表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴
6/100

EP.5


さぁ、皆様はもう答え合わせはお済みですわよね。

そうです、全ては2人を取り巻く嫉妬と悪意から起きた悲劇だったのです。


先にお話した通り、アルムヘイム家からの要望で一旦養子に迎え預かっていただけの子供を、まるでお父様との間の子供であるとでも言いたげに、根も葉もない醜聞を吹聴して回っていた伯爵夫人。


そして、お母様の妹でありながら、アルムヘイム公爵夫人の座を大胆に狙い続けていたシャルロッテ叔母様。


2人とも、まだお母様がお父様の婚約者であった頃から随分と色々となさっていたようですけど、結局お父様に選ばれたのはお母様であるという事に最後まで納得がいかなかったようですわね。


貴女方に納得いただく必要など、どこにもありませんけれど。


常日頃から自分の勝手な価値判断で格下に見ていたお母様が、当時の全淑女の憧れであり、容姿も生まれも資産額も極上の男性、アルムヘイム公爵に選ばれた事がよっぽど腹に据えかねたようですわ。


むしろお母様が絶世の美女で、社交界のトップに君臨するような淑女であれば、彼女達も大人しく引き退がったのかしら?

でも残念ながら、お母様はそんなタイプとは真逆で、のんびりとした穏やかな性格、侯爵家という生まれのお陰で誰かと競う事も無く、さしたる苦労も知らずに、健やかに育ってしまったような方。


姉妹格差をする両親のせいで少し親の愛情に飢えていた節はありますが、それを大好きな甘い物を食べる事で埋め、少々ぽっちゃり目なレディーに育ったお母様。

とはいえそれを気にする必要も無い立場にいましたからね。

お母様の体型について口に出せる人間など限られていますし。


まぁ、件の伯爵夫人は当時から貴族位を無視してあからさまにお母様の見た目を揶揄ってらっしゃったようですけど。

本来ならあり得ないその行いも、姉妹の妹にばかり夢中で姉に関心の無かった侯爵夫婦により黙殺されていたのだから、侯爵家とは名ばかりの実に情けない醜態ですわね。


まだお父様を諦めきれずさも自分がお父様の愛人であり、公爵夫人より先にアルムヘイム公爵家の嫡男を産んだかのように噂を広めた伯爵夫人ですが。

勿論こちらもお父様の知るところとなり、怒れるお父様によってその伯爵家は爵位を取りあげられ、取り潰されました。


当然の結果と言えるでしょう。

その伯爵家の爵位は元々アルムヘイム家が保有していたもの。

何代か前にアルムヘイム家の嫡男以外の男児に譲られただけなのですから、本家の家長のとんでもない醜聞(完全なる嘘)を吹聴する夫人がいれば、それは取り潰されても仕方の無い事ですわね(ニッコリ)。

元伯爵夫人はアルムヘイム公爵家に中指を立てた娘など出戻ってきてもらっては困る、と生家にも見放され、夫や他の家族には恨まれ蔑まれてここでも放り出され、行くところもなく平民街の路地裏に流れ着いたそうです。

うふふ、ケーキが無ければパンをお食べになれば良いのですよ?

人間、やろうと思えばどうとでも生きていけるものです。

この世界では年増と呼ばれてしまうそうですが、まだまだ30手前の働き盛りな年齢ですもの。

一生懸命働いて生活を立て直して下さいませね。


そして、問題のシャルロッテ叔母様ですが。

こちらは更にお父様の怒りが激しく。

侯爵夫婦は隠居させられ、甥夫婦に侯爵家は引き継がれました。

シャルロッテ叔母様はまだ未婚であったので、最北の生きていくのも厳しいような、厳格な修道院に強制連行されていきました。


……叔母様も25歳。

この国では十分に行き遅れと呼ばれる年齢になっても、殿方との気安い遊びが辞められず、それなのに公爵夫人の座も諦める気が無かったのでしょう。

そもそもが、侯爵家という身分を求められた縁談だったと勘違いしたままでしたから、それならば(勝手な自分の価値観では)姉より若く美しい自分が選ばれて然るべきと思い続けていたのでしょうね。


婚姻前のお母様をふくよか以上に太らせてみるも、お父様は全く意に介さずそのままそのお母様と婚姻するし、ならば極度に痩せさせて女性としての魅力を奪おうと、手先として潜り込ませた自分の侍女を使って画策し、お父様には有りもしないお母様の想い人の話を吹き込み、お母様には公爵様は本当は自分を選びたかったが、どこにも嫁の貰い手の無さそうなお姉様を不憫に思った両親が無理やりお姉様を嫁がせた、と嘘を吹き込み。

更には、公爵様は醜い妻に我慢ならないから、邸内でも極力目に入れたく無い、と言っている、お姉様も少しは気遣いをなさった方がよろしいわ、と囁き、お母様からのお父様への接触を絶ったりと。


色々忙しなく叔母様が奮闘した結果が、このお父様とお母様の8年間だと思うと、叔母様も大したものだと言わざる得ませんね。


まぁ、純真無垢で穏やか、と言えば聞こえが良いですが、本人以外の語る本人の話などを鵜呑みにしてしまうような、軽率なお母様もどうかと思いますわ。

もっと早くにシャルロッテ叔母様の話の真実をお父様に確認する事は出来たはずですから。


お父様と初めて会って以来、お母様の中に生まれた劣等感を逆手に取った、叔母様の巧妙な心理戦の前では、お母様など赤子同然でしたでしょうけれども。

人の悪意を読み取り、人を疑い、言葉の裏を取るような芸当がお母様に出来れば、こんなに綺麗に叔母様の策略には嵌ってはいない訳で。

ですが、そんなお母様だからこそ、お父様が骨抜きになっている訳ですから、世の中全てが綺麗には収まらないものです。


多分な痛みを伴い、ようやくあるべき夫婦としての形を模索する段階に入れた2人ですから、この先はもう何にも悩まされる事なく、末長く仲良く過ごして欲しいものです。


私にとって、人生初であり最大の佳境はこうして乗り越える事が出来ました。

非力なだけの赤ん坊である私には、両親の問題はダイレクトにこの先の人生に影響を与えかねませんから、乗り越えられて本当に良かったです。

1人傷つけられたお母様には申し訳ありませんが、何とか最小限の被害で免れたように思います。

お母様に何事かがあり、万が一にもシャルロッテ叔母様がこの家に後妻になど入ろうものなら、気に入らない姉の産んだ子であり、この家の嫡男でもない私など、どんな目に遭わされていたんでしょうね………。


………まぁ、私に手を出そうものなら、死んだ方がマシだというような目に遭わせますけどね?


あらあら、私ったら。

赤ん坊にあるまじき発想ですわね、ごめん遊ばせ。


さっ、それでですわね。

皆様、さぞ唯の赤ん坊である私があまりにも色々と知り過ぎている、と疑問にお思いの事でしょう。

いくら中身はシニアとはいえ、お母様やお父様、他の人間の過去まで使用人の噂話から得たのか?

不思議ですわよね。


答えは、否です。


私が詳しく色々と知っているのは、実際に視た、からなのですのよ?

まぁまぁ、赤ん坊が訳の分からない事を言い出したと呆れてらっしゃるでしょうけど、本当に私は視る事が出来るのです。

人の過去を。


ですから、毎朝お母様にご挨拶に行く度、私を抱いていた侍女のロタからシャルロッテ叔母様の事を読み取る事も可能だったのです。

他にも、私付きのメイドの1人が、件の伯爵夫人がまだご令嬢であった頃にその邸で偶然働いていたものですから、彼女から若かりし頃の伯爵夫人がお母様に悪態をつく過去も視させて頂きましたわ。


自分の邸のお茶会に出席して頂いた侯爵令嬢に、その見た目を揶揄ったり、お父様との婚約について悪態をついたり、と。

自分の身の丈も弁えず、よくもそんな厚顔無恥な行いが出来たものです。

何を持ってそんな事が出来たのか。

それはやっぱり、自分勝手な価値観に基づいた根拠の無い愚行としか言いようがありませんね。


伯爵夫人は自分の見た目に随分と自信があったようですから、それを武器に高みに登れると思い込んでいたのでしょう。

あくまで彼女の勝手な価値観でではありますが、お母様に劣る点など自分には無いと思っていたがゆえ、その地位のみでお父様に選ばれた(と彼女は勘違いしていた)お母様に身の程を弁えるようにと再三忠告(?)していましたからね。


本当に、どこにでも己の分を弁えない人間はいるものです。

自分勝手な理屈で人を格下に見下したり、自分の杓子定規で下と認定した人間には何をしても良いと勘違いしていたり。


前世でもそのような人間を何人か見てきましたが、そういった人間は人に尊重される事もなく自業自得で裏ぶれていくものです。

伯爵夫人の例がまさにそれですわね。

生家からも夫やその家族からも見放され、貴族のご令嬢育ちには厳しい環境に放り出されたのですから。


シャルロッテ叔母様もまた然り。

金髪碧眼で華奢な見た目に、人より幼い可愛らしい容姿。

これだけが彼女の人より優れた、また最大の自己肯定感に繋がる要因でありました。

両親に愛される事は当然として、周囲の殿方にも大変好まれ、自己顕示欲がぶくぶくと超え太った結果が、公爵家の夫人として君臨する妄執へと変貌した訳です。


両親の態度の違いにより物心つく頃には姉であるお母様を格下に見ていましたから、社交界トップの縁談が自分の物にならなかった事がどうしても納得いかなかったのでしょう。


だからといって、実の姉であるお母様をあそこまで追い込む所業など、普通は出来るものではありませんが。


勝手な価値観で格下と決めつけている者が、自分より上の立場になると、普通では考えられないような嗜虐性を露わにする方も偶におられますが、シャルロッテ叔母様がまさにそれだったのでしょう。


さて、自業自得で勝手に落ちぶれていった2人の女性の話はこの辺にして。

私の人の過去を覗き見る能力ですが、これはこの世界に生まれた時に授けられた、何でしたっけ?こういうのを何とかと言いましたよね………。

ああ、そうそう、チート?能力。

そう、そのチート?能力というものでは、残念ながらございません。


この力は、前世から使えたものですから。

あら?スーパーおばぁちゃんですか?

うふふ、ありがとう。

前にも言いましたが、私は何度も輪廻を繰り返しています。

いえ、皆様も記憶に無いだけで、本当はそうなのかもしれませんよ?

とにかく、何度も生まれ変わった訳ですが、この力はいつも私の中にありました。

他にも、ほんの少し未来を読む事も出来ます。

不思議な力かもしれませんが、私にはごく当たり前の力なんですのよ。


私が前世とは違うこの世界に生まれ変わった今世での能力は、ズバリ〝魔法〟です。


この世界には魔力を持つ人間が普通に存在するようです。

そしてその魔力で魔法を使う事が出来るのです。


私の生まれたこの帝国では、魔法は庶民にまで行き渡った当たり前の力のようですわ。

魔法大国と呼ばれ、大陸一の国で有り続けているのも、この〝魔法〟のお陰みたいですね。


魔法には属性が有り、それは風、水、火、土に分かれます。

そして希少性の高い光。

更に希少な闇。


そして、私に与えらた属性ですが、この〝全て〟です。


はい、全て。

風、水、火、土、そして光と闇。

全ての属性が私の中にあります。


チート?ですか?

なるほど、こういった事をそう呼ぶのですね。

ところで、この世界にはもう一つ、とても特別な属性がありまして。

それが聖属性です。

光のはるか上に位置する力ですわね。


はい、私、持っています。

聖属性。


えっ?チート、ですか?

まぁまぁ、ごめんなさい。

こんなおばぁちゃんには必要無いですものね。

ですが、私が7属性全てを備えて生まれてきた事は、もう必然でしか無いのです。

この属性全てを持ってして、与えられた使命を全うするしか無いのですから。

チート?かもしれませんが、それには意味があるのだと思って頂ければ幸いです。


私のこの先の人生の目標は、与えられた使命を果たす事、とそれともう一つ。

前世で夫であった大事なあの人を探し出す事。

何度生まれ変わっても必ず出会い、愛し合ったあの人を、今世でも探し出して私のものにしなくてはいけません。

あの人無しで私の人生は語れませんからね。


今はまだ力の無い私ですが、これから力をつけて使命を全う出来るように邁進していきますわ。

皆様どうぞよろしくお願いいたします。



あっ、そうそう。

シャルロッテ叔母様の侍女であったロタですが、シャルロッテ叔母様の手先としてお母様の健康を害したばかりで無く、他の使用人達を裏で操り、お母様を軽んじさせたり、目の前で心無い噂話をさせたり、と。

随分暗躍して、お母様を憔悴させ、体を壊させて、一度の出産で子を産めない体になる程追い詰めて下さりましたので、お父様により粛清されました。

ロタの言葉に踊らされてお母様を軽んじていた使用人達の目の前で。


怯え切った他の使用人達は、2度と口をきけず文字も書けないように、喉を潰され指を全て切り落とされたようです。


残虐ですわよね。

ですが、使用人という立場で公爵家の家長の妻を軽んじるなど、本来あってはならない事ですから。

お父様が大虐殺を行わなかっただけでも、十分に温情ある措置だと、他の使用人達はちゃんと理解しているんですよ。


ですが、毎朝ロタに抱かれてお母様への朝の挨拶をしていた私にしか分からない事ですが、ロタにも迷いや恐怖は当然ありました。

畏れ多くも公爵夫人に対して、自分のやっている事は到底許される事では無い、と理解はしていたようです。

それとは別に、同じ女性として、シャルロッテ叔母様に命じられるがまま自分がお母様にやっている事は鬼畜の所業と自覚もしていたようですね。


穏やかで健やかだったお母様が、毎朝私を罵る程に変貌してしまった事にも、自分のやってしまった事への恐怖を感じていました。

せめてもの自分への慰めとして、お母様からまだ赤ん坊である私を守る事で、何とか罪から逃れようと足掻いていたようです。


シャルロッテ叔母様の乳母から、貴族でも無いのに侍女まで上り詰めた方ですけど、それ故、叔母様から逃げる事が出来なかったのでしょう。


神の御許に召された彼女が、どうか心の安寧を取り戻してくれている事を願うばかりです。


あら?

過去や未来を視るだけで無く、相手の気持ちまで読めるのかって?

うふふ、はい。

そうなんですの。

私ちょっと、スーパーおばぁちゃんだったんですのよ。

ちなみに、生まれ変わる度に様々な動物の姿になって常に傍にいてくれた子は、神様の分身で御使だったりしたのですけど、まぁ、その話はまた今度に致しましょう。


私のお守りの任から解放されたタロちゃん。

今世では一体どんな姿になって私に会いに来てくれるのかしら。

それも、この人生での楽しみの一つですわね、ふふふ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ