


まぁ、少し気がかりなのはヨハネスの事だ。

希少な光魔法の使い手とはいえ、その特性ゆえになかなか治癒魔法が上達していない。

いや、王国レベルであれば十分に通用するのだが、帝国のトップレベルに居る治癒師達には到底敵わない。

元々光魔法は生まれ持った才能に強く左右されるゆえ、ヨハネスもその才能は悪くは無いが、この先いくら研鑽を積んでも聖者となる程では無いだろう。


とはいえ、治癒魔法自体のセンスは悪く無いので、広範囲の治癒を会得するのももう少し、というところ。

そうなれば十分に戦力になるので、やはりここは場数を与えるのが一番じゃな、うん。


「何をグダグダとくっちゃべっておるかっ!

戦場でそんなマヌケな事をしとれば、いの一番に命を落とすと思えっ!

ファイヤーボーミングッ!」


炎の塊をダリウスとレジスに放ってやると、防ぎ切れずに見事に吹っ飛んでいった。


「ほれヨハネスッ!また負傷者追加じゃっ!

チャキチャキ治癒せねば追いつかんぞい」


カッカッカッと笑う私の目の前でヨハネスはあちらこちらに駆けずり回り、治癒魔法で仲間を救っていく。


うむ、治癒魔法自体は随分上達してきておる。

聖者になれずともそれで十分じゃな。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「ところで、師匠、随分お待たせしてしまいましたが、やっと兄上を説得する事が出来ました。

数日のうちにユリア嬢をここに連れてくる事が出来ますよ」


ダリウスの言葉に、ベキベキになった骨を治癒魔法でくっつけてやりながら、私は片眉を上げた。


「ほぅ、やっとかい?全く、王太子は随分過保護じゃな。

ユリア嬢を王宮から一歩も出さんとは。

王太子妃になれば公務としてあちこち出歩かねばならんというのに、今からそれでは先が思いやられるわい」


私の嫌味にダリウスは深い溜息をつきながら肩を落とした。


「ユリア嬢はもともと市井で暮らしていたくらいですから、見た目に反して逞しい方なんですけどね。

兄上は彼女が出歩いて危ない目に遭うのが耐えられないようなのです」


困ったように眉間に皺を寄せるダリウスの肩を、私はポンポンと叩いた。


「まっ、仕方なかろう。

実際彼女の事を良く思っていない輩は何をしてくるか分からん状況ではある。

シュタイン侯爵家の養女になったからといって、それだけの後ろ盾では心許ないからの。

王家に嫁ぐ者なら若い頃から人脈作りは必須。

彼女にはそれが無いゆえ、王太子が心配するのもまぁ分からんでも無い」


私の言葉にダリウスは頷くと、やはり深い溜息をついた。


「だが、もしかするとそんなユリア嬢に私が最大の武器を授けれるかもしれん。

それこそ、生まれや貴族位など意味がなくなるほどの強力なやつじゃ」


そう言って片目を瞑ると、ダリウスはそんな私を不思議そうに見て首を傾げていた。






数日後、私の元に訪れたユリア嬢は大きな瞳をキラキラとさせて興味深げに私を見つめていた。


ハニーブロンドの髪に深く青い瞳。

淡い金の髪に淡く薄い水色の瞳をした王太子と並ぶと、まるで絵画の中の天使のように美しかった。


「お初にお目にかかります、帝国の赤髪の魔女殿。

私はロイアス・フォン・アインデルと申します。

こちらは婚約者のユリア・ド・シュタイン」


丁寧ではあるが不機嫌さを隠そうともしない王太子に、私はククッと笑った。


「うむ、王太子の婚約者を呼び付けて悪かったな。

私に名は無いゆえ、魔女でも何でも好きに呼んでくれ。

さて、早速じゃが、ユリア嬢………」


そう言ってユリア嬢を目を細めて見ると、ユリア嬢はドキッとしたように身体を揺らした。


「お前さんは光属性だね?その上持って生まれた魔力量が非常に高い………。

更にその年でかなりの魔法の修練を積んできたとみえる。

一体どこでそんな修行を?」


私の問いにユリア嬢は本当に不思議そうに首を傾げた。


「あの、修行と言われましても、そんな覚えは無いのですが。

強いて言えば、市井にいた頃から治癒魔法は皆んなに施してきました。

教会に行けば受けられるけど、皆んな私の方が良く効くと言ってくれて」


ユリア嬢の答えに私は呆気に取られて目を見開き、ややして大口を開けて笑った。


「アッハッハッハッハッ!なるほどっ!

実践でひたすら研鑽を積んできたか。

それだけの魔力量と生まれながらの才能があれば、そりゃ教会の治癒師より腕は良いじゃろうっ」


私の笑い顔をユリア嬢は目を丸くして眺めている。


「うむ、良い逸材じゃっ!

私が光魔法を更に鍛えてやれば、ユリア嬢は聖者の域に達するであろう」


私の言葉に目を見開いていたユリア嬢は、ややしてパァッと顔を輝かせた。


「ではまた、私も誰かの役にたてるんですね?」


ユリア嬢の言葉に私はうんうんと頷いた。


「その治癒の力を持て余しておくなど愚の骨頂。

私の所で修行を積めば、その力を聖魔法にまで昇華出来るじゃろう。

そうなれば聖者となり、女性であるからして少々特例ではあるが、聖女と呼ばれる事になるじゃろう。

私のお墨付きじゃから、帝国で認定を受けれるぞい。

聖女となれば王国の貴族達とて、もう誰もお前さんに文句をつける者など居なくなる。

どうじゃ?やってみるかい?」


ニッと笑ってユリア嬢を見ると、その瞳をキラキラと輝かせ、笑顔で口を開いた。


「はいっ!ぜひお願い」


「駄目だっ!」


その時、ユリア嬢の隣から王太子であるロイアスが声を荒げて私達の会話を断ち切った。


「ユリアは既に俺の婚約者だ。

誰かに認められる必要など無い。

その為に聖女になどなる必要も無いのだ。

魔女殿、俺が知らないとでも思ったか?

帝国では聖女を教会の奥深くに閉じ込め、生涯外には出さぬらしいな?

俺のユリアをどうするつもりだ?

帝国に攫い、俺から奪うつもりか?

そうはさせない、ユリアは貴女の所にはやらぬ」


ギリッとこちらを睨み付けるロイアスを真正面から見つめ返し、私はうむと顎に手をやった。


「ユリア嬢はあくまで王国の聖女。

帝国では手は出せんよ。

今は帝国にも聖女がいるゆえ、攫ってまで欲する事も無い。

王国には大聖女以来聖女が誕生しておらぬゆえ、扱いについてはこれから取り決めれば良い。

それは何も、帝国の決まりに倣う必要も無いのじゃが……」


私が言葉を発する度にロイアスの顔が気色ばんでいく。

どうやら、そういった問題では無いらしい。

まともには会話も出来なさそうな雰囲気に、私はやれやれと肩を上げた。


「ね、ねぇ、ロイ………私は魔女様の所で魔法をちゃんと学びたいわ。

聖女とかは良く分からないけど、治癒の力はとても貴重な大事な力よ。

この力をもっと人の為に役立てたいの。

…………ダメかしら?」


ロイアスの腕に触れユリア嬢が下から見上げるも、ロイアスは厳しく首を横に振った。


「君がそんな事をする必要は無い。

治癒師なら教会に居るし、彼らの仕事まで君がやる必要は無いんだ。

いいか、ユリア、君は俺の婚約者だ。

聖女の真似事などする必要は無い。

君はただ俺の側にいてくれるだけで良いんだ」


真っ直ぐなロイアスの瞳をジッと見つめ、ユリア嬢の瞳が迷いに揺れる。

やがて自分の望みをその瞳の奥深くに沈める様子を見て、私は片眉を上げた。


「………あの、魔女様………。

せっかくお声をかけて頂いたのですが………私………」


申し訳なさそうに私を見るユリア嬢に、私は溜息混じりに答えた。


「あい分かった、もうこの話はせぬと約束しよう」


こうも話が通じぬとは。

アインデル王国の王家が番への衝動に似た感情を呪いと称するのも確かに頷けるというもの。


まだ私を睨み続けるロイアスに、私は深い深い溜息をついた。





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