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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.75


「いよいよこの日が来たね、イブ姉様。

家門の説得に有力貴族への根回し、それら全てをたった5年で終わらせるなんて。

本当イブ姉様は短気……じゃなくて、仕事が早いね」


私にチラッと軽く睨まれて、言葉を変えながら讃えてくれるレイに、私はふふっと微笑んだ。


「貴方もこの5年で随分頑張ったわね。

帝国中を駆け回り、領民から暴利な税を徴収する領主を見つけては潰し、貴族位や領地を没収するだなんて。

貴方、貴族達の間で密かに簒奪皇帝と呼ばれているわよ」


私の言葉にレイはクスクス笑った。


「良いよね、その呼び名、僕わりと気に入ってるんだ。

やっぱり皇帝として箔はつけときたいしね。

冷酷無比な簒奪皇帝。

悪くないよね、うん」


満足気に頷いているレイですが、皇帝なのに簒奪者と揶揄されるのは如何なものかと私は思いますよ?

まぁ本人が納得しているのならそれで良いのでしょうけど。


「それにしても、まだイブ姉様が公爵位を受け継ぐ事に反対している貴族が多いね。

まぁ彼らにすれば、この5年で急激に女性の地位が向上され社会進出が進められたから、イブ姉様の襲爵でそれが更に加速するのが嫌なんだろうね。

男だ女だといつまでも拘っているけど、同じ人間なのに性別如きで能力の優劣なんてつけられないってまだ分からないかなぁ。

能力の低い男もいれば、能力の高い女性もいる。

ただそれだけの事なのに」


肩を上げて呆れたようにそう言うレイを、私は横目だけでチラッと見て口を開いた。


「レイ、能力の低い人間、何も出来ない人間など、最初からいないのよ。

いるのは、やらない人間だけ。

やりさえすればどんな人間にだってその個性に応じた能力があるの。

それなのに、ただ何もやらない人間がいるだけよ。

この5年で女性達はやってきたのよ。

今まで家に閉じ込められ、何もやらせてもらえなかったからこそ、彼女達は努力を惜しまず自分の能力を開花させ発揮してきた。

乾いた大地が水を取り込むように貪欲に学び、必死で自分達の立場を認めさせてきたの。

何もしなくとも、ただ男性に生まれてきたというだけで全てが与えられる、と勘違いしてきた男性達を尻目に、ただがむしゃらにやってきた。

その結果が女性の社会進出に繋がったのよ。

やるかやらないか、たったそれだけの事でこれ程差が出るのだから、勘違いした男性達の良い刺激になれば良いと思っていましたが、やはり危機感が先だったわね。

女性が自分の今ある地位を脅かす存在と認知されてきた事の証拠だから、悪い事ばかりでもありませんけど」


淡々と語る私の話にレイは途中何度も頷き、ニヤリと笑った。


「男どもの狼狽えっぷりはなかなか楽しかったね。

この5年、徐々に変化していくその反応を存分に楽しませてもらったよ。

そもそも、男だけで世の中を回そうだなんてそんな効率の悪い事、この僕が許す訳が無いじゃないか。

女性にも権利が与えられればそれだけ選択肢が増える。

発想の幅も広がり、人材確保にも困らなくなる。

良い事づくめだと僕は思うね。

皇后であるシルヴィに陛下という敬称が与えられ、更にイブ姉様がアルムヘイム公爵になれば、もう誰も女性の更なる進出を止められない。

それこそが僕の治世に求めていた事だよ」


ニコニコとご機嫌な様子のレイに、私はふふっと笑った。


「貴方が皇帝だからこそ進められた改革だわ。

貴方が女性からの支持が高い事を、見目と若さのせいだと揶揄った貴族がうちのお祖母様にどんな目に合わされたか、もう話したかしら?」


私の言葉にレイはブルリと体を震わせて、片手で私を制しながら首を横に振った。


「いや、何となく想像できるから、話さなくて良いよ」


せっかくお祖母様の新たな武勇伝を話せると思ったのにレイにあっさり断られてしまい、私は少し残念そうに眉を寄せ、ジッとレイを見つめた。


「いや、本当に良いから、イブ姉様。

リネット夫人のやり口は僕も良く知っているから、ホント、遠慮します」


頑なに断られてしまい、ますます私が残念顔でジッとレイを見つめている時、ジルヴィスが扉をコンコンと叩いた。


「開けっぱなしの部屋で皇帝と次期アルムヘイム公爵が密談かい?」


クスクスと楽し気なジルヴィスに、私は困り顔で訴えた。


「ジルヴィス、レイったらこの前の夜会でお祖母様が痛快に成敗した貴族達の話を聞きたくないと言うのよ」


私の言葉にジルヴィスは軽く首を傾げ、ああっと思い出したように声を上げた。


「あの貴族達か、お祖母様により社交界から永久追ほ」


「いやっ!だからっ、聞きたくないんだってばっ!」


ジルヴィスの話を叫び声で遮るレイに、ジルヴィスは不思議そうに首を傾げた。


「心配しなくても彼らの奥方がすぐにお祖母様に謝罪に来て、代替わりする事で手打ちになったよ」


ケロッとそう言うジルヴィスにレイの顔色が一気に悪くなる。


「一貴族家の代替わりにまで影響力があるリネット夫人の話なんか聞きたくなかったんだってば………。

リネット夫人の社交界での影響力エグい……。

シルヴィが皇后になって一年未満で社交界を牛耳れたのは間違いなくリネット夫人の裏での暗躍のお陰だよね。

良いんだけど、最近はペット同伴の夜会とか開いてシルヴィが暴走気味なんだよな……。

この前の夜会にはイブ姉様とジル兄様は参加したの?」


レイの質問に私は当然の事のように答えた。


「ええ、私はカインを同伴したわよ」


「イブ姉様っ!」


私の不謹慎な発言にレイは本気で怒りを表し、ジルヴィスは片手で額を押さえている。


「ふふっ、冗談よ。私はもうペットは飼わないと決めているから、ペット同伴無しで参加したわ」


私の言葉にジルヴィスが片眉を上げて、不思議そうに首を捻る。


「イブがペットを飼っていた事ってあったっけ?」


そのジルヴィスの鋭い問いに、私は笑顔で返した。


「ええ、私には守護神獣がついていたのよ」


冗談っぽく片目を瞑ると、レイが呆れたようにハッと鼻で笑った。


「イブ姉様を守護出来る動物なんて、ドラゴンか何かしかいないね」


そのレイの言葉に微笑みを浮かべたまま目だけでギロリと睨みつけると、ジルヴィスが慌てたように口を開いた。


「なんにせよ、イブが本当にドラゴンを同伴させなくて良かった」


ハハハッと乾いた笑いを浮かべるジルヴィスの後ろから、ヒョコッとシルヴィが顔を出す。


「ドラゴンがどうかしたの?私も会ってみたいわ」


ワクワクした様子のシルヴィにレイが頭を抱え、溜息混じりにシルヴィに話しかける。


「君とドラゴンなんて最悪なカード、僕が許す訳ないだろ?

それより何をしに来たんだよ、そんな大事な体で」


ジルヴィスの後ろから姿を現したシルヴィは大きなお腹を撫でながらレイの目の前に立った。


「何をしにって、今日はイブお姉様の大事な日なのよ。

私が駆け付けない訳ないじゃない」


レイにそう言いながら、シルヴィは私に向き直り、瞳をキラキラとさせた。


「イブお姉様、とっても凛々しくて素敵です」


そのシルヴィに私はニコリと笑い返す。


「そう?ありがとう」


今日の私はアルムヘイム家当主の正装に女性らしく少し手を加えた服装をしている。

武を誇るアルムヘイム家の正装は騎士服なのだけど、騎士の正装を下だけスカートに変え、後は正式なビロードのガーターローブを上から羽織っている。

アルムヘイム家に代々受け継がれてきた星章と、赤髪の魔女が賜った星章を佩用している。

赤髪の魔女としての功績は全てエブァリーナに委ねる、と公式に発表しているので、この姿では本来賜れない最上級の星章を胸に飾っているという訳です。


その私の姿をシルヴィは憧れるように溜息混じりに見つめている。

確かにシルヴィの好きそうな格好ね、と思いながら、私は苦笑いを浮かべた。


「もういいだろ、産月の妊婦がウロウロするのはやめてくれよ。

ヒヤヒヤしてイブ姉様の襲爵どころじゃなくなるよ」


レイの言葉にシルヴィは頬を膨らませ、拗ねたように口を尖らせた。


「本当なら私も参加する筈だったのに……」


恨みがましげにレイを上目遣いで見るシルヴィに、私はまーまーとその肩に優しく触れた。


「私も貴女の赤ちゃんを楽しみにしているのよ。

無理をして今日参加して、貴女とお腹の赤ちゃんに何かあったら私だって耐えられないわ。

うちの子達も可愛い従兄弟に早く会いたいって毎日言っているのよ」


ふふっと笑いかけるとシルヴィはキラキラと目を輝かせた。


「エスティとカーティスがそん事を、私も早く2人にこの子を会わせてあげたいわ」


そう言って自分のお腹を優しく撫でるシルヴィはすっかり母親の顔になっている。


あれから私はエスティの下に元気な男の子を授かり、今では5歳と3歳の子の母親。

シルヴィはもう少しで第一子を出産します。

こうして子供達が増えていく事は何物にも変え難い喜びですね。

この幼い子供達に私達は今よりもっと良い国を手渡さねばならないのです。

その為に今、私達が出来る事を私達はやらねばなりません。


「さぁ、そろそろ行きましょうか、イブ姉様」


この5年ですっかり逞しい青年に成長したレイに手を差し伸べられ、私はその手を取り新しい扉を共に開いた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





謁見の間に集まった貴族達が一斉にこちらを見る。

私の姿に息を呑む者、気に入らないとばかりに無遠慮に睨んでくる者、目を輝かせ食い入るように見つめてくる者………。

当然ながら反応は様々ですが、その全てに悠然な微笑みで返し、私は真っ直ぐに王座に座るレイに向かって歩いた。


「エブァリーナ・ヴィー・アルムヘイム、よく来てくれた」


友好的に話しかけてくるレイの前でカーテシーで礼を取ると、後ろから侮蔑を込めた呟きが聞こえてきた。


「おやおや、カーテシーを取る公爵が今から誕生するというのか?

アルムヘイム家もお終いだな」


その呟きにレイが片眉を上げ、ニヤリと口角を上げた。


「エブァリーナ・ヴィー・アルムヘイム。君は男か?」


レイの問いかけに私は胸に手を当てゆっくりと答えた。


「いいえ、陛下」


その私の返答にレイは軽く頷き、再び問いかけてきた。


「では、君がアルムヘイム公爵となった暁には、男の真似事をした公爵になるのか?」


レイの問いにまた私はゆっくりと答える。


「いいえ、陛下。その必要性を感じませんので」


私の答えにレイは満足げに頷く。


「そう、そんな必要は無い。

君は女性として公爵になるのだから。

ドレスで片膝をつく必要も無い。

ところで、片膝をつかねば公爵になれぬという斬新な物の考え方をする者がいたとして、君ならその者に何と言ってやるかな?」


レイからの問いかけに、私は感情を動かさずやはりゆっくりと淡々と答えた。


「本当にそのような者がいたとしたら、その方は戦場で名誉の負傷をした者にも同じような事を仰るような恥知らずでしょう。

その両足を切り落とされても同じ事を言えるのか、試してみるのも良いかもしれません」


そう言うと同時にアルムヘイム家秘伝の威圧感を放つと、後ろからヒィィッと小さな悲鳴が聞こえてきた。


レイは楽しげにニヤニヤと笑い、その悲鳴の聞こえた方をチラッと見ながら口を開いた。


「なるほど、それは実に武を誇るアルムヘイムらしい。

次代の当主もやはりアルムヘイムであるな。

血気盛んさは先代達に負けずとも劣らぬようだ」


そう言ってクックックッとレイが笑うと、私を小馬鹿にした目で見ていた貴族達が一様に顔色を青くした。


あら?皆さま、今から私が受け継ぐ名がこの国一の武を誇るアルムヘイム公爵家だと、お忘れだったようですわね。

小賢しい嫌味など通じない相手だと思い出して頂けたかしら?


レイの笑いに合わせて私もクスクスと笑うと、背後で何人かがバターンと倒れる音がした。

私の晴れの日に泥を塗るような脆弱なその貴族達は、カイン率いる護衛騎士達により早々に強制退室されていく。


「………さて」


笑い顔から一転、レイは威厳ある風格を醸し出し、ぐるりとこの場に集まる貴族達を見渡した。


「雑談はこの辺にして、本題に入ろう」


レイの威圧感のある低い声に、その場にいる貴族達から唾を飲み込む音が聞こえてくる。


「私は常日頃から、我が世には無用な差別は要らぬと公言してきた。

一方的で根拠の無いくだらない差別により、貴重な人材が埋もれてしまうのは実に惜しい。

誰にでも持って生まれた個の能力を、この帝国の為に遺憾無く発揮してもらいたい、と思っている。

ここにいるエブァリーナ・ヴィー・アルムヘイムは、そんな私と志を共にする同士である。

彼女は言われなき差別から獣人を解放し、性別のみを理由に囚われていた女性達の足枷を解き放った功労者でもある。

その他にも、彼女の成した偉業は今更並べ立てる必要も無いだろう。

そんな彼女を後継ぎと定め、この度正式にアルムヘイム公爵へと襲爵させると決めたアルムヘイム家の先を見据える力に私は心を動かされたのだ。

根拠の無い因習のみで、後継ぎを男と定める時代は今日この時に終わりを迎える」


そこでレイは言葉を切り、今一度その場をぐるりと見渡した。


「代57代皇帝レックス・ヴィー・フロメシアの名の下に、アルムヘイム公爵の代替わりをここに認める。

今日この時より、エブァリーナ・ヴィー・アルムヘイムこそが新しきアルムヘイム公爵となる。

皆は、この国初の女公爵の誕生の瞬間に立ち会えたのだ。

古き悪しき時代は終わった。

私は皆に宣言する、これからは女性の叙爵、襲爵を認めるとっ!」


威厳あるレイの声が謁見の間に響き、その場がシンッと静まり返った。

動揺を隠せない男性達は身じろぎも出来ない中、ややしてパチパチパチパチとまばらに拍手の音が響き、女性達が一歩二歩と前に進み出てきて、涙の滲んだ声を上げた。


『皇帝陛下万歳っ!アルムヘイム女公爵万歳っ!』


その女性達が口々に同じ言葉を叫び、それはやがて渦となってその場を包んでいった。

男性達の中からいち早く時代の流れを汲み取った者達が女性達と共に手を叩き、一緒になって大きな声を上げた。


『皇帝陛下万歳っ!アルムヘイム女公爵万歳っ!』


『皇帝陛下万歳っ!アルムヘイム女公爵万歳っ!』


『皇帝陛下万歳っ!アルムヘイム女公爵万歳っ!』


やがてその声が完全にその場を制圧した時、現実を受け入れられず下を向いていた貴族達も恐る恐る手を叩き、同じようにその言葉を口にした。


『皇帝陛下万歳っ!アルムヘイム女公爵万歳っ!』


そうですね、時代が変わるとは恐ろしい事でもあります。

自分にとっては良い時代を生きてきた人間なら、不変を願うのも当然の事でしょう。

ですが、残念ながら不変なものなどこの世には無いのです。

誰かを犠牲にして得ている幸せほど、脆く崩れ去るものですよ。

そして不変を願い何も考えずとも生きてこられたような人間ほど、同調圧力には逆らえないというもの。


その場を完全に掌握出来たと判断すると、レイはバッと両手を上げた。


「この国は生まれ変わるっ!

誰にでも望むものを手に出来る権利のある国へとっ!

その第一歩を自ら体現してみせた新しきアルムヘイム公爵を皆で讃えようではないかっ!」


そのレイの言葉にワァァァッと歓声が上がり、皆が一体となって声を上げた。


『アルムヘイム女公爵万歳っ!』


『アルムヘイム女公爵万歳っ!』


『アルムヘイム女公爵万歳っ!』


皆からの歓声を受け、私はクルリと振り返ると、その声に優雅なカーテシーで返した。


一層の歓声が上がり、謁見の間は人々の冷めない熱気で包まれた………。





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