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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.33


さて、カインも無事に私の元に戻った事ですし、問題をこれ以上ズルズル引き伸ばす気はありません。

なにやらアメリアさんと殿下も企み事をしているようですし、丁度都合も良いのでサッサッと片付けてしまいましょう。


なんの因果か公爵家の令嬢として生まれてしまったばかりに、随分と余計な問題事も抱えてしまいましたが、十二分な恩恵も受けている身、貴族としての役割を放り出す訳にもいきませんから。

この帝国の問題事を解決してから、存分に赤髪の魔女として暴れまくってやりましょう。

カインとの婚姻も陛下に認めてもらわなければいけませんし。

やる事はまだまだ山積みなのです。

瑣末な問題にこれ以上時間を取られる訳にはいきませんものね。


何にしても、今の私は機嫌が良いのです。

今なら誰のどんな失態も、許して差し上げれる気分ですわ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「エブァリーナ・ヴィー・アルムヘルム。

公爵家令嬢という立場を笠に着て、か弱き1人の女生徒を虐げてきたその罪を、今この場で私が裁いてやろうっ!」


…………前言撤回いたしますわ。

誰のどんな失態も許す、と言いましたが、ええ、撤回いたします。


3年生の卒業を祝うパーティが開かれている学院の大ホール、の高みから私を見下ろすこの国の王太子殿下を前にして、私は自身の発言の早期撤回を余儀なくされていました。


アメリアさんを真ん中に、殿下とエイデン卿、ブライト卿、そしてその後ろにカインを従えて、大ホールに続く踊り場から私を見下す面々。


………なるほど、最近アメリアさんが陛下と企てていたのはコレですのね。

だいたいは察しがついていましたが、実際にやられると何故かしら、とても腹立たしいわね、コレ。


瞬時に状況を悟ったビリーとマーニーが私の両脇に並び、彼らに良い印象をもっていない生徒達がその後ろに並び、一斉に彼らを見上げ睨みつける。


あらあら、呆れた。

仮にもこの国の王太子殿下だというのに、この人望の無さは問題ですわよ、殿下。

皆の意外な反応に面食らってたじろいでいる場合では無いのではないですか?

いつまでも馬鹿みたいに高い場所で踏ん反り返っていないで、私に話があるなら降りて来ればいいのに。


心から蔑み切った私の表情は、幸いな事に半顔の仮面のお陰で殿下その他には見えていないようで、彼らは皆の反応にたじろぎつつも、気を取り直して咳払いをしつつ、階段から降りてきた。


殿下に手を取られながら、しゃなりしゃなりと一歩づつ階段を降りるアメリアさんは、既に皇后にでもなったかのような勘違いした態度で、下のホールに集まる私達を見下した目で見ていた。


一国の皇后たる者が、これだけの貴族の令息令嬢達を前にして、そんな目で見下す訳がありません。

威厳を持って、優しく穏やかに包み込むように、慈愛の溢れた眼差しくらい出来なくては、とてもでは無いけれど皇后など務まりませんよ?

はい、やり直し。


と、ダメ出しリテイクを入れたいところですが、彼女にそんなものが通じない事は重々承知していますから、余計なお節介はやめておきましょう。

久々にシニアな部分が疼いてしまいましたわ、うふふ。


やけに勿体ぶって降りてきた彼らですが、シンと静まり返ったホールで、白い目で自分達を見つめてくる生徒達に再びたじろぎ始め、キョロキョロと忙しなく周りを見つめている。

そんな男性陣に痺れを切らしたのか、アメリアさんが苛立ちながら指を鳴らすと、更に7、8人の男子生徒が殿下達の後ろに並び、私をキツい目で睨み付けてきた。


その彼らの幼い殺気にカインがピクリと反応して、帯刀した剣をカチャリと掴み、圧倒するようなオーラを放つと、男子生徒達は怯え切って涙目になり一斉に下を向いてしまう。


………あの人、あそこで何をやってるのかしら?


呆れ返りながらカインを見つめていると、自分の後ろで今起こった事を知りもしない殿下が、ビシッと私を指差し、蔑むような声を出す。


「エブァリーナ嬢、君はとんでもない事をしでかしてくれたね?

ここにいるアメリア嬢が、私の寵愛を受けている事に、たかだか婚約者候補でしかない身分で、卑しくも嫉妬して彼女に嫌がらせをしてきたそうじゃないかっ!

全てアメリア嬢から聞いていて、私は知っているんだっ!」


ビッシィッ!と私を指差すその指先から聞こえてきた気がしましたけど、今ちょっと待って頂けます?


「カイン、貴方もういいわ」


殿下を丸っと無視して、呆れ声でカインをチョイチョイと手で呼ぶと、カインはササッとその集団から抜け出し、光の速さで私の後ろにピタッと引っ付いた。


う〜ん、背後に猛獣を従えるだなんて、これでは本当に私の方が悪役みたいね。

まぁ、あまり否定も出来ませんけどね。


「ちょっ!カインッ!なんでそんな女のところに行くのよっ!」


その時、アメリアさんが悲鳴のような声を上げて、殿下並びに彼女に夢中になっている男性陣は目を見開きそんなアメリアさんを見つめた。


殿下側もシンッと静まり返り、その場が微妙な雰囲気に包まれる。


それもその筈、アメリアさんの本命は、殿下でも他の殿方達でも無く、カインなのですから。

アメリアさんがその立場や権力から見て1番に寵愛しているのは間違いなく殿下です、が、男性として1番手に入れたかったのはカインでしょう。

爵位や資産など打算的な部分を取り除いても欲していたという訳です。


当のカインの方は、あくまで殿下の専属護衛騎士として、殿下の寵愛するアメリアさんにそれなりの態度で接してきたのでしょうが、度重なる彼女からの誘惑には一切乗らず、彼女と親密な関係になる事はありませんでした。

それもその筈、カインには既に私という番の存在がありましたし、私とカインは獣人の番以上の絆で結ばれていますから、彼女如きの力でどうこうなど出来よう筈がありませんもの。


ですがアメリアさんは、なかなか手に入らないカインを殿下と婚姻した後に、ゆっくりと落とそうとでも思っていたのでしょうね。

カインは殿下の専属護衛騎士ですから、基本いつでも殿下の側で警護をしています。

であれば、皇太子妃である自分とも自然と接触が増える。

そうなればカインを落とす事などいとも容易いと舌舐めずりしていた筈です。


本当に、残念でしたわね、アメリアさん。

貴方がカインの容姿に夢中である事、カインの騎士としての強さに夢中である事、他のどの殿方とも違い、自分に簡単に落ちないカインにずるずるとハマっていった事。

同じ女性ですから、私には分かっていましてよ。


ですがカインは私のものですから、お譲りは出来ませんわ。

例え貴女でも、いいえ、どんな相手であろうと。


コォォォォッと冷たい冷気を放つ私にアメリアさんは怯え切って腰を抜かし、その場でガタガタと震え出してしまいました。


「アメリア嬢っ!大丈夫かっ⁉︎

おのれ、エブァリーナ・ヴィー・アルムヘイム………可憐なアメリアに一体何をしたっ!」


私の気迫に押され腰を抜かしたアメリアさんの手を取り、立ち上がらせ、その体を密着させつつ支えながら、殿下は私をキツく睨みましたが、それに私の後ろからことの成り行きを見守っていた生徒達からザワザワと疑問の声が上がりました。


「いや、何をしたって、何もしてないよな?」


「うん、エブァリーナ様は一歩も動いてないし、アメリア嬢に向かって何も言ってない」


「一瞬会場が寒くなったけど、空調の不具合までエブァリーナ様のせいにするつもりか?」


「アメリアさんが勝手に1人で倒れただけなのに、エブァリーナ様のせいにするだなんて」


「倒れたというより、腰を抜かしていたわね。

今更エブァリーナ様の高貴さに怖気ついたのかしら?」


クスクスという笑い声が上がると、体を密着させ支え合っているアメリアさんと殿下は顔を真っ赤にし、他の殿方達は何がおかしいのか?と不思議げに首を傾げている。


「んっ、コホンっ。

それで、殿下が仰りたいのはつまり、どういう事でしょうか?」


自分には全く非がないという顔をして、私は咳払いをして殿下を真っ直ぐに見つめた。

ええ、何も後ろめたい事などありませんわよ?

だからほら、殿下の目だって一点の曇りもない目で見つめられますわ。

例え、赤髪の魔女である私の魔力と覇気でか弱い令嬢であるアメリアさんが腰を抜かせたのだとしても。

殿下からの、私がアメリア嬢に何かをしたのだという指摘が、まさかの正解だったとしても。

正解だったというのに殿下とアメリアさんが、皆様に誤解されてクスクス笑われる事になってしまったのだとしても。


ええ、私は平気です。

何の後ろめたさも感じませんわ。

だって私、悪役ですからね?

そうなんでしょ、アメリアさん、殿下?


ふふっと不敵な笑みを浮かべる私に、アメリアさんも殿下もカッと顔を赤くして、その顔に苛立ちと怒りを浮かべた。


「どういう事だなんてっ、白々しいっ!

君はそんな顔になってもまだ、僕の婚約者候補から退かなかった程の図々しい人間だからなっ。

僕に愛されるアメリアが邪魔で仕方なかったのだろうっ。

彼女にした数々の嫌がらせ、見過ごす訳にはいかないぞっ!」


すっかり皇太子殿下らしい口調から本来の口調に戻ってしまっている事に、本人も気付いていない様子だった。

私が僕に、アメリア嬢がアメリアに。

いくら恋人関係にあるとはいえ、人前で貴族令嬢を呼び捨てにするなど、皇族のする事ではありませんわ。

もっと品良くなさらないと。


心の中で殿下にダメ出ししていると、殿下はなおも怒りを滲ませ言葉を続けた。


「それに君は卑劣にも、今現在アメリアを拉致監禁しているではないかっ!」


いきなりの物騒な話に、周りがザワザワとざわつき始める。

その反応に殿下は鬼の首を取ったかのようなどや顔で、私を見下すような目で見つめた。


「まぁ、拉致監禁だなんて、穏やかではありませんね。

一体、何のことかしら?」


首を傾げる私を蔑むように上から眺めながら、殿下は唇の端を醜く歪めてみせた。


「よくもそれだけシラを切れるものだ。

厚顔無恥もはなはだしいな。

いいか、僕はアメリアに聞いて既に知っているんだ。

娘が傷ものになり使い物にならないと判断したアルムヘイム家は、僕の寵愛を一心に受けるアメリアに目を付け、養女にしようと動いた。

僕からの愛に加えて、公爵令嬢という立場があれば、アメリアが皇太子妃になるのは確実。

長く家門から皇后も皇子妃も輩出出来ていないアルムヘイム家は、今回は必ず自家から皇后を出そうと息巻いているって訳さ。

アメリアなら身分さえ与えれば僕の皇太子妃として選ばれる事は間違いがないからね。

だがそれをよく思わなかった君が、帝都から離れたアルムヘイム家の邸にアメリアを無理やり拉致し、監禁したんだっ!

アメリアはこうして僕が無事に保護したけど、君のやった事は犯罪だぞっ!

いくら君が公爵家の令嬢であっても、到底許される事では無いっ!」


アメリアさんを庇うようにその胸に抱きしめながら、こちらをキッと睨みつける殿下。

その胸の中でシクシクと儚げに涙を流すアメリアさん。


その殿下の話を聞いて、周りが俄かにザワザワとざわつき、私に疑惑の目が集中する。


ああ、なるほど。

確かによく出来たお話ですわ。

真実味もありますわね。

だって、普通ならさっき殿下の言ったような流れになっていても、おかしくはないのですからね。


つまり、傷ものになった私をアルムヘイム公爵家が身限り、確実に皇太子妃になれるであろうアメリアさんに白羽の矢を立てる。

公爵家であれば、それくらいの事当然にやるでしょう。

自分の家から皇后を輩出すれば、殿下の治世の元でも権力と実権を握られるでしょうし。


それに、傷ものになった途端、家族から用済みとばかりの態度を取られた令嬢が、殿下に愛されるアメリアさんを拉致して邸に閉じ込めた、という話の方が現実味があります。


ふむと感心してアメリアさんと殿下を眺めていると、アメリアさんが殿下の胸から顔を上げ、儚げな涙をハラハラと流し、皆に訴えるように気弱そうな声を出した。


「もう、これ以上の罪は重ねないで下さい、エブァリーナさん。

私が貴女から何もかもを奪った事が悪いのは分かっています。

でもこんなやり方、間違っているわっ!

私はアルムヘイム公爵家に認められて、養女にと請われているんです。

それを貴女がどんなに反対しても、もう何も変わらないのっ!

もう、アルムヘイム公女は私なのよ、貴女じゃない。

無理やり殿下の婚約者候補でいようとするのも、もうやめて下さい。

貴女のその見た目では、決して皇太子妃になどなれる筈がないのですからっ!」


感極まった様子で喉を詰まらせながら、切々と訴えるアメリアさんの話に、また生徒達がザワザワと騒めく。

中にはアメリアさんがアルムヘイム家の養女となるという話が出ている事を全く知らない生徒もいるのでしょう。

一体どうすれば良いのか分かりかねるという表情で、私とアメリアさんを困惑した目で見つめている。


まぁ、たかだか男爵令嬢如きがと思っていたのに、いきなり公爵家の養女になるというのですもの。

先々の事を考えれば、傷もの令嬢よりも、例え養女であろうと公爵令嬢になり、ゆくゆくは皇太子妃になる可能性のあるアメリアさんに遜った方が良いのではないか、と考えるのが自然な事です。


なかなかに正攻法ですわね。

ちょっと意外でしたわ。

先々の事を考えれば、クリーンなイメージは欠かせませんものね。

出来れば勧善懲悪という体で私を何とか出来るのが理想的でしょう。


さてさてこれは。

せっかくだからお二人の気持ちに添いたいという気持ちにもなってきましたね。

2人の描いた物語通りなら、そして2人は末長く幸せに暮らしました、めでたしめでたし、となるのでしょうけど………。


でもやっぱり、この国を任せるには2人とも、あまりにも力不足が過ぎるわ。

一瞬面倒臭くなってきてしまったけど、いけないいけない。

この2人にはこの2人の、立派なお役目があるのですから、それを全うして頂かなければ。


キィィィィィィッ!覚えてらっしゃいっ!的な役に回った方が良いのかしら、と、楽な方に流れそうな自分を律して、私は居住まいを正し、真っ直ぐに2人と対峙する事にした。




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