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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.77


「お初にお目にかかり光栄です、アルムヘイム公爵」


真っ直ぐに私を見つめる黒髪の青年に、私は優雅に微笑んだ。


「ええ、王子殿下、こちらこそ光栄ですわ」


我が家の貴賓専用の応接間のソファーに腰掛ける青年と、その供である同じ年頃の青年達3人をぐるっと見渡し、私は最後にレイを見た。


「随分お若いご友人ですこと、陛下」


私の微笑みにレイは冷や汗を流しながら目を泳がせる。


「アルムヘイム公爵、皇帝陛下にお見知りおき頂こうと先に動いたのはこちらの方なのです。

皇帝陛下が私どものような若輩者の話を聞いてくださり、友人と仰ってくれている事に感謝しております」


黒髪の青年、ダリウス・フォン・アインデル、王国の第二王子に私はふふっと笑いかけた。


「殿下、良ければ他のご友人方もご紹介頂けるかしら?」


私の言葉に第二王子は頷き、まず彼の右側後ろに立つ青年を手で差した。


「この者は、レジス・ドゥ・ローズ。

私の学友であり、ローズ侯爵家の嫡男です」


「お目にかかり光栄です、アルムヘイム公爵」


胸に手を当て頭を下げるレジス卿に私はニッコリと笑った。


「ローズ侯爵家は建国の頃より王家に仕える歴史ある大家ですわね。

そのローズ家の次期侯爵にお会いでき、私の方こそ光栄ですわ」


真紅の薔薇のような髪色に濃いアイアンブルーの瞳の青年は、少し照れたようにはにかんだ。


「そしてこちらが、ゼノ・クロード・ギクソット。

近衛騎士団隊長であるギクソット伯爵の嫡男になります」


黒に近い青い髪に、エンジ色の瞳の青年に私は微笑みかけた。


「代々近衛騎士団を率いてきた名門の伯爵家ですわね」


ゼノ卿も胸に手を当て深く頭を下げた。


「我が家をお見知りおき頂き光栄至極にございます、アルムヘイム公爵」


私達の挨拶が終わったのを確認してから、第二王子は隣に腰掛ける青年を見た。


「そして最後に、彼はヨハネス・ロペス・アンヘル。

大司教の子息になります」


中世的で神秘的なスカイグレーの瞳の青年に私はふふっと笑った。


「我が帝国の教皇であるカハル様の甥っ子ですわね」


ヨハネスはその私の言葉に頷き、清流のような水色の髪をサラサラと流しながら頭を下げた。


「はい、アルムヘイム公爵様には我が伯父がお世話になり、アンヘル家を代表して御礼を申し上げます。

カハル伯父は私の憧れであり、目標です」


そのヨハネスの言葉に、私はますますふふっと笑った。


「アンヘル家の思惑とは違ったでしょうけど、そう言って頂けるのは嬉しいわ」


私の言葉にヨハネスは不思議そうに首を傾げる。

アンヘル家としては、カハルに望んでいたのは教皇になる事では無かったのでしょう。

ただ神のお心から遠ざかっている帝国の教会人達に、正しい神への信仰心を思い出して欲しかった。

カハルには少しでも神の言葉が皆に届くよう、勤しんでくれるだけで充分、それ以上は望んでいなかった筈です。

ですがこの私に目をつけられたのが運の尽き。

カハルほどの人間を私があの頃の教会でただ無駄に消耗させておく訳がありません。

ありがたく有効活用させて頂いていますわ。


私はカハルによく似たヨハネスを眺めながら、横目でチラッとレイを見た。


「なるほど、カハルから紹介させた訳ですわね。

国王や王太子を差し置いて、第二王子殿下と親しくするなど、本来なら皇帝のする事ではありませんが、教会から紹介された学生がたまたま第二王子殿下のご学友であったなら、帝国の皇帝として無下には出来ませんものね」


うふふと小首を傾げると、レイはどっと冷や汗を流し、目を泳がせている。

それにしても、随分軽率な事をしてくれたわ。

王太子の立場が危うい時に、帝国の皇帝がその弟である第二王子と親しくするだなんて、王太子を廃したいと思う連中の格好の的になるだけじゃないの。


ふふふっと額に青筋を浮かべる私にレイが小刻みに震え出した瞬間、第二王子殿下が口を開いた。


「アルムヘイム公爵がご心配されるのは尤もですが、私に限っては、兄上に代わり私を担ごうだなどと思う者はいません。

私は常日頃から兄上に忠実である事を公言していますし、浅ましい考えを持つ貴族との付き合いは徹底的に廃しています。

つまり、兄上と同様、彼らから見ればやりにくい王子なのです。

自分達の傀儡になり得る者を求めている彼らからすれば、兄上も私も邪魔な王子でしか無い」


第二王子殿下の話になるほどと私は頷き、彼を真っ直ぐに見つめた。


「貴方達兄弟であれば、王国を背負って立つに相応しいでしょう。

ですが、ならば尚更、王太子殿下の婚約者選びには慎重になるべきでしたね」


と言いつつも、全ては後の祭り。

王太子殿下がたった1人の女性に出会ってしまった後では、もうどうする事も出来ないと、私にだって分かっていました。


第二王子殿下は下を向き、悔しそうに膝の上で拳を握った。


「それについては、私達の力及ばす、帝国の貴族であるアルムヘイム公爵にまでご心配をおかけし、弁明のしようもありません。

ただ、兄上は、あの時、私達からの苦言に対し、彼女を妃に迎えられないなら、自分は王族籍から抜ける、とまで言ったのです………」


その言葉に私はピクリと片眉を上げ、身を乗り出した。

その私の反応に第二王子殿下は更に申し訳なさそうに続けた。


「兄上には王たる資質があります、それは間違い無いのです。

思慮深く、物事を広い視野で見ることが出来、何事にも動じず、何より王国を、そしてそこに暮らす人々を心から大事に思っている……。

そんな兄上が、ユリア嬢と出会いそんな事まで言い出すなんて……私達の誰もが予想していなかった。

私達が、2人の仲を認めるのでどうかこのまま王太子であって欲しいと懇願すると、兄上は、ならばこれから私のする事にもう何も言うな、とそう言って………」


そこで言葉を切った第二王子殿下の代わりに、私がその先を口にした。


「そして、件のシュタイン侯爵令嬢を生贄にした茶番劇ですね。

まぁ、たった1人の犠牲のみでそれほどの身分差を押し通した手腕はなるほどと思わないでは無いですが、私には王太子殿下が貴方の言うような人格者には思えませんわね」


私の言葉に第二王子殿下はバッと顔を上げ、訴えるように私を見つめた。


「兄上は本当に、本来ならもっと冷静で、必要なら自己犠牲も厭わない人間なんです。

ですが、ユリア嬢に関しては、兄上は何一つ譲らなかった。

兄上の言うように王族籍から抜けさせてやれば、そのような犠牲者も出なかったのでしょうが、私達は兄上を失う訳にはいかなかったのです。

ですから私が責任を取り、シュタイン侯爵令嬢と婚約すると言ったのですが、兄上は早い者勝ちだ、と言っただけで、それを聞いてくれませんでした」


第二王子殿下の話に、私はふむと顎に手をやった。


「シュタイン侯爵令嬢と婚約した伯爵家の子息は、どんな方ですの?」


私の問いに第二王子殿下は不思議そうにして答えた。


「パレス伯爵子息は兄上の学生時代の学友で、温厚で穏やかな人物です。

心根が優しく、兄上はよく、彼といると気が抜ける、と言っていました。

そんな彼が唯一感情を露わにして怒ったのが、シュタイン侯爵令嬢についてでした。

不敬覚悟で兄上に進言した彼に、兄上が『ならばお前がシュタイン侯爵令嬢を娶れ』と命令したのです」


なるほど?自分が生贄にした女性に、せめてもの償いに無償の愛を捧げる相手を与えた、というところかしら?

でも彼女は、過去に何人も王族に嫁がせてきたというシュタイン侯爵家の令嬢。

当然自分もそうあるべきと育てられてきたはず。

その価値観と存在意義を地に落とされ泥まみれにされて、今更愛うんぬんでどうなるものでもないでしょう。

自分は格下である伯爵家に嫁ぎ、男爵令嬢がその自分の全てを奪った。

シュタイン侯爵令嬢という身分も、王妃になるという未来も………。


恐らく、彼女は今頃とっくに心を病んでいる。

追い打ちをかけるように自分を悪役にした観劇が流行しているのでは、婚約者であるパレス伯爵子息の愛に気付く心の余裕さえ無いでしょう。

1人の女性をそこまでの地獄に落とせる人間に王たる資質が備わっているだなんて、まさに悲劇以外の何ものでもないわね。


片手で顔を支え、トントンと指で自分の頬を叩きながら考えに沈む私に、第二王子殿下が申し訳なそうに口を開いた。


「………それに、ユリア嬢もおかしな事を言っていて、それで兄上が余計にパレス伯爵子息では無くては駄目だと言い出したのです」


第二王子殿下の言葉に私は片眉を上げた。


「その、王太子殿下のご婚約者は何と言ったのですか?」


私の問いに、第二王子殿下は首を傾げながら答えた。


「シュタイン侯爵令嬢とパレス伯爵子息にしか紡げない未来があり、その未来が無ければ王国に悲劇が訪れる、と」


第二王子殿下の答えた内容に、私はピクリと反応して目を見開いた。


「もしかして、その王太子殿下のご婚約者は光属性ではありませんか?」


私の問いに第二王子殿下はゆっくりと頷いた。


「はい、彼女は男爵の庶子で平民であったにも関わらず、魔力と属性があり、確かにアルムヘイム公爵の言うように光属性を持っています」


その返答を受け、私は天井を見上げ考え込んだ。

もしかしたら彼女は光属性を聖魔法にまで昇華できる程の光魔法の持ち主なのではないかしら。

本来光魔法は魔力量が低く、治癒魔法でさえ希少な力なのだけど、ごく稀に光魔法の力が常人より高く、聖魔法にまで昇華出来るほどの聖者が現れる。

そのような者は今までの記録には男性のみで、女性でその域に達した者はいない。

女性であれば聖属性で生まれ、聖女となるのが通例で、光魔法から聖魔法に到達する人間はいないとされていた………けれど、必ずしもそうとは限らない。


王太子殿下の婚約者であるユリア様の発言には妙に引っかかるものがある……。

それが何かを私は知る必要があるような気がしてならない。


「……王子殿下、お願いがあるのですが」


ボソリと呟くような私の言葉に、第二王子殿下は居住まいを正し、真っ直ぐに私を見た。


「アルムヘイム公爵、どうか私の事はダリウスとお呼び下さい。

公爵の願いならこのダリウス、出来うる限り尽力したいと存じます」


ダリウス様の真っ直ぐな瞳を見つめ返し、私は微かに微笑んだ。


「では、そのユリア嬢と私の友人を引き合わせて頂けないでしょうか?」


その私の言葉にダリウス様は不思議そうに首を傾げた。


「公爵のご友人とユリア嬢をですか……」


そこまで言って、ダリウス様はハッとして目を見開き、私をじっと見た。


「まさかそのご友人とは、赤髪の魔女様ではございませんかっ?」


食い入るように私を見るダリウス様に、私はゆっくりと頷く。


「ええ、その通りです」


私がそう答えると、ダリウス様、レジス卿、ゼノ卿、ヨハネスが同時に顔を見合わせ、目だけで語り合うと、どう言えば良いか……といった風にチラチラと私を見た。


「どうかいたしましたか?赤髪の魔女様に何か用でもおありでしたか?」


あまりに分かりやすいその態度に私が笑うのを我慢しながら問いかけると、レジス卿が身を乗り出して口を開いた。


「実は俺達はまさに、その赤髪の魔女殿を公爵から紹介して頂きたくて参ったのです」


ソファーの背もたれを乗り越えそうな勢いのレジス卿を押し戻しながら、ダリウス様が眉間に皺を寄せた。


「おいっ!レジスッ!失礼であろうっ!」


感情を露わになさるダリウス様に、私はニッコリ笑いかけて緩く首を振る。


「構いませんわ、なるほど、貴方がたが陛下とお見知りおきになりたがった意味がやっと分かりました。

貴方がたの心配ごとを話して下さるなら、赤髪の魔女様をご紹介致しましょう」


私の言葉に4人は顔を見合わせ、迷うように目を合わせたのち、何かを決意するかのように頷き合った。

そしてダリウス様が意を決したように私に振り向き居住まいを正してから口を開く。


「我が国の恥を晒す事になりますが、どうかこの場はお許し下さい。

私共はいつか我が国の内部で内乱、クーデターが起こると危惧しています。

私達の父王には正妃と合わせて妻が5人、子は11人います。

それも、これからまだ兄弟は増えるかもしれないのです。

帝国と違い、我が国は王家にだけ一夫多妻が認められていますから、父王はまだ自分の夫人を増やすつもりでいるでしょう。

父王には番のような存在がいません。

その心の穴を埋めるが如く、次々に夫人を娶っている状況です。

つまり、それだけ王位継承権を持つ者が増えていくという事………。

これだけ居れば、そのうち下心のある人間に唆され王座を狙う不定の輩も現れないとは言い切れないのです」


ダリウス様の話に私は頷き、真面目な顔で口を開いた。


「そうですわね、例えば、いずれ王太子殿下とユリア嬢の間に王子が産まれれば、元は平民だった母から生まれた紛いものの王子、とでも言いがかりをつけ、その権利を害そうとしてくる者が現れてもおかしくはありませんね」


私の言葉に今度はダリウス様が頷き、憎々しげにその額に皺を寄せた。


「ええ、そしてその者の後ろには必ず、ゴルタール公爵がある筈です」


そのダリウス様が出した名に、私とレイが同時に眉をピクリと動かした。


ゴルタール公爵…………。

その名は、間違いなく、帝国の毒蛇の末裔の名だった………。






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